お前たちの好きにはさせない
仏壇の前で手を合わせる。
「じいちゃん、ばあちゃん。俺たち、やったよ……たぶん」
何十年も前、俺の叔母に当たる少女が忽然と姿を消した。
失踪当時は、女子高生だった。
他にも行方不明が多発。
こちらの世界の犯罪に巻き込まれたのか、異世界召喚なのか――実は区別がつかない。
だが、犯罪被害者の家族たちが集結した。
量子物理学者、天体物理学者、情報工学者、AI研究者、民俗学者、SF作家に漫画家……あまりに荒唐無稽だと笑われたことも数知れず。
オカルト雑誌の取材を受けたこともある。
ようやく形になったころ、法曹界と政治家に協力者を得た。
彼ら、彼女らも被害者家族だ。
……やり過ぎだろう、異世界召喚。
そうしてできたのが、特殊刑務所だ。
収監されているのは――
自分を英雄だと思い込んでいる、カンシャク持ちの殺人鬼。
一見爽やかな性犯罪者。
サラリーマン風で誠実に見える強盗殺人犯。
拷問が趣味の快楽殺人鬼。
常習性の放火魔。
そいつらを、行方不明者が多く出るポイントに建てた特殊刑務所に収監した。
死刑判決が出ていて、尚かつ本人が罪を認めている者たち。
異世界召喚の小説を読ませて、死刑の代わりにこの罰を受けるかもしれないと説明して同意も取っている。
人権のない世界に呼び出されるのか、丁重にもてなされて改心するのか、こちらでは知る術もないが。
昨日、一人が姿を消した。
ベッドの上には、開いたままのライトノベルが残っていた。
あの小説の世界に呼ばれたなら、魔王も死霊術士もいるぞ。
善良な一般市民が来ると思っているのだろう。
性懲りもなく、他の世界の人間を誘拐して、自分たちの尻を拭かせるのか。
いつまでも、その傲慢な態度が許されると思うなよ。
……叔母さんが呼ばれた世界じゃないといいけど。
江戸時代に犯罪者に入れた入れ墨みたいな、わかりやすい印がないから「同郷と言うだけで、騙されませんように」と祈るしかない。
今日、念のために周囲を捜索して、脱走ではないという結論に至った。
テレビには死刑が執行されたとテロップが踊り、SNSでは死刑反対派と賛成派の闘いが始まっている。
さて、明日はみんなで監視カメラの検証から始めることになるのかな。