5話 127番体→イヅナ
今日は、ここまでです。
急遽予定が入ったので、あまり
校閲出来てません。
数日後に所々、変わってるかもしれません。
話の流れ自体は変えるつもりはないので、
大丈夫です。
薄暗く、防音された部屋。会議室に
俺はいた。ノメリアから、そこで
しばらく待って欲しいと言われるまま、
そこで30分程だろうか、待った。
すると、ドアノブが開く音がして、
ノメリアが……いや、ノメリアともう一人が
入ってきた。
「少女……?」
「ああ、悪いリンディア。
紹介がまだだったね、
そう、彼女は君と先の戦闘で戦った
少女だ。今回の作戦では、
この娘と共に戦ってもらう事になる。
よろしく。」
なんて勝手な……敵国の人間と共に
戦うなど。ノメリアはいつも何を考えて
いるか分からない所があるが、
今回はより一層分からん。
俺はそう思った。
すると、彼女が口を開いた。
「どうも、よろしくお願いします。
私は自国に対して何の思い入れもないので、
今回の作戦参加は問題ないと思います。
前戦闘で使った能力とムーブメントで、
ノメリア上等兵の支援を
行わせていただく事になりました。
名前は、えーと、無くて、
自国、研究所では127番と
呼ばれていました。
なので、呼び方はお任せします。」
「127番?今、聞き間違えていなかったら、
君は127番と呼ばれていたと言ったのか?」
とてつもない、怒りが押し寄せてきた。
いくら、敵国の人間とはいえ、127番と
呼んでいただと?ふざけるな。
まるで、モルモットではないか。
人間を、そんな風に扱っていいわけがない。
「はい。127番と呼ばれていました。
何か、問題があるでしょうか。」
……
俺は、呆気に取られた。そうか、
彼女の世界ではそれが当たり前なのだ。
クローンとして、生まれ、他人の記憶を
入れられ、他人の代替品で消耗品として
生きていく。そんな残酷な事が、
彼女には、いや、彼女たちには
当たり前の事なのだ。
俺は、そこで敵を、殲滅しなければ
ならない。奴らを、
滅ぼさなければならない。
そう、決意した。
「127番などとは呼びたくはない。
そうだな、今すぐ思い浮かばなくて
申し訳ないのだが、127だから、
僕の先祖の祖国では、語呂で、イヅナと
呼べるんだが、どうだろう?
同じく、祖国で狐の妖怪だったり、
イイヅナという生物だったりという
意味を持つんだ。
これ、可愛いだろう?」
そういって、俺はネットワーク端末で
検索した結果の画像を彼女に見せた。
「はい、イヅナ、イヅナ、まさか私が
名前で呼ばれるなんて……」
そういって、彼女は頬から涙を流していた。
表情は、戸惑いと、嬉しさと、
喜びが混じって、どうすれば
良いのか分からない。そんな顔だった。
名前で呼ばれたことが無く、そして
人間としての扱いも受けていなかったのだ、
その気持ちは分からないでもない。
「これでは、会議は少し後にした方が
良いかな。30分後にしよう。
もし、落ち着いたら声を掛けてくれ。」
ノメリアはそう言って、部屋を出た。
俺も、続いて部屋を出る。幼馴染
なのに、よく分からないやつだが、
気遣いだけは出来るらしい。
「じゃあ……」
そう言って、俺はドアを閉め、部屋を
後にした。
彼女の後ろ姿を横目に。
「君も罪だねえ。女の子を泣かせるなんて」
会議室を出たのち、少し離れた休憩所に
俺とノメリアはいた。
自動販売機でコーヒーを買い、
一口飲んだ後、ノメリアは言った。
「泣かせようと思ったわけじゃない。
ただ、まさかあれまでに非道な扱いを
しているとは。」
「扱いどうこうの問題ではないよ、
リンディア。奴らはもっと、道徳的に
してはならない事をした。
彼女の臓器は、そのほとんどが機械なんだ。
能力に耐えるために。
そして、組み替えDNAを使い、
人体の構造を変えた。
生殖機能すら……
いや、この話はやめよう。」
ノメリアは気まずい顔をしながら、
一旦話を区切る。
そして、もう一口コーヒーに口をつけ、
一呼吸置いた後、また話に戻った。
「彼女は能力で電撃を使う。周囲に
電撃を放つわけだから、それはもちろん
彼女にも襲いかかる。
だから、能力を使うためにも、その
電撃から体を守るためにも、まず、組み替え
DNAで彼女の体を改造した。
電気ナマズは知ってるね。
彼らは、体の筋肉が、電子を放てる構造に
なっている。
それを応用して、彼女のDNAを
組み替えて、人間の形を保ちながらも、
電気を放ち、そして電気に耐性のある体に
変化させた。
しかし、それだけでは彼女の体を
守るには至らなかったんだ。
だから臓器を機械にし、肌を人工皮膚に
置き換え、能力の範囲内なら、
電流にも電圧にも耐えられる体を
作ったんだ。
一体、そこに至るまで、何人の
彼女たち、クローンが犠牲になったのか。」
ノメリアの話している事の半分以上、
よく分からなかったが、
敵の、あいつらが非道な事をしている
事は分かった。
しかし、そこで素人でも分かる
疑問が生じた。
「じゃあ、何故俺は体を弄る事なく、
あの錠剤一つで能力を使えたんだ?」
「良い所に気がついたね。その質問が
欲しかった。」
ノメリアは眼鏡を上げながら、得意げ
そうに質問に答えた。
「君が体を改造する必要がないのは、
ムーヴメントのおかげだよ。
君が文字通り、それに生命を預けて、
信頼して、搭乗し、自国を守ってきた。
そのムーヴメントに、今は
守られている。
機械にそんなものは無いが、まるで
恩返しのようだね。」
「茶化さないでくれ。続けて。」
「前回、ムーヴメントに乗る時に
いつもと違う事は無かったかい?」
俺は、その時の事を思い出していると、
ある事に気づき、ふと、自分の首を
掌で触った。
「そう、首にパッチを貼ったね。
そして、操縦系はコントロールしなくても、
頭で考えた通りに動いたはずだ。
スナイパーなんかの精密な操作はまだ、
人間の手で動かさないと駄目だけど。
それは置いとくとして、君が
コントロールしなくても、ムーヴメントが
動いたのは、そのパッチで
頚椎から君の体と
神経接続してるからなんだ。
そして、神経を通じて、ムーヴメントは、
能力を使うことが出来る。
つまり、彼女が能力を体の細胞で
使っているのに対して、
君は、ムーヴメントに能力の指示を出して、
ムーヴメントが君の飲んだ錠剤から
得られる、微細な能力を拡大して、
彼女と同等、いやそれ以上の能力を
使えるようになったという事だ。」
と、そこでノメリアは自慢げな顔で、
説明を終えた。
「だから、武装が全て能力で使える
武装だったのか……」
ノメリアは意外な顔でまた、説明を
始めた。
「そこに気づくとはね、君、博士の才能も
あるかもね。
それは冗談として、
その通り、
レーザーライフル、光周波ブレード、
スナイパー・レールキャノン、
レーザーシールドは全て、電気を
媒介として、使用できる武装だ。
厳密には電気と電磁場によって
コヒーレント光と呼ばれるものを
発生させる自由電子レーザー……
っと、ごめんごめん。そんな生まれたての
アヒルみたいな表情で、難しい顔を
しないでくれ。
つまり、合ってる。
君のいう通り、能力を使用して、
ムーヴメントの操作も、武装の使用も
出来る様にしたんだ。
詳しい話は、また今度に。」
と、ノメリアはそこで話をやめ、
親指で会議室の方を示した。
そろそろ彼女も落ち着いた頃だろう。
証拠に、ノメリア博士のポケットからは、
ネットワーク携帯端末のコール音が
申し訳なさそうに、鳴っていた。