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プロローグ

初投稿です。よろしくお願いいたします!

※話が進むとグロテスクな表現が出てきますのでご注意ください。

 巨大なドラゴンが咆哮を上げる。死を間際にしてなお奮起するかのようなそれはビリビリと空気を揺らし、対峙する冒険者たちの鼓膜を震わせる。


「まだそんな気力があるとはな……!」


 一際目立つ金髪の剣士の顎を汗が伝い落ちた。


「チッ! 死に損ないのトカゲがやかましいのよ! 食らいなさい! 〈サウザンド・ボルト〉!!」

「ガアアアアアアアア!!!!」


 深紅の髪の女の放った雷光が降り注ぎ、のたうち回る竜が無差別に棘のついた尾を振り回す。


「おっと! とんでもねぇ生命力だが、闇雲に振り回すだけじゃあ勝ち目はないぞ!」


 巨大な盾を持った巨漢が攻撃を受け止める。棘は盾を包む薄い光に弾かれ、そのものには傷一つ付けられていない。


「ルイ、今だ!」

「ハアアアアアッ!」


 剣士が地を蹴って空中へ飛び上がった。

 振りかぶった剣が空中で光を纏い、刀身が何倍にも膨れ上がる。竜はそれを撃ち落とそうと身を捩ったが、しかしその巨体にはいつの間にか、目には見えない透明な鎖が張り巡らされて、動きを封じられる。


「グオオオオッ?!」

「これで……とどめだッ!!!」


 剣士が巨大な光の剣を竜に振り下ろす。眉間に突き立った剣から光が溢れだし、断末魔の悲鳴とともに、竜は光に飲まれ消滅した。

 光が収まった時、残ったのは竜の落とした素材のみ。


「よしっ、やったなルイ!」

「ああ、助かったよジョルジオ」

「なに、いつも通りだ」


 巨漢が剣士の肩を叩く。


「皆さん、集まってください。回復します」


 僧侶が声を掛け、剣士たちに駆け寄った。少し離れたところにいた魔術師の女も気だるそうに合流する。


「ホーリーヒール!」


 僧侶の杖が光り、3人を包み込む。竜との戦いで負った傷が全て消え去っていった。


「流石だな、ヴィヴィ」

「いえ、これくらいしか出来ませんから」


 僧侶の少年は剣士に褒められ謙遜する。魔術師の女が服の汚れを払いながら面倒そうに愚痴をこぼした。


「まったく、服が汚れたじゃない。高かったのよ、これ」

「はは、報奨金でまた新しいのを買えばいいだろ」

「それもそうね! ……ちょっとバーチ! この愚図! 早く拾いなさいよ!」


 剣士に軽く返した魔術師は、竜の倒れた後の素材を拾っていた青年を怒鳴りつけた。素材を丁寧にバッグに詰めていた黒髪の男はびくりと肩を震わせる。


「す、すみません」

「ノロマの役立たず! それくらいしか能がないんだからさっさとしなさいよ!」


 魔術師が罵るが、男の作業の手が早まることはない。素材が傷付かないよう慎重にバッグに詰めていく。

 剣士がそんな男の姿に眉を顰めている。冷たい視線を浴びながら、男はもたもたとバッグに素材を詰め終えた。


「す、すみません。お待たせしました」

「フン。ほんっとグズね! ロクに戦いも出来ないんだからさっさと荷物持ちなさいよね」

「は、はい」


 男が体の半分ほどもある荷物を背負い、よたよたと歩き出す。

 剣士がその姿から視線を逸らし、まるで何も見ていないかのように朗らかに言った。


「さあ、行こうか。凱旋だ!」





 アルコの街は魔竜討伐に沸いていた。長く魔竜の出す瘴気によって魔物の蔓延る土地だったこの一帯が浄化されたのだ。


 魔竜を討伐したのは、国王が遣わした「勇者」のパーティだった。


 剣士のルイは王子でもあり、聖剣を使いこなすパーティの主力だ。金髪に優し気な風貌で、街の若い娘たちはルイを見てはこぞって黄色い声を上げる。

 筋骨隆々の男は槍と盾を使うパーティのタンク役で、ジョルジオと言う。貴族出身だがきさくで豪放磊落な男だ。兄貴肌なところが、冒険者たちにも人気がある。

 僧侶のヴィヴィは、教会の重鎮である枢機卿の家系出身の少年だ。回復に特化しており、切り落とされた腕ですら再生出来るという。依頼がないときは教会で祈りを捧げたり慈善活動を行っており、子供たちからも人気がある。

 魔術師のミスティは、美貌と抜群のプロポーションを持つ絶世の美女だ。魔術の腕は王国でも1,2を争うと言われており、その妖艶な美貌も相俟って、男たちから絶大な支持を得ている。

 そしてもう一人の魔術師が、バーチ。地味で、凡庸で、中肉中背の、あまりにもパッとしない、黒髪の男だった。

 火力に特化したミスティと違って、バーチの得意分野は味方への補助、或いは敵への弱体化だ。僧侶のヴィヴィは光属性の攻撃も撃てるが、バーチは完全に補助魔法に特化しているため敵への攻撃手段は何も持ち合わせておらず、戦闘が始まると攻撃の当たらないところに隠れて仲間に補助魔法をかけるしかない。

 勇者パーティに参加してはいるものの、彼だけがどうもいまいちパッとしない。凱旋パレードに参加していても、彼への賛辞はどこからも飛んでこないのだから。

 

「ワッハッハ! 目出度い! ルイ、ヴィヴィ、飲んでるか?!」

「うわっ、ちょっとジョルジオさん! 飲みすぎですよ!」


 パレードを終え、飲めや歌えの宴の席でジョルジオがルイとヴィヴィの肩に腕を回して引き寄せている。赤ら顔に、呼気にも酒精が漂っている……ヴィヴィが言うように、ずいぶん飲んでいるのは明白だった。


「こんな目出度い席なんだ、飲まないわけないだろ?!」

「もう、仕方ないですね……僕は僧侶ですから、飲めないんですよ! バーチを誘ったらどうです?」

「バーチ? ……そういえばミスティもいないな?」


 ジョルジオの腕から抜け出したヴィヴィがそそくさと退散していく。ジョルジオはルイの肩に腕を回したまま会場を見回すが、どこもかしこも酔っぱらった人間であふれていて肝心の黒髪の中庸な男は見当たらなかった。それだけでなく、ミスティの姿もない。彼女はさっきまで若い男たちに囲まれていたから、恐らく別室で男たちを侍らせているのだろう。


「……またか。あいつ、本当にいつもいつも……」

「まあまあ、いいじゃねえか。祝いの席だ。バーチも案外羽目外してるのかもな!」

「……バーチにそんな芸当出来ると思えないな」


 ルイは不機嫌そうに呟き、持っていたワイングラスを傾け飲み干した。




 バーチの姿は、会場のどこにもなかった。彼は宴で沸く中、冒険者ギルドで素材の買取を行っていた。


「あの、すみません。今日はお祭りなのに、仕事をさせてしまって……」


 素材の鑑定と会計を行っていた受付の女性は、バーチからの気遣いにきょとんとした顔を向ける。

 冒険者ギルドの受付嬢に気を遣う冒険者などそうそういない。それも、バーチは名高い「勇者」パーティの一人だというのに、誰よりも腰が低かった。


「いえいえ、構いませんよ! お祭りの日でも冒険者ギルドは閉まりませんからね!」


 会話しながらも受付嬢の手は止まらない。優秀なのだろう。


「それよりも、バーチさんはいいんですか? 今日の主役じゃないですか」

「い、いや、僕は……別に、大したこともしてませんから……」

「そんなことないですよ! バーチさんのは攻撃系魔法じゃないからわかりにくいですけど……補助魔法のレベルが高いと戦闘も楽になりますし、縁の下の力持ちってやつじゃないですか? もっと胸を張ってください! ……はい、出来ました! こちらお会計になります!」

「あ、ありがとうございます……」


 テキパキと手を動かして、受付嬢は素材買取の合計金額の提示と共に金貨を並べて見せる。

 魔竜のコアに、鱗、爪、討伐の道中倒した瘴気に引き寄せられた魔物たちの素材も併せて、金貨700枚と言うところか。

 バーチは冴えない顔のまま口元だけ笑みを浮かべようとして、頬を引き攣らせた。どうも感情の表現が下手らしい。受付嬢は気にせず、にっこりとほほ笑んだ。


「バーチさん、私は応援してますから!」

「は、はい……頑張ります……」


 笑顔を浮かべる彼女はとても可愛らしい。このギルドでも評判の受付嬢だ。普段パーティメンバーからも冷ややかな視線を向けられることがほとんどのバーチにとっては、癒しの存在だった。

 もちろん、自分が釣り合うなどとは思ってもいないのでただ見つめているだけで満足だが。



 ギルドを出て、拠点になっている宿屋へ向かう。仲間たちはまだ宴に参加しているだろうから、顔を合わせないうちに戻って休んでしまおう。顔を合わせるとまた嫌味を言われたり雑用を押し付けられたりするだろうから。

 戦闘で力になれない自分は、それくらいしか役に立てないから仕方がないのだけれど……。


「お祭りの時くらい、ゆっくりしてもいいよな……」


 宿に戻ったバーチは、さっさと個室に引きこもってドアにもカギを掛けた。これで酔っぱらって押しかけてきた仲間に無理難題を吹っ掛けられたりすることもない。

 宴の会場からこっそりいただいた来たご馳走を食べて、バーチはすぐに眠りについた。


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