5 悪女
今回は宮里蒔灯さまからのリクエストで、お題は「悪女」です。
悪女──悪い女というと、一般には、男をもてあそぶ妖艶な女性とか、人を陥れて破滅に誘う女性とかが想起されるでしょう。
「犯罪者」という意味で考える人はあまりいないと思います。そういう人は、「悪女」ではなく「悪人」ですよね。
「悪者」とか「悪役」ともニュアンスが違うと思います。
これらは、特に性別を問いません。
でも、「悪女」は、女性に限られます。しかも、男性の場合を表す言葉がありません。「悪男」って言いませんよね?
ならば、何か“女でなければならない理由”というものがあるはずです。
そもそも「悪女」という言葉は、ある意味ジェンダー的というか、男と女を明確に分けている言葉です。
似たような例として、「魔女」が挙げられます。
「魔男」って言いませんよね。これも、対応する男性用の言葉がないのです。
無理矢理探すなら、「悪魔」なのでしょうが、「魔女」には良い魔女と悪い魔女があり得ますが、「悪魔」には悪い奴しかいないはずです。デビルマンのことは、この際置いておきましょう。
どうしてこんなことになるのでしょう?
それは多分、元々“女性しかならない”からなのでしょう。
例えば、「看護婦」なんかがそうですね。
元々が女性が就く職業、という前提の名付けです。
当時は、男性がなることは珍しく、男性だと「看護士」でした。
今は、ジェンダーレスの考え方から、男女ともに「看護師」ですね。
「保母」「保父」が「保育士」に統一されたのも、同じ理由です。
それなのに、「魔女」に対して「魔男」がないのは、対応する概念が今もって存在しないからです。
さっき、「無理矢理探すなら悪魔」と書きましたが、悪魔が異種族であるのに対し、魔女は人間、という違いがあります。
「魔女っ子メグちゃん」のように、魔女という種族が存在する作品もありますが、基本的に魔女というのは“人間の女が超常の存在から魔力を与えられた”ものなのです。
どういうわけか、人間の男が魔力を与えられてどうこうって話は聞かないんですよね。
少女が誰かに魔法を授けられる、魔法少女ものというジャンルがありますね。
ヒーローものなんかだと、力を託される話がいっぱいあるのに、魔法少年ものというジャンルはないのです。
同様に、「悪女」も、女ならではのジャンルだから、対応する「悪男」がないのでしょう。
女の武器をも使って男を利用して──そう、悪女は女を利用しませんね──目的を果たす。
そもそも“女の武器”“男の武器”ってなんだって話なんですが。
この辺りも、ジェンダー的な匂いがほのかにしますね。
なろうにおける「悪女」というと、婚約破棄ものでいわゆる悪役令嬢を糾弾する時の言葉として使われるのがほとんどではないかと思います。
この場合は、文字どおり“悪い女”として使われていて、性別としての“女”の意味ですね。
なんで「悪女」じゃなきゃダメなんでしょう?
「お前のような悪人は…」と言っても、全く問題ありませんよね。
それを敢えて「悪女」と呼ぶのは、王子の側に悪役令嬢をことさらに貶めたいという意図があるからでしょう。
「お前のような奴は…」ではダメで、「お前のような女は…」と言いたいわけです。
婚約破棄ものこそ、悪女が活躍するお話なのです。
「傾国の美女」なんて言葉がありますね。
これこそ正に“女ならでは”のものです。
王が男性であることが多い都合上、「傾国の美男」というのは出にくいわけです。
そう考えると、いわゆるナーロッパでの王は男性がほとんどですし、「悪女」が存在しうる土壌があるんですね。
ただ、なろう独特でしょうが、婚約破棄ものでは、「悪女」と呼ばれる悪役令嬢の罪状は言いがかりが多く、むしろ「悪女」とは呼ばれないヒロインの方が悪女と呼ぶに相応しいパターンの方が多いです。
現実恋愛の方には、浮気者やDV女が散見されますけど、それは「ヤベー女」であって「悪女」ではありませんよね。
異世界恋愛の婚約破棄ものやざまぁなんかだと、ヒロインがヤベーのではなくて自覚的に悪役令嬢を陥れようとします。
国をどうこうしようという意図はないでしょうけれど、自分が王妃になるために王子をたぶらかし、悪役令嬢を陥れ、と、これはやはり悪女と呼ぶに相応しいでしょう。
場合によっては、ご禁制のアイテムを使ったり、魅了を駆使したりと、大変勤勉です。
ああいうのを悪女と呼ぶのでしょう。
中には、頭にマシュマロが詰まっているようなのもいますが、悪女であることと頭の軽さは両立できないわけじゃありませんからね。
とはいえ、やはり「悪女」にはずる賢く能動的であってほしいものです。
稀代の悪女を紐解いてみたら、頭お花畑のアーパーギャルって、なんか悲しいですし。