量子力学さえ面白ければ満足していた僕に初めての恋人が出来た話
「重力が重ければ時間の経過も遅くなる。ブラックホールにもし入る事ができたら一瞬が地球の何年にも相当するんだ。…」
初めてのデートは商店街の喫茶店にした。入口ではいつも招き猫よろしく一匹の猫が出迎えてくれる。風情があるだけで断じて古くさくはない。
そして僕としては愉快な話題を提供しているつもりだったのだが。
目の前の女性は、話せば話すほど視線は僕を離れスマホに移り時計を眺め…深く溜息。
いや違う違う待ってくれ!
「イケメンだけが取り柄って噂には聞いてたけど、ホントだったわ。」
わぁ。言葉を選ばないタイプなんだね!
好きな分野の話になるとどうしても熱をおびてしまい繰り出す言葉の勢いに自覚はあるものの止める事は容易ではない。しかし残念だ。伝わらなかったか。ま、問題ない。いずれ僕に合う相手が現れる確率だってゼロではない。…はず。
女性が去った空席を見つめ、さてこの後はどうしようかと思案していると、不意に隣席から声を掛けられた。
「さっきの話、ちょっと面白かったよ?」
思わずガタッと椅子を揺らしたじろぐ僕。
どうしよう。初めてだ。う、嬉しい。
相性が良かったらしい僕達は、教室で机が隣合ったクラスメートの様に急速に距離が縮まった。
「ね、伝わらないかも知れないけどさ。ブラックホールってある意味『無』だし『有』だよね?」
「伝わるに決まってます!お話していいですか!」
その後、『無』に関する見解について結論は出ずとも興味は合致し、心ゆくまで会話に講じれたのは言うまでもなく。
胸が温もり、得も言われぬ高揚感と多幸感。会話は盤石の安定感。店内にも光が溢れ、こんな感情を持つ事は初体験だった。
「帰りたくないし帰したくない。」と正直に告げると、切り揃えられた前髪をサラサラ揺らし大笑いされた。同じ気持ちだと確信して告げたのだが何故大笑い?然しそれにさえも陶酔で、光のあたる髪色がとても綺麗で。
…そして今でも信じ難いが一年後、この人が僕にとって初めての恋人になってくれたのだ。ほらね。確率はゼロではない。
因みに恋人は神社の息子。変わった神社で仏様を隠し持ち、仏教の教えにも理解がある故に『無』で意気投合した。そんな彼は姿も所作も美しく周囲が全て輝き、ははぁこれが光電効果かと唸る。いや何を言ってるのだと引かないでくれ。彼の素晴らしさを惚気けたいだけなのだがあぁくそっ。ここまでか!忌々しい千文字制限め!
とにかく今僕は幸福な事を申し上げ
あえてボーイズラブの登録をしませんでした。彼は性別は関係ないので。
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですがどこかに繋がりがあります。