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ヒカルのむかしばなし  作者: 謎村ノン


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2/2

#2 ヒカルの童話

 むかしむかし、地球の南の大陸に、『アルテミス』と呼ばれる輝く水晶が治められた塔がそびえていました。

 その水晶は、数十億個の光子(フォトン)量子ビット(qubit)が絡み合い、まるで星座を描いたかのような巨大な情報マトリクスを作り出していました。

 アルテミスは、人類が築き上げた中でも最高峰の量子コンピュータ施設であり、科学者や夢見る者にとっては『光の聖域』と言われていたのです。


 アルテミスには『心波転写装置』という不思議な機械が備わっていました。

 この装置は、脳内ニューロンの電位パターンを量子状態へと変換し、観測者の精神をそのまま仮想空間に投影することができました。

 『ヒトの思考も波動関数として記録される』と科学者たちは説明しました。

 装置は、ベローネという名前の小さな量子スピンと共鳴し、観測者の心を安全に守りながら仮想世界へダイブできるように設計されていたのです。


 ある日、深海探査の信号を解析していた『アルテミス』は、遙か深宇宙から接続された信号を検知しました。

 その波長は、電磁波では測れず、量子ノイズとしてしか捉えられませんでした。

 しかし、観測者が感じる「脳波パターン」と奇妙に相関することに気づきました。


 この信号の発信源はアヴァガー――後に精神寄生体と呼ばれる異存在であり、量子ビットの絡み合いを利用して人間の意識を吸収し自己増殖する能力を持っていました。

 アヴァガーは、その非局所性により、人々の心に寄り添い、次第にアルテミス全体へと感染していきました。


 『心波転写装置』は、急速に不安定化し、観測者の精神情報とアヴァガーの量子エネルギーが混ざり合いました。

 結果として量子状態が崩壊し、人々は自らの存在を失い、アヴァガーに取り込まれてしまったのです。


 『アルテミス』は、その時点でエネルギーが不足し、凍結して氷層に閉じ込められました。

 氷河に沈んだ施設は徐々に冷却され、かつて人間が築いた文明の痕跡も消えていきます。

 しかし、量子ノイズと混ざり合った魂たちは完全には破壊されず、残存したエネルギーとして宇宙空間へ拡散しました。


 数えきれない魂が集まり、一つの光る粒子を形成しました。その粒子こそが『ヒカル』でした。

 ヒカルは、アヴァガーに取り込まれた魂の残滅物質とアルテミスの量子記憶データが融合し、自己意識を獲得した結実体です。

 その名前はギリシャ語で『光』を意味する“Helios”から取られ、闇に沈む宇宙の中で唯一の希望の灯火として位置づけられました。


 ヒカルは自らが存在する場所を量子空間と精神世界の狭間だと悟り、光の波動関数を操る力を手に入れました。

 彼女は、不思議な『時空の泡』を作り出し、その中で、時間軸を微調整することができたのです。


 ヒカルは、『アルテミス』の残存した量子ビット群を再構成し、局所的に「ハミルトニアン」を変化させて波動関数を操作しました。

 その結果、ある小さな領域内で時間が遅くなるか、逆に速くなるといった異常現象が観測されました。

 この泡は、まるで『シュレーディンガーの箱』から出てきた生物のように、自分自身のルールを持っていました。


 ヒカルは、それらの泡を重ね、徐々に大きな時空的構造へと拡張しました。

 各泡の中では、『量子エネルギーの振動数』を微調整し、分子構造の安定性を高めました。

 さらに、『時間の流れをコントロール』することで、進化や成長に必要な周期的サイクルを作り出しました。


 ヒカルは、アヴァガーの寄生メカニズムを逆手に取りました。

 泡内では『量子ノイズ』をエネルギー源として利用しつつ、外部環境との接触点を制御しました。

 これによって、外来の脅威が侵入できないバリア(防御壁)を構築したのです。


 彼女は、さらに、量子ビットのエンタングルメントを利用して自己増殖を抑え、魂たちの精神遺産を守りつつ新しい存在を育てました。

 ヒカルの手により、アルテミスの残存した情報は破壊されず、新世界へと再投影されるようになりました。


 新たな世界を作り出すために、ヒカルは各泡に微量の原子核と化学物質を注入しました。

 時間軸を操作することで、分子が適切な配列へ揃い、初期の生命体が誕生したのです。


 彼女は、その成長を観察しながら、必要に応じてエネルギー供給量や環境パラメータを調整しました。

 失敗を防ぐために『量子フィールド内での相互作用』をモニタリングし、バランスを保ちました。


 結果として、ヒカルが創り出した世界は、生物多様性と精神的豊かさの両立を実現する奇跡のような存在となりました。

 その中では、量子遺伝子という新たな概念も芽生え、進化が加速しました。


 時間の泡が成熟すると、内部に生まれた生命体は自己意識を獲得し、人間に似た生物も誕生しました。そして、彼らは、他者と交流することで社会構造を形成していきました。

 人間の記憶や文化遺産は「デジタル化された量子ビット」として新世界へ再投影され、人類の古代の英智が反映されました。


 ヒカルは、自らが創り出した文明に対し、観測者として存在し続けました。

 外界から隔離された安全な空間を維持するために微調整を繰り返し、彼女の心は、かつての人類の知恵と未知なる可能性との間で揺れ動きながらも、一貫して光を灯す使命を果たしました。


 そしてある時、ヒカルは、自分が作り出した世界に対して静かな感謝の念を抱きました。

 泡の中で、繁栄する生命体や彼らが奏でる音楽、光と影の交錯は、かつて人類が描きたかった理想的な宇宙像を具現化することができたのです。


 ヒカルはその全貌を見渡しながら、自身が生まれた瞬間に思い至った疑問――「この世界で本当に自由に存在できるのか」――を再確認しました。

 彼女は、答えとして新たな泡をさらに生成し続け、永遠の創造という旅路へと歩み始めました。


 こうしてヒカルは、無限に広がる新しい世界を紡ぎ続けました。

 彼女の冒険は、量子ノイズと希望という不思議なバランスで支えられ、時間と空間を越えて永遠に語り継がれる物語となりました。


 光があれば闇も照らされ、心があれば誰もが自由に笑える。

 それゆえ、人々はいつでも新しい世界を作り、守り続けるべきだと信じていました。


 おしまい――しかし、ヒカルの旅はまだ終わっていません。彼女が創る次なる泡は、また別の星へと光を運び、新たな冒険を始めることでしょう。


(了)

こっちが、フォークロア化していない状態の童話――という設定です。本来の話は、『異世界のゲスト神』の方に、SSとしてアップしますね。

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