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都市伝説少女  作者: 龍田乃々介
第一章 人生破壊光線女
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第1話 人生を灼いた光

「なんで……あたしが、こんなっ……目に……っ」 


 ウリ科植物のタイムラプスのようにむくむくと膨らんでいく、アニメキャラクターの着ぐるみのような、無機質な女の顔。

 頭の両側で分けた金の蓬髪は帳のように下り伸びて、逃げられたかもしれない脇を塞ぎ。

 ぶちぶちと音を立てて裂け開いた口の、露出した大小様々の乱杭歯と赤黒い舌がその獲物に影を落とす。


 ……その化け物の首から下は、不似合いなフリルをふんだんにあしらった白とピンクの、『魔法少女』のような服。


 袋小路に追い込まれた憐れな女子高生の脳裏に、友人たちのたわいない噂話がよぎった。



 ──「知ってる? ()()()()()()()


 教科書に落書きをしながら唐突に切り出すリコ。


 ──「あー知ってる知ってる! 燦宮(さんみや)の交差点に出るってやつでしょ?」


 カバンを漁りながら答えるエミ。

 そして。


 ──「あたし知らなーい。なにそれ」


 爪先ほどの興味もなかった彼女。冷杯(れいばい)深衣(みい)


 いわく。

 その女は春先から燦宮を中心に目撃されるようになった、魔法少女のコスプレをした変質者らしい。


 信号待ちの交差点の向こうや、飲食店の窓を隔てた向こう……気づくと何かを挟んだ向こう側に立っている。

 ぼさぼさとした金髪ツインテール、先端に紅色のハートをはめ込んだステッキを持って、大きなリボンが目を引くフリルの衣装に身を包んだ……三十代前後のコスプレ女。

 その着ぐるみのように無感情な水色の瞳は、あなたの視界に現れたその瞬間からずっと、あなたの目を見ていて。

 真っすぐこちらへ向かってくる。

 あなたの方へ歩いてくる。

 魔法少女は認識阻害の魔法を使う。隣の友人に縋っても、道行くお巡りさんに頼っても、彼らはあなたに気づかない。

 どんどん迫ってくる魔法少女服の女。もちろんあなたは走って逃げるが、どれだけ走っても、どこへ行っても、ヒールの音は近くなるばかり。

 走って、走って、走って、走って。

 いつの間にか、人のいない場所に迷い込む。

 壁際に追い詰められ、正義のヒロインの格好をした女が十字路の向こうからやってくる。

 もうどこにも逃げ場がないというところまで追い込むと、女はおもむろにステッキを掲げこう叫ぶのだ。



人生じんせええぇえええぇえ……、破壊はかいぃいいいぃいいい?


 こうせぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇん!!!!!」



 「……どーなんの? それ食らったら」

 「なんか、人生破壊されるらしい」

 「ハッ、あほくさ」

 「えー? 怖くない? ウチほんとに会ったら泣いちゃうかも、フッ、フフ」

 「もーやめなよー。そーゆーこと言ってると来るらしいよそーゆーのがー。っく、ハハっ」


 教科書に落書きをして、カバンの中身をぐちゃぐちゃにひっくり返して。

 できあがったゴミが机の上にこれ見よがしになっている光景に鼻を鳴らして、冷杯深衣たちは自分たちの席へと戻る。

 席に座って、その机の主が戻ってきたときの反応を想像して、邪な歓びを歪な心にうきうきと躍らせる。

 それは夏休みが始まるまで二か月以上続いていたこと。


 彼女たちはいじめを楽しんでいた。



「良い子になろう 良い子になろう 良い子になろう 良い子に 良い子に 良い子 良い子 良い子 良い子」


 瓜のように楕円形に膨らんだ頭部を響く声。


「共感 共感 共感 共 いた 痛み 痛み 痛い 痛い 痛い 痛い わかる?  痛いの 痛いの 痛い 痛い 痛い痛い良い子良い子良い子良い子良い子良い子」


 人間未満の知性が繰り出す意味を成さない言葉の羅列。


「じ っじじじじじじじじじ じぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい」


 いつの間にかそれがけたたましいサイレンのようになり。

 何かを蓄積していくかのように音量を増していくその唸り声は。

 やがて。


「いいいいいいんんせえぇええええええええええええええええぇえ……」


 人の生をまるごと焼き殺すに足る熱量をその喉へと集め。


「はぁかぁああいいぃいいいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーー?」


 精神活動一切を壊し尽くすに足る光量をその口内に蓄え。


「こうせぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!!」


 放つ。


 光速の痛み、発火する全神経。

 純白に染まる瞼の裏、焼け付くバケモノの裂けんばかりの笑い顔。



「いやああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



 ……絶叫が響いたのは、柔らかな朝日がカーテンから零れる穏やかな部屋。

 メダルとトロフィーと賞状が丁寧に飾られた、冷杯深衣の部屋だった。


「……ぁ、っは……ぁ、……ぃ、ゆ、め…………?」


 最悪。なにいまの、ひっどい夢。まばたきの裏にまだあの顔が見える気がする。


 それほどの悪夢……そう納得しようとした。

 しかし。


 「いたっ」小さな声が思わず漏れる。

 寝起きの体にひりひりとした痛みが走っていた。反射的にその場所に手をやる。


「…………いつっ、えっ……?」


 肩、から腕、手の甲まで。首元と、反対側の腕も。

 立て鏡を見る。セミロングの黒髪を左側だけ止めるアメピンは外し忘れて昨夜のまま。ゆえにその痕はくっきりと、左右非対称に焼き付けられていた。


「や、けど……?」


 ひどい日焼けをしたような赤い肌。

 脳裏に、たわいない噂話の存在がよぎる。


【人生破壊光線女】


 頭の中で結びつく、過去の噂と今の自分。


「あ、れが、人生破壊光線女……?」



これは、怪異の光に灼かれて人生を壊された少女の物語。

そして、光に呪われた少女に寄り添う闇の怪異の不出来な逸話。


いびつたたえた少女と怪異の、昏くてやさしい怪異譚。

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