悪夢の決戦
0bitの暗号を解読し、何だかんだサイトにログイン出来た黒
そこで新たなファイルを見つける
そこで中身を見てみると、それは白賭が送ってきた表データだった
0bitの思惑とは?
サプライズとは一体?
カチャカチャ──────
基地の中央にキーボードを叩く音が響く
モニターの明かりが長い時間目に刺さり、黒と白賭の体調は決して良いとは言えなかった
「う〜ん...」
「こっちプログラム完成したぞ〜」
白賭がモニターの横から顔を出した
「待って、後ちょっとで.....
よし。白賭、もうプログラム実行しても問題ないよ」
「おっけ〜」
白賭は作成したプログラムを実行した
緊張に息を呑む白賭、肩に力が入ってしまう程だ
モニターに白い英文が次々と表示されていく
止まることなく忙しく動く画面に黒は何かを知っているかのように安心し、口角を上げた
次第に画面は止まり、無事セッションが確立された
「ふぅ、良かった」
白賭は肩の力を抜き、ため息を一つ吐いた
「よし、後はこれを繰り返せば....」
「ん?」
黒と白賭は同時に手を止め、顔を見合わせた
「なんだ...?この暗号文...」
─────一方 警視庁本部庁舎
冬にも関わらず暑苦しく荒げた声を出す巡査係員達
全体的にどこか余裕すらも無くした様子だった
近年の日本におけるサイバー攻撃の被害を受け、政府が最近立ち上げた特殊組織部隊『国家テロ対策特務部隊』。だから、テロ被害の処理やテロリストの逮捕など、多くのタスクが係員たちを襲っていたのだ
「おい!情報まだこっちに回ってないぞ!」
「すいません!今送ります!」
忙しく鳴り響く足音
巡査係員達はある一つのテロ組織の足が掴めそうな所まで来ていた
また一方の同一部隊の情報係の人々は呑気に世間話を広げていた
「そういえば今side killとかいうハッカー集団が日本に攻撃掛けてきてるらしいな」
「立て続けに二件大企業が攻撃されたらしいし」
「へぇ...怖いっすね。」
「他人事じゃねぇぞ?ここ、警視庁もいつ標的になるかわかんねぇんだからな。ひゃー怖い怖い」
冗談混じりのその声も、どこか本気だった。既に皆が薄々と気づいていた。もう時期、''何か''が起こってしまうと
───────同時刻、別の場所では
素早く、軽いキーボードの音が部屋の沈黙を砕いた
「さ、黒くん今は何してるかな〜」
ピピッ
恐ろしい程の高レベルな攻撃を行っているにも関わらず、どこからか余裕の笑みを浮かべ、片処理かの様に黒のPCカメラにアクセスした
「うーん?...ん?何で浅川商店なんかちっさい店に攻撃してんの?黒くんついに頭おかしくなったか?」
黒のおかしな行動に動揺を隠せない様子だった
「...あぁ、そっか。浅川商店って風島銀行と繋がってたな。関連企業の最下層から僕の情報を得ようとしたのか...」
黒たちが0bitの調査をしている事に気づくも、全く焦りはしなかった
絶え間なく動き続ける指
モニターには無数のウィンドウが広がっており、一つはネットワークトラフィックを監視、一つは黒のPCカメラを盗み見、一つはプログラムコードを迷うこと無くスラスラと書いていた
おどけた雰囲気を醸し出しながらも、実力は国を揺るがす程の天才ハッカー。
そう、彼が0bitだ
「まぁ面白そうだし良いや。いや、何より...
そんな事僕が予測して無い訳ないしね。」
「は〜、まぁとりあえず浅川商店にも0bitが仕掛けたであろう罠があったし、何にも進んでないし、うん、詰んだ」
黒は椅子に腰をかけてため息をついた
時計を見ると昼の三時、おやつ時だ
「どの関連中小企業に侵入したって0bitによってサーバーが汚染されてるから迂闊に進めないし、どうすりゃ良いんだ」
白賭も黒と同様、疲れ果てた様子でため息混じりに言った
「それにしても、そういえば昨日の0bitの言ってたサプライズって何なんだろう」
黒は固まった身体を伸ばしながら言った
「あの電話以降、0bitから連絡は無いしな」
冷蔵庫からいつものストレートティーを取り出しながら白賭は言った
「もしかしたら渋谷でテロが起きたりして...」
キャップを開けるのに力を入り、一瞬声が力む
「0bitの技術力の前ではありえそうだな...あいつ、平気でPravosに侵入してきたくらいだし。」
黒も白賭の方を見ながらデスク下の冷蔵庫に手を伸ばしいちごミルクを漁りながら言った
「ん〜そうだよなぁ」
ストレートティーのキャップを閉め、首を鳴らしながら白賭が言った
「ん?ん?ってヤバっ!いちごミルクのストックが切れてる....緊急事態だ」
頭を掻きながら黒は冗談混じりにそう言った
「買い物行くか?俺もちょうどUSB切らしてたから新しく買いたくてさ」
白賭が買い物に誘う
「もぉ〜やっぱりイケメンだなぁ白賭君わっ!」
ニヤニヤしながら白賭をからかう。が
「いやおめぇもついてくるんだよバカ。さっき『買い物行くか?』って言ったばっかだろうがよ。」
黒の解釈違いに白賭がツッコミを入れた
「なぁ〜んだ。そういうとこ気遣えたらイケメンに慣れるのに。残念イケメンだ!うぇーい残念イケメン残念イケメ〜ン」
「なんやコイツ」
黒の煽りに完全に呆れ果てた白賭だったのだ
「って、そういえばさっきの"アレ"、もうちょい深く調査してから行かせてちょ」
そう言って黒は椅子に腰を掛け直し、パソコンに目を向けた
「はいはい、まだどうせ時間あるし良いよ。」
「サンキュー」
「いっつも思うんだけどこの入口からスーパーのコーナーまで遠くね?」
黒が愚痴を零した
店内放送の声と客の人々の声が重なってうるさく感じる
返って静かすぎるショッピングモールは好ましくないが
「確かに、まぁでもいい運動だろ?俺らずっとパソコンと睨めっこしてるんだし」
「失礼な!!!ボクが毎日運動してないみたいな言い方!毎日運動してますぅ!」
「そうかそうか、っで?なんかお前はいちごミルク以外に買いたいもの無いのか?」
「あ、面倒臭いからって話逸らした!まったく....まぁ特に無いけど?」
「ならもう会計するぞ」
白賭がスマホを取り出そうとした時、黒は不意にカゴにお菓子を入れた
「お前なぁ...子供かよ」
「はい、そうです。私は子供です。何か?」
「くっそ...確かにそりゃそうだ」
白賭の失言に黒は"スナイパー"かの様に揚げ足を取った
「他なんか行きたいとこあるか?」
白賭がバーコード決済を片手間に言った
「ん〜そーだなぁ、ゲーセンとか行きたいかも」
「ゲーセンか...懐かしいな、2年ぶり位か?」
「そんな行ってないの?まぁボクも言えないけど」
「お前もかよ」
その後も二人はなんてことの無い会話を続け、いつの間にか夕日が沈んでいく時間になった
「は〜楽しかった!やっぱゲーセン行って正解だったね」
「そうだな〜、俺なんか久しぶりにゲームで必死になったし」
「とか言って〜、クレーンゲームで無双してた癖に〜」
黒が白賭を馬鹿にしたような声で言った
「お前それ馬鹿にしてるだろ」
「あ、バレちった?」
「当たり前だぁ」
聞いての通り白賭はクレーンゲームが大の苦手だ
その癖何故か格闘系や弾幕係のゲームは超が付くほど上手い
黒の特徴的な性格と隠れているが、白賭もまた、不思議な人間だ
「さ、家帰ったら...またパソコンと睨めっこだぁぁぁぁぁ」
黒はカスカスの声で叫んだ
「まぁまぁそう焦るな焦るな、まだ家まで遠い訳だし」
「それはそうだけどさぁ...」
黒は背を曲げた
「ってか、マジで今日何も無かったな、もうあとちょっとで一日終わるぞ」
「マジじゃん、0bitのサプライズ...もしかしたらでっち上げの脅しだったのかも」
「いやアイツに限ってそんな事するか...?」
「しそうじゃん!あの野郎...ぐぬぬぬぬ」
黒は0bitからの散々な煽りを思い出し、腹を立てていた
「落ち着け落ち着け、一応気を引き締めて帰ろう」
そう言いスクランブル交差点の信号が変わったため、渡り始めた
人々の足音が耳に入る
殆ど全員がスマホに夢中で前なんか見ていない
そう、皆スマホにしか目をやっていなかった
しかし、スクランブル交差点の真ん中辺りまで来た時、衝撃が走る様な出来事が起きる
「見つけたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
とんでもなく大きな声がこの大都市に響き渡った
人々はスマホから目を離し、一斉に声のする方へ目をやった
黒と白賭も、驚き、反射的に目を向けた
そこに居たのは白衣を身に纏い、金髪に狼の仮面を付けた男が立っていた
一気にスクランブル交差点はざわざわとしだし、一人を初め、真似をするかのように大勢がカメラを男の方に向けた
黒は瞬時に理解した
そう、黒だけがその正体を理解したのだ
「あ...アイツは...」
「何だ?知ってるのか?ヤバい奴だが」
「あ...アイツは...アイツこそ...
0bitだ──────
「なっ...それ...本当か!?───────ハッ!!!」
白賭は驚いたが、その後すぐに理解した
これが0bitのサプライズなのだと
「あの少年少女二人が!!!!!!!!!世界的ハッカーの!!!!!!!!!"Pravos"だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
交差点は更にざわめき始める
それと同時にカメラを向ける矛先が黒と白賭に変わった
「マズイッッッ!!!逃げるぞ黒!!!!」
「う、うわっ!!!」
白賭は黒の手を引っ張り路地裏の方へ全速力で駆け出した
0bitは満足そうな笑みを浮かべ、その場から姿を消した
交差点に残ったのは、ただ群衆のざわめきだけだった───────
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ」
静かに配管からこぼれ落ちる雫の音
そこに走り、疲れきった二人の荒い息が響く
無我夢中で走った結果、何時しか知らない路地裏に行き着いていた
「はぁ...はぁ...なんだ...追っかけて来ねぇのかよ...はぁ...はぁ...」
「はぁ...てかどこだよここ...はぁ...はぁ...」
座る事も出来ず、膝に手を着き、ただ、息を整えようとしていた
しばらくそんな状況が続き、息が整い始めたその時だった
プルルルル
電話が鳴り出した
二人は電話の相手が誰かは見る前から何となく分かっていた
スマホを確認するとやはり"0bit"からだった
「マジか...」
迷いも無く電話に出ると0bitは相変わらずニヤついた様な喋り方をした
「やぁ、Pravosのお二人さん。」
「くっそ、お前!なんて事...!!!」
「まぁまぁ...だって僕昨日言ったじゃん。明日サプライズするからって」
「悪戯にもやっていい事と悪い事があるんじゃねぇか?狼さんよ」
黒の沸点は既に最高点まで上がっていた
そんな事を気にもとめず、0bitは変わらない口調で話を進めた
「イタズラなんてやな言い方だなぁ黒くん?僕は只、このゲームを楽しんで欲しいだけさ」
「ゲームだと?」
「そう、ゲームさ。君にはこの最高に面白いゲームを遊ぶ資格がある。」
「何を訳の分からない事を次から次へと、どういう事だ!?」
「百聞は一見にしかず。という訳で君達は今すぐ"品川東コンテナヤード"の『BKFL 3385829』と書かれたコンテナに向かってくださ〜い」
「何でそんなとこに行かなきゃなんねぇんだよ!」
黒は最早落ち着きを取り戻せない状態にあった
「良いの?もしかしたら...マズイ事になっちゃうかもね」
「マズイ事!?何の事だよ!」
「まぁ、一応知ってて欲しいのは、君の個人情報はとっくの前から全て抜いているってこと」
「行くしかないだろ...」
白賭が口を開いた
それも弱々しい声で
何も出来ない無力な今の立場上、こうせざるを得ない
「分かった...向かう...」
黒は白賭の考えを察し、従うようにした
「そうそうそれで良い。じゃあまたね───────」
プツッ
0bitはそう残して電話を切った
「なぁ、ボクら...これからどうなるんだろうな...ゲームって一体...」
「今は只、言われた場所に行くしか無い...仕方ない...」
白賭が俯いたまま歩き出した
ショッピングモールの楽しかった雰囲気とは一変し二人は何一つ喋ろうとしなかった
───────夕日が沈みきった夜
暗闇の中、無数のモニターだけがただ、部屋を照らしていた
そしてモニターの前に座っていたのは第五ノ皇帝だった
凄まじく落ち着いた雰囲気を醸し出し、闇より暗く、ただモニターの先に来る者を待っていた
やがてモニターには三人の姿が見えた
「また第一ノ皇帝が姿を消した」
第五ノ皇帝が口を開く
それに続いて左上のモニターに映る者が口を開いた
「またですか...一体何やってるんでしょうか...第一ノ皇帝は殆ど何でもこなせる天才で最初は優秀な人材だと思われましたが、こうも自分勝手だと、正直組織として迷惑かと...」
そう口を零す者の正体、それは"第三ノ皇帝"だった
「まったく、本当ですよっ」
変声機の甲高い声が第三ノ皇帝の右のモニターから響く
口調から滲み出る女気
モニターに映るは狐の仮面を被ったポニーテールの女だった
背後の壁に掛けられているのは可愛げのある女の子には似合わない無数の鈍器やナイフ
かつては大勢の人間を殺し、日本で"人間キラー"と呼ばれ恐れられていた
そう、彼女が"第二ノ皇帝"だ
「おいおい、ちょっと待てよ〜お前らマジ?まぁ確かに第一ノ皇帝はおサボりさんなとこあるけど、お前らより遥かに超える能力持ってるぞ?並外れたハッキングスキルや身体能力。かつてはスナイパーや医療関係も経験してたって話もアイツから聞いたぜ。見くびるにはまだ少し早すぎるんじゃね?」
第二ノ皇帝の右のモニターからスラスラと第一ノ皇帝をリスペクトする声が上がった
モニターに映るは壁に無数に貼られたプラズマや核爆の研究資料だった
他の皇帝と変わらず部屋は薄暗く、それが余計に不気味さを掻き立てていた
そう、彼が"第四ノ皇帝"だ
「まぁ落ち着け第四ノ皇帝。何もヤツを皇帝から下ろそうとなんかしていない。私が聞きたかったのはヤツの行方だ」
第五ノ皇帝は椅子から腰を上げ前かがみになりながら言った
「そっか、行方か...俺は知らないな」
第四ノ皇帝は落ち着きを取り戻し、冷静に答えた
「僕も知りませんね。」
続いて第三ノ皇帝も言った
「そうか...第二ノ皇帝はどうだ?」
「...ん?あ、私ですか!?そうですね〜私も会ってない...かな...?いや会ってないですね〜」
モニター越しに目が泳いでいる様にも、思い出そうとしているようにも見えた
「そうか...一体何処で何やってるんだろうな...アイツは」
不満そうに第五ノ皇帝が口を零し、立ち上がった
カーテンを開き、都市の夜景を眺めた
「着いたは良いものの...肝心のコンテナが見つからないな...」
白賭が辺りを見回しながら言った
「ホントにあんのかな...あのコンテナ...」
例のコンテナを探し続け、いつの間にか辺りから明かりは消えていた
「こんなあったら探すのも不可能だろ...一体0bitは何を考えてるんだ?」
黒も無数のコンテナの番号を確認しながら周った
「そういえば、由香里について、前に調べたんだが」
「ん?もしかしてあの空白の一年についてか?」
「まぁそれがメインでな。そんで分かったことが二つある。」
「一つ目は由香里は家庭環境が最悪だったって事だ」
「え、マジ!?あんな平気な顔で優しそうなのに」
「アイツは今は児童養護施設に居る。何より父親が無職に暴力的で...って最悪だったらしい」
「マジか...ん?待てよ...でも父親はセキュリティ企業の社長じゃ...?」
「どういう訳か、その養護施設での由香里の経歴は書き換えられて無くて。侵入してデータ見てみたら、無職に虐待にって、散々だよな」
「通りであの時、由香里のスマホに侵入したのに気付いてなかったのか...って、でもどうやって何の権力も持ってない由香里が学校の経歴を書き換えたんだろう?」
「そうなんだよな...そこが疑問で...」
白賭は目を細め、頭を悩ませた
「で?二つ目は?」
コンテナを抜けた一瞬の月の光が差し込み、黒は眩しそうに言った
「あぁ、二つ目は、由香里が児童養護施設に入れられた後に父親が後に亡くなってな」
黒は白賭の発言に目を見開いた
白賭は一呼吸置き、後に鋭い目をしてこう言った
「父親が亡くなった歳と消された一年間の経歴が、綺麗に重なるんだ」
「なっ...!?」
「なぁ...やっぱ変じゃないか...?」
「はっ!!!0bitとの関わりが多くて忘れてたけど...そういえば最近由香里から連絡も無ければ、学校にも来てない...!!!」
黒が白賭に訴え掛けた
「つ...つまり...!?」
「路地裏に居た時の電話で0bitが言ってた"マズイ"は...どうもボクの個人情報の脅しだけでは無い様に思えるんだ...別の...何か...」
黒の頭の中には良くない想像ばかりが浮かび上がっていた
それに由香里が危ない様にも、由香里の身にに危険が迫っている様にも、黒は感じていた
咄嗟に二人は足を早めて、例のコンテナを探し始めた
(((どこだ...!?どこなんだ...!?)))
黒の頭の中は、様々な情報が混合し、混乱していた
だが、一つだけ確かな事があった
それは、0bitに早く会わないと行けない事
白賭も、それだけは確実に黒と同じ考えだった
気が付けば二人は海側の方まで来ていた
月の光が海に反射して、綺麗だった
だが、二人はそんな余裕など無かった
「無い...無い...頼む...出てきてくれ...!!!」
「あっ...!」
由香里の話をして以来、少し離れて行動をしていた白賭と黒は合流した
「こっちは無かった...」
「マジか...こっちもだ...」
二人は息が上がりきってしまい、手を膝について息を整えた
「はぁ...はぁ...はぁ......」
息を整える音だけが二人の耳に入っていた
しばらくして息が整い出した二人は顔を上げた
「どうしたら...」
黒が口を開いた
白賭は辺りを見回した
「やっぱり...0bitの出鱈目なんじゃ───────
「おい...あれ見ろよ....」
白賭はコンテナ場の内側を指さした
そこにはコンテナ同士が円を作った状態で置かれており、真ん中には黒色の大きなコンテナが置かれていた
そして明らかに違う、恐ろしく重い空気を放っていた
「あれってまさか...」
「あんなのまだ見てないよな...」
「しかもほらやっぱり...! 0bitが言ってた『BKFL 3385829』の文字が...!」
「ま...まじか...コンテナに囲まれてて.....だから見つけられなかったのか...」
白賭は少し安堵の顔を浮かべたが、すぐに顔を引き締め、「行くぞ...」と言い、黒と共に歩みだした
一歩進む事に段々と漣の音が消えてゆく
それと同時に月の光が輝きを無くしていく様に見えた
ようやく黒のコンテナの前まで辿り着いたが、そこにはデジタルの鍵が掛けられていた
「ダメだ...パスワードが掛かってる...こういうのって大体オフラインだし接続アダプターも付いてない...」急がないとマズイのに...!」
黒の顔色が暗くなった
「一応パソコンはバッグに入ってるけど...接続アダプターが無けりゃ無理だな...」
白賭もどうにかしようとしたが、どうにもならなかった
風は吹くこともせず、まるで二人を見放している様だった
ふと、白賭が黒の方へ目をやると相変わらず、ずっと下を向いていた
「黒...?」
「うっ...」
黒がピクリと跳ね、白賭の方へ顔を上げた
「はっ...!?」
その時、白賭は目を疑う光景を目の当たりにした
黒が赤と青のオッドアイでは無く、両目が赤色になっていたのだ
「なっ...お前...何があったんだ...!?大丈夫か!?」
白賭は黒の肩を掴み、心配した
「ん...?.....あ〜目の事か?」
「はっ....お前...誰だ...?」
白賭は黒の口調が変わっている事にすぐ気づいた
「あーそっか...アンタは始めしてか...」
黒のはずなのに黒では無い。そんな違和感に白賭は包まれていた
「俺は"有"だ仮名だが。それだけ伝えておく」
「はっ...?はっ...?」
「まぁまぁ詳しい事は後で聞いてくれよ、今急いでるんだろ?早くパソコン」
「あっ、あぁ...!でもどうやって!?オフラインで接続アダプターも無いぞ。」
「だ〜いじょうぶだって!早く早く」
白賭は困惑しながらもバッグからパソコンを取り出した
有は黒のズボンのベルトループに引っ掛けてあるPravosUSBを取り、パソコンに挿した
やがてPravosは起動し、金の天秤がモニターに広がった
有はターミナルを開き、キーボードを迷うこと無く打ち始めた
続けてコンテナに付いている鍵のモニターにパスワードを一文字打った
白賭はただ立ち尽くして見るしか無かった
有の奇妙な行動を
また有はキーボードを打ち始め、一文字のパスワードを打っては、を繰り返した
五十回程繰り返し、やがてロックは解除された
「さ、ロック解除したぞ」
有はなんて事無いような顔をして白賭の方を向いた
「お前...どうやって...」
白賭は未だに状況を呑めず、言葉が上手く出せなかった
「ん?あ〜、オフラインつっても一応機器的な周波数は出してんだよ、で色んな文字数字を打った時の微量な違いの周波を受信して、それらを比較してパスワードを特定したって訳」
有は流暢に説明し始め、白賭は落ち着きを取り戻しはじめた
「そ...そうか...凄いな、お前」
「あぁそりゃどうも、そんじゃまたな!」
そう言い残しまた有は目を瞑ったまま下を向いた
「はっ!」
黒は気を取り戻し、目を覚ました
「はっ!く...黒!大丈夫か?なんか変な奴に取り憑かれ?てたけど...!」
「うん?...あぁ、白賭には言ってなかったな...ボク、何でかは分からないけど二重人格者になっちゃって...自分でもよくわかってないんだけど...」
「二重人格...?よくわからんが、取り敢えずわかった」
「絶対わかってないよね!?まぁ良いや、今はこのコンテナの中に何があるのか...それが重要だからね」
「あぁ、そうだな」
二人は気を取り直し、コンテナの方へ体を向けた
そして、二人の手はコンテナの扉へ
「さぁ...行くよ...!」
二人は勢いよく扉を開けた
ずっしりとした鉄の重みがあり、開く風圧が少し生暖かかった
二人はコンテナの中へ恐る恐る目を向けた
するとそこにあったのは唯一つだけ
エレベーターだった
「は?」
二人は声を合わせて言った
「これって...エレベーターだよな...?」
「うん...でも、何でこんな所に...?」
二人は訳がわからなかった
一体何故ここにエレベーターがあるのか
どうやってエレベーターが設置されているのか
「でも...ここにあるって事は...乗れって事じゃないかな...?」
「マジ...?まぁ...乗るしかないよな...」
二人は渋々エレベーターに乗った
しかし二人はまだ知らなかった
この後、最悪で最凶が始まる事を
階のボタンを見ると、そこには唯、"0"とだけ
(0って...どんだけ自分の事好きなんだよ...)
黒はそう思いながらも、0のボタンを押した
「って...そういえばまだ謎なんだが、アンタの中に居る、"有"って...一体何者なんだ?」
白賭はエレベーターの壁にもたれ掛かり、黒に向かって聞いた
「有か、実はまだわか──────
「俺の事か〜!?」
突如黒の両目が赤に変わってしまった
「うわ!?びっくりした!?急に出てくるなよビビったぁ...」
「そんなビビるなよ〜、んで、俺について知りたいのか?」
有は白賭と同様エレベーターにもたれ掛かり、更に腕を組み目を輝かせて聞いた
「そんな目すんな。んで、お前の正体が気になんだよ、誰?」
「誰って、有だよ!」
有は何度も同じ事を聞かれ呆れた様に言い返した
「違うよ、二重人格って具体的にどうやってアンタが生成されたんだよ」
「それは...まだ言えないな。唯今言える事は、俺は黒の藁人形だって事だけ。それじゃあな」
「あっ!ちょっと待て!」
白賭は有の肩を掴み顔を近づけた
しかし、既にそこには有の姿は無かった
唯の、黒だった
「ん?ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
黒が目を覚ました
黒の目の前には白賭の顔があった
「あっ!!!ちょっ!!!誤解だ誤解!!!」
白賭が顔を赤らめ両手を左右に振った
エレベーターの降りていく時の宙に浮くような感覚が白賭には残っていた
「....っはははははっ!」
「は?」
「冗談だよ冗談、有が喋ってる時にもボクの意識はちゃんとあるよ」
「っ...お前...後で覚えてろ....」
白賭の顔には赤さが残っていながらも、ほんの少しの怒りと呆れに満ちていた
チーン
そんな事をしているうちに、エレベーターは"0"階に着いていた
二人は扉の方へ向いた
扉はゆっくりと開き始めた
隙間から真っ白な壁が見えた
少なくとも分かるのは、"0"階という空間は上にも横にも平等に広いということだ
扉が全て開ききった頃には右上辺りに、0bitが佇んでいたのがわかった
「はっ...!!!.......ゼロビットォォォォ!!!!!!」
黒はさっきの表情とは一変して、蔑むような目で0bitを睨みつけた
「くっ...やっぱりか...!!!」
白賭も0bitを見つけ次第、身構え、そして0bitを睨みつけた
「やぁ、黒君。これで実際に会うのは二回目だね。」
0bitは余裕の風格で、手を後ろで組み、笑顔で迎え入れた
「君は...確か白賭君か。何処かで名前を見た事がある様な気がするけど...君もゲームに参加するのかい?」
相変わらず0bitは白衣を身に纏い、狼の面を付けていた
「じゃなきゃ何で俺がここに来る必要がある?」
白賭は0bitに向けて笑言した
「そうだね、良いよ。ゲームは複数人とやった方が圧倒的に楽しい。」
「ははっ、んで?そのゲームってやつはどんな内容なんだ?教えてくれよ」
黒はエレベーターから降り、真っ白な部屋に足を踏み込んだ
「そう、そんなに見たいんだね。そうだね、僕も人を焦らすのはあまり好ましく思わない、見せてあげよう!」
0bitはそう言って目の前にあるコンピュータをタッチした
すると0bitより後ろの両端の壁から何かが大きな振動を起こしながら出て来るのがわかった
右を見ると鋭く、大きな針が現れた
「な...なんだこれ...!?」
黒は思わず後ろに引き下がった
「はっ...!!!!!!黒!!!あれ!!!」
白賭もエレベーターから降り、白い部屋に足を踏み込んだ
そして黒の横に並び、左の方を指さした
「ぁあっ...!!!???」
黒と白賭はとんでもない光景を目にしたのだ
左の壁から現れたのは
「助けてっ!!!!!!」
ベルトで固定された椅子に縛り付けられた"由香里"だった
「0bit!!!何を!!!!」
黒は0bitに向けて叫んだ
黒はこの時、由香里が学校を数日間も休み、連絡も取ることが出来なかった訳を悟った
「さぁさぁ始まりました最高のゲーム!!!」
0bitが拍手をしながら語り始めた
「絆?友情?が織り成す最凶で最強のデスゲームですッッッ!!!」
「このクソ野郎...!!!」
黒は拳を力一杯に握りしめた
爪痕がくっきり残る程だった
しかし0bitは黒とは真逆で一切の罪悪感を感じられない表情をしていた
正に何食わぬ顔だった
「さぁ、それでは...このゲームのルール説明を致しましょうッッッ!!!」
遂に日本中にPravosの正体がバレてしまった
そして、0bitのサプライズが人質を賭けたデスゲームだということが発覚
ゲームに勝利し、由香里を助ける事が出来るのか!?
そして、0bitの思惑を知る事は出来るのか!?