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2話 少女(127番体)

今日は、ここまでです。


2話で急に登場人物が変わってすみません。


また明日も深夜帯に投稿すると思うので、

読んで頂ければ、幸いです。

説明気味の文章となってしまい、すみません。


次話は、ちゃんとキャラに喋らせてます。

少女は疲弊していた。


脊椎から脳へとは、痛みの信号が

流れ続ける。体中に電気が入るような感覚に

襲われながら、ただ痛みが消えるのを待つ。


布団に入ってから10数時間はたつだろうか、

しかし痛みは取れる気配もなく、響く。


戦闘の後はいつもそうだ。

生身一つで戦地に潜り込み、戦場を荒らし、

そして帰る。


敗北の文字は一度もなく、圧倒的なまでの

力で敵を捩じ伏せている……


ように敵には見えているのだろう。

しかし実際には満身創痍で、擦り切れそうな

体と精神を削り削って


限界までの全力で戦って勝っているだけ。

いずれ私も、消耗品のように、ことは切れ、

動かなくなり壊れ、死ぬのだろう。


数多の仲間がそうだったように。


ふと脳裏に死体が浮かんでは消える。

フラッシュバックが何度も何度も

サブリミナル的に流れる。


私と同じ顔と同じ体、声を持ったソレは

死んだ目で、焦点の合わないその目で


私を見つめて、何も言うことなく、

死を受け入れたような表情で、ただ

当然のように死んでいく。


私もまた、おそらく彼女たちと

同じような目で、同じような表情で、

それを当然のように受け入れ、見ていた。


決して遠くないうちに、私も、

私の目に映る、彼女らと同じ道を

辿るのだろう。


しかし、その事に何も感じる事なく、

ただその未来を受け入れようとしている。


私の存在理由は、一人でも多くの敵を

戦場から消し去る。ただそれだけ。


そのために例え自分の身を消耗品のように

扱われようとも構わない。そう思い、

私はポケットの中に手を潜らせ、


目的の物を手で手繰り寄せようとする。

が、それはそこに無かった。


私が私でいられるために

必要なソレは何度手を動かして探っても

そこには無かった。


薬が……無い。

おそらく、先程の戦場で落としたのだろう。


無ければ、貰えば良い。いくらでも薬はある。

それを服用する替えの人間も造ればよい。


薬を貰うため、私は薬の開発者である

博士の元へと、痛みで響く体を無理にでも

引っ張り、ひきずりながら向かった。


研究室には、数分で到着した。

扉を開け、室内に入る、すると、博士は

私を見たのち、鬱陶しい、といったような表情で、


面倒くさそうに、目の前へと立った。


博士に、戦場で薬を落とした事を伝える。


その瞬間、高い音が鳴り響いた。

刹那、頬に痛みが疾る。

硬く、大きな手が、私の頬を叩いていた。


その手の主である、

眼鏡をかけた、白髪で初老の男の

表情は歪みと怒り、不安を見せていた。


そして、頬を殴っただけでは飽き足らない

というように、取り乱し、声を荒げた。


「お前の代わりはいくらでもいる!

お前が死んだところで何も困らない。

いくらでも死ね!薬だって代わりはある。

基地内で落とす分には構わない。

だがな、戦地で落としただと!ふざけるな!

敵に薬を拾われたらどうする。

分析されたら?


次は敵が私達を殲滅する番になる。

あの憎い鉄の塊が、お前と同じ戦力を持つ。

こちらの負けは、確定だ。


拾われてない事を祈るしかない。

次の戦闘に向けて休め。これが薬だ。

次は絶対に落とすな。


あと……

休む前に、貴様のコピーを作っておけ。」


博士の、やや赤くなった顔には、

幾つもの筋が入り、冷や汗が流れていた。

硬く握りしめた手を震わせながら、


博士は、一通り私に怒りをぶつけたあと、

背中を向けて去っていった。


「私は死んだ所で代わりはいくらでもいる。

か……私の人生は死んだらそこで終わりだと

いうのに。勝手な博士だ。」


薬を落とした事や、そこから起こる事の

結末には、非を感じつつも、理不尽なまでの

粗雑な命の扱いに憤りを覚えつつ、


私はある一室に向かった。


生体培養室。扉の上部には、無慈悲なまでに

無機質な文字でそう書かれていた。


扉を開け、中に入ると自分の

身長の倍はあるであろう、ビーカー状の

ガラスの中に人が浮いていた。


ガラスの中は緑色の液体で満たされ、

そこから繋がれたチューブから入ってくる

空気で、気泡が湧いていた。


その中にいる人の顔は自分と全く同じ顔、

姿、形をしていて、おそらく中身まで

自分と同じだろう。


私の遺伝子情報から作られた、

いや、正確には私のオリジナルの

遺伝子情報から作られたコピー。


左腕に、赤い文字で刻印された番号には

128と書かれている。


自分の左腕の番号について気になったが、

見る必要もない。127と書かれているだけだ。

私がオリジナルである可能性は0だろう。


何度でも死ね、代わりはいる。と

博士は言った。つまり私は博士からしたら

このガラスの中で浮いているコピーと

何ら変わりない存在なのだ。

大切なのは、オリジナルただ一人だけ。


その残酷な事実を受け入れ、そしてまた、

もう一人、その事実の犠牲者が今日作られる


部屋の中を見回すと、机の上に注射器、

ハサミ、そして空の瓶が、銀のトレーの上に

乗っていた。



無造作にそれを取り、腕に注射器を差し、

採血をする。そして流れるようにハサミの

刃を開き、髪に当て、それを閉じる。


切った髪を瓶に入れ、注射器の針を抜く、

そして、トレーに戻す。


採血も、ハサミを使うのも初めてだったが、

何度も行ったように慣れていた。

いや、おそらくは何度も行ったのだろう。

正確には、125回。なぜ分かるのか。


人間の記憶には、思い出を覚える記憶と、

体が覚える記憶がある。


私たちコピーは個体ごとに正確な記憶を

覚えてはいない。そこまでのコピーは

出来ないからだ。


簡単な言語情報や、戦闘の知識だけを

インプットされる。


しかし、体の記憶は脳に染み付いて

取れないものだ。実際、記憶障害でも

体の動かし方は覚えている人間がほとんど。


つまり、私は126番目のコピーだから、

そのコピーを作るまえの、125回分の記憶を

体だけは覚えている。


歩行も、食事も、戦闘も、初めてにも

関わらず簡単に出来たのはこういう事だ。


体の慣れの違和感を自分で説明して、

納得し、トレーに自分の血、髪があるのを

確認し、部屋を去る。


128番目のコピーに必要な、遺伝子情報の

提供は終わった。


寝て、明日の戦闘に備えよう。

私の体は耐えきれず、明日、私は

死ぬのだろう。


127番目と128番目の私に別れをつげ、

眠りについた。

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