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70/73

70発目 準備完了,出発進行!!

「んな……!?」


ガラガラガラ,ズズズズズ……ン。


「ほぅ……この一撃を避けきるか」


まさに,一瞬の出来事だった。


恐らく何十年,下手をすれば何百年も歳月をかけて成長したであろう針葉樹林。


それらが文字通り全て,一刀のもとに薙ぎ払われてしまったのだ。


しかも,先ほどのカトラ様が放った大天砲・戦女神の破槍(バルキリー・ブレイクスピアー)のように,長い溜め時間や強大な魔導エネルギーの開放を行うそぶりすらも,一切感じられなかった。


「も,森が……一瞬で……!? 一体,何が起こったんですか?」


「これこそが,イヴァンナ・フロロヴァの持つ魔剣……真居合刀【影山】の固有能力。


鞘からその身を抜く瞬間にすべての魔導エネルギーを開放する,まさに一撃必殺の魔剣」


ウルマーノフ氏は,霜の降りた窓にその銘を記しながら説明をしてくれた。


シン,イアイトウ,カゲヤマ……見たことの無い文字・発音であり,どの国で作られた業物なのかはわからないが,その手腕とアイデアには目を見張るものがあることは確かだ。


「最初の一撃が,最強の一撃となる……確かにさっきフロロヴァさんの言っていた,通常の刀剣とは比較にならない異質な戦術というのも,頷けますね」


「なるほどな……刀剣自体にエーテル型の魔導回路が組み込まれていると見た」


「さあ,どうかな……!」


不敵な笑みを浮かべ,フロロヴァ氏は地を駆ける。 しかし,既にその魔剣は鞘に収まっていた。


それに合わせ,カトラ様も後ろに飛びのきながら連続して引き金を引く。


華麗なステップで牽制の合間をすり抜け,瞬時にカトラ様に肉薄した。


「はぁっ!」


剣を収めたままの一閃をカトラ様は回転の力を駆使して回避し,フロロヴァ氏にゼロ距離で銃口を向ける。


「甘い!」


しかしその動きは予測済み。フロロヴァ氏は剣の柄を銃身に打ち付けて軌道を逸らすと,その流れのまま切りかかる。


「カトラ様!」


このままではまともに一撃を喰らってしまう……そう思った直後,彼女の身体は弾き飛ばされた。


「がぅ……!?」


「その言葉……どうやら貴様にも,当てはまるようだな」


カトラ様はフロロヴァ氏が打ち込んでくるような隙を自ら作り出すことで攻撃を誘導し,そこにカウンターを撃ち込んだのだ。


相手の動きの特性を完全に把握できなければ難しい戦術。短時間の戦闘のみでそれを見出すことも,カトラ様の類い稀なる観察眼によるものだろう。


「なるほど。先ほどまでの打ち合いの中で,貴様の動きの癖はいくつか見出せた。その隙を突いたつもりだったが,お互い様だったということだな」


「見くびるな。この崇高なるカトラ・フローリアの才覚を以てすれば,そのような動きの予測など,技術でもなんでもない」


「くはははは……それでこそ,というべきだな。そうあってもらわなくては,私の眼に狂いが出たということになる!」


しかし,フロロヴァ氏も負けてはいない。


寧ろ,攻撃を喰らったことによって余計に闘志が燃え上がったようにすら感じられる。


「さあ,行くぞ……カトラ・フローリアッ!!」


鞘に刻まれた紋章を輝かせ,フロロヴァ氏は大太刀を振り上げる。


同時に4つもの衝撃波が展開され,カトラ様に襲い来る。


その合間をすり抜けるカトラ様の進行方向に正確に迫った彼女は,息つく間もなく猛攻を仕掛けていく。


袈裟懸け,横薙ぎ,下段突きから斬り上げ,続けて回転力を加えた二段斬り。


それらの全てに斬撃の形の魔導エネルギーが加わり,衝撃波となって空を裂く。


カトラ様もそれに合わせて踊るように回避と発砲を繰り返し,跳躍して距離を取ると,空中にいる間から既に魔導陣の展開を終えていた。


「速,連……集!」


最も反動が少なく,定点攻撃に特化した組み合わせに切り替えると,フロロヴァ氏の接近を許さぬ猛反撃に出る。


「っぐ……!」


横方向へのステップを繰り返し,的確な速射をいなしていくフロロヴァ氏。


しかし,そこは近接武器の性,近づけなければカトラ様に攻撃を加えることもままならない。


「カトラ様,急に遠距離戦法に切り替えてきましたね……何か目的があるんでしょうか」


「さあな……だが,効果的であることは確かだ」


ウルマーノフ氏の言う通り,フロロヴァ氏の表情にも,少しずつ苛立ちと焦燥が見えてきている。


「貴様,ふざけているのか!! この程度の弾幕で私が倒せるとでも!?」


「さあ,どうだろうな! 現に今,貴様はこの射撃を躱すので手いっぱい。 このまま牽制を続けるだけでも,十分に効果はあると思うがな?」


その一言で堪忍袋の緒が切れたのか,フロロヴァは咆哮を上げて大きく前に踏み込んでくる。


「舐めるのも大概にしろ!!これしきの弾幕で……このイヴァンナ・フロロヴァを止められると思うなぁ!!」


強烈な縦斬りはエネルギー刃も大きく,カトラ様の放つ弾幕をいとも簡単に切り裂いていく。


「はぁああ!!」


カトラ様の回避する方向を予測したフロロヴァ氏は,彼女の視界に入らないほど斬撃に密着して進み,強烈な横薙ぎを繰り出す。


しかしそれは,激情に任せた浅はかな戦略。


彼女の刃は空を切り,背後に迫るカトラ様の凶弾を躱すことが出来ないほどの大きな隙をさらしてしまう結果となった。


「言ったろう? 十分に効果はある……と!」


ズガガガガガガガガガン!!


連続して発射された魔導弾は,それを防ごうとしたフロロヴァ氏の手に見事に命中し,魔剣を鞘ごと弾き飛ばすのであった。


〇○○○○


「……くそ,どうにも納得がいかん」


戦いが終わり,窓を通って二人は部屋に戻ってきたとき,開口一番フロロヴァ氏が発した台詞はそれだった。


「感情に煽られて冷静な判断力を見失うことも,立派な実力の欠陥……そうだろう?


この崇高なるカトラ・フローリアの才覚を以てすれば,あの場面で堂々と正面から突っ込もうなどという結論には至らんな」


「まぁまぁカトラ様,戦闘時以外で煽るのはあまりよくありませんよ。カトラ様だって,完全な戦闘の腕前だけで勝利することが難しいと判断しての行動だったのでしょう?」


「……まぁ,それもそうだがな。恐らくあのまま技能勝負のみをしていては,お互いに決着はつかなかっただろう」


「それに関しては,概ね同意だ。決着がつくにしても,お互い必要以上に消耗していただろう」


軽く言ってのけているものの,これまでカトラ様の実力をしかと見届けてきた私だからこそ,彼女に認められるということがどれほど難しく,そして偉大なことであるかがよくわかる。


イヴァンナ・フロロヴァ……彼女もまた,十二分に,1組織の頂点に君臨できる実力はあるはずだ。


「仕方ない。約束だ,今回は負けを認めてやろう。しかしカトラ・フローリア……次もまた,これほど簡単に勝てると思うなよ」


「そもそも,今回の戦い自体が必要なかった,って話ですがね」


ウルマーノフ氏のごもっともな突っ込みを華麗にスルーすると,イヴァンナ氏はデスクの棚を開け,カードキーをカトラ様に投げ渡す。


「ほら,約束のキーだ。これで本部まで向かうことが出来る。道順はウルマーノフが知っているから,こいつに操縦させるといい」


「感謝する。それでは,借りていくぞ」


ぱしっとカトラ様が鍵を受け取ったのを確認すると,ウルマーノフ氏はドアまで向かった。


「魔導四輪の場所はこっちだ,ついてこい。フロロヴァ隊長,失礼します」


「お,お世話になりました……!」


どかっとデスクに座るフロロヴァ氏に向かって一礼すると,私はウルマーノフ氏に続いて部屋を出る。


「……これだ」


そのまま裏口のような通路を通って外に出ると,目の前には巨大な4輪車が鎮座していた。


その様相は,まさに戦車。


タイヤを隠すように張られた巨大な装甲をはじめ,日常生活に使おうとすると明らかに支障が出そうな装備が積み込まれたそれは,私の想像を越える重厚さだった。


「わぁ……これまた,凄い大きさですね……こんなので移動するんですか?」


「寧ろ,これだけ搭載しなければ移動すらままならない,と言った方が正しい。俺たちがこれから進む道は,そういう道だ」


「ひぇえ……い,一体,どんな障害が……」


「まぁ,口で説明するより遭遇してみる方が早いだろう。 ほら,さっさと乗れ」


「は,はい……!」


私達が乗り込んだのを確認すると,ウルマーノフ氏はエンジンをかける。


ズゴゴゴゴゴっと重厚な音を立てたその重戦車は……一気にぐいんと加速し,その見た目からは想像がつかない速度で雪原に向かって飛び出していった。


10カ月ぶりくらいの投稿でしょうか,長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

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