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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
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第11話 怪異を狩る怪異

標戸しるべのトンデモ都市伝説】番外編『怪異退治のクロユリさん Part1』~呪いの人形と三叉槍女子高生~

 更新日 2015年8月9日 / 公開日 2015年7月1日


 怖い話には時折、頼りになるお坊さんや胡散臭い祓い屋の男が出てくる。

 それは呪いを受けた投稿者にお祓いをして事態を解決に導いたり、力及ばず挫折したり呪い殺されたりして、怪異の恐怖を演出する存在。

 怪談界隈において彼らは舞台装置の一つであって、『自分から夜の街に出向いて片っ端から悪霊や妖怪を退治する』、主人公のような存在ではない。


 ……彼女、【クロユリさん】を除いては。


 今回は怪談の聖地として知られる標戸のトンデモな都市伝説、その番外編として【怪異退治のクロユリさん】を取り上げる。

 まずはネット掲示板に実況形式で投稿されていた怪談をご紹介しよう。



 標戸のある寒い冬の夜のこと。男が()()()()()()()()()()()家路を歩いていた。


 ふと、足音がした気がして後ろを振り返るが、誰もいない。


 聞き間違いだ。そう言い聞かせて再び歩み始める。

 寒いから早く帰ろうと彼女にも急かされる。


 しかしいくらか歩いているとやはり。

 こつ、こつこつ、こつ。足音が一つ多く紛れている。

 彼女は腕の中にいて歩いていないので足音がするはずがない。


 意を決して、自分のものでない足音が聞こえた瞬間に後ろを振り返った。


 すると、二つ向こうの十字路から女が首だけを出してこちらを覗いている。

 長い黒髪で顔を半分隠した、黒いセーラー服の少女だ。


 時刻は深夜。学生が歩いているはずはない。

 しかし少女が浮かべる無機質な微笑みは何かの見間違いにはとても思えないリアルさがあった。


 そしてその顔がある位置は。

 ()()()()

 まるで虫のように塀に足を突き立てていないと説明がつかないような位置と角度で、少女はこちらを見ていた。


 見てはいけないものを見たかもしれない。

 男はすぐに向き直って歩調を速める。


 寒い、寒い、早く帰ろう。

 彼女も男をせかしてきた。


 ああ、早く帰ろう。安全な家に帰ろう。


 寒い家はいや。あったかい家がいい。


 ああ、家に着いたら、すぐにあったかくしよう。


 ()()()()()。あったかい家がいい。


 ああそうしよう。早く帰ろう。早く帰ろう。


 ()()()()。あったかい家がいい。あったかい家に帰りたい。


 ああ。燃やすとも。家を燃やす、家を燃やす、家を燃やす、家を燃やす。



 あとでわかったことだったが、男は正気ではなかった。

 ゴミステーションで拾ったフランス人形を腕に抱きかかえていた。

 その人形を彼女だと思い込み、人形に促されるまま自宅に火をつけるつもりでいたのだ。



 男はほとんど走り出して家路を急ぐ。速まっていく鼓動、その外から、タタタタタタタタタッ、駆ける足音が聞こえる。

 まずい、追いつかれた!


 振り返った男の視界には髪を振り乱して迫る黒セーラーの少女の顔。



 そしてその手には、鈍い光を放つ()()()が握られていた。



「はあああっ!?」


 突然出てきた物騒な武器に思わず驚愕した男がつまづいて転んだ瞬間。


 腕を離れたフランス人形の彼女を、黒い少女の三叉槍がその枝で器用に絡めとり。

 遠心力で壁に叩きつけ、流れるような振り回しで人形の首と胴を切り分けた。


 すると。たちまち男は正気を取り戻し、今まで彼女だと思っていたモノの不気味さに慄く。


 家に火をつけろ。


 そう囁いてきた薄汚れたフランス人形の恨めしそうな碧眼がまだ男を見ていた。


「もう大丈夫だよ」


 その眼をバキャリと槍で叩き壊す、黒地に白のリボンをつけたセーラー服の少女。


「じゃあね」


 怪異のようにめちゃくちゃなその少女は事もなげに手を振って別れを告げると、可憐な後ろ姿をしばし残したのち、夜闇の中へと消えていった。


 あれは一体、なんだったのだろう?



 これが後に、ネット掲示板を中心に語り継がれる最強の怪異退治少女。

【怪異退治のクロユリさん】、その最初の目撃談であった。



 ◇



 他にも神社に弓を持って現れたり、十字路で幣の付いた棒を振り回していたり、廃墟から錫杖を突きながら出てきたり。バリエーションに富むたくさんの体験談が語られていた。


 そのどれもが『不気味な体験をしている最中にもっと不気味な少女が現れた』、『しかしどうもその少女は人間の味方で、助けてくれたらしい』という趣旨で共通している。

 黒くて長い髪に黒いセーラー服という容姿、そして荒々しい登場とは一転凛とした姿を印象付けて去るところから【クロユリさん】というあだ名がつけられたようだ。


 気づけば辺りは夕陽に染まって、駅前の喧騒は遠ざかり、歩きついた住宅地には二人以外誰もいない。スマートフォンのブルーライトがぼうっと深衣の顔を照らしている。

 クロユリさんに促されるままスマホのブラウザで彼女の名前を検索し、その都市伝説の数々を知ることとなったのだった。


「怪異を狩る怪異……」

「言ったでしょ みんなに噂された怖いことが現実になる」


 うそ現実ほんとうになった存在【都市伝説怪異】。

 彼女がそういった生まれであるということは確からしい。

 それは呑み込めたのだが、しかし。


「……三叉槍?」

「あるよ」

「え、わっ!」


 インパクトを受け止めきれないでこぼれた呟きに、クロユリさんはどこからともなく取り出した身の丈ほどの長さの三叉槍を見せて答える。


「わたしは 怪異を狩る怪異 そういう伝説に定められた存在だから そのための道具も使えるの」

「す、すごいのです……、あっ!」


 深衣の脳裏を痛みなき閃光が駆ける。

 それは素晴らしい思いつきだった。

 最高の巡りあわせであり、神様の采配であると思った。


 つまりそれは、深衣が今最も頭を悩ませている『呪い』の解決となること。


「あの、クロユリさん!」

「なあに?」

「実は、あたし、倒してほしい怪異がいるのです……!」



 深衣はクロユリさんに事のあらましを伝える。


 夏休み最終日、それまで単なる噂だと思っていた存在……都市伝説怪異【人生破壊光線女】に襲われたこと。

 二つの呪縛、『共感の呪い』と『いい子の呪い』を掛けられてしまい、このままでは死に至るだろうこと。

 生き延びて『いい子』になるために、二つの呪いを解く方法を深衣は探していたこと。


 そしてその最も適した解決策は、【クロユリさん】に違いないということを。

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