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6発目 火竜の進撃

「カトラ様!カトラ様は……ぁぐぅう!!?」


 部屋のポータルを使い,パレゾイック工房へ移動すると,金属を打つ音,何かを焼く音,流し込む音……とにかくいろんな音が混ざりあってとんでもない騒音となっていた。


 外にいる間やホテルの中では全くと言うほど聞こえてこなかったので油断していた。本来ならそのとんでもない遮音能力に感心するべきところではあるのだが,今の私にそのような心の余裕はなかった。


「ここにはいないのかしら……カトラ様……!」


「あんたは……召使の奴じゃねぇか。どうしたこんなとこで?って,その様子だと聞こえてないな」


 耳を塞ぎながら探していると,見覚えのある男が話しかけてくる。何を言っているのか聞き取れたものではないが,あまりにも特徴的な燃え上がるコート……シャルル氏だ。その背中には,身の丈ほどもある杖を背負っている。迎撃用の武装なのだろう。


「何を言ってんです?周りがうるさくて全然聞こえません!!それとカトラ様は何処ですか!!」


シャルル氏は大げさなジェスチャーでやれやれとため息をつくと,私のそばを過ぎて奥のポータルの方に向かう。


「ほれ,コイツを付けな」


“洗浄済”と書かれた袋から取り出した魔具を渡してくる。それを何とか耳に付けると,先ほどまでの騒音が嘘のように小さくなった。


「声以外の波長をカットする魔具だ。これで聞こえるだろ?」


「は,はぁ……助かります。見落としていました」


「で?お嬢様だっけ?彼女なら,奥の整備室にいるぜ。もしかして,もう火竜(サラマンダー)達の討伐に向かっちまったかと思ってヒヤヒヤしてたのか?」


「そ,そうですよ!ホテルから見える森が,既に炎上しているのが見えたのです!一体どれだけの被害を出してしまったのかと……」


「落ち着け落ち着けって。ちゃんと隣のホテルからの通報を受けて,準備はしてるから。こっちだ,ついてきな」


「そ,そうなのですか?わかりました……」


 シャルル氏に案内された部屋の戸を開けると,そこにはカトラ様と,整備士と思われる者が数人いた。


「カトラ様!ここにいらしたのですね!」


「ミーアか。オネイロスとの交信は終えたのか?」


「はい,この通り」


 右手の甲に刻まれた刻印を見せる。カトラ様は頷くと,すぐ整備士の方に向き直った。


「それで,試射は可能か?」


「ど,どうでしょうか……一応設備はございますが,部屋の設定などの調整に少々のお時間が……」


「ならいい。ある程度急を要する以上仕方ないことだ。ペアリングさえ済ませてあれば多少の出力差は気にならんし,GK反動制御機構(はんどうせいぎょきこう)は付いているのだろう?」


 目の前にある魔導機銃は,恐らく店舗で所有している量産機。


 カトラ様のメインウェポンである魔導機銃“エイペックス・グルーオン”は,現在シャルル氏による調整中であるため使えないことから,即席で用意したのだろう。


“ペアリング”というのは,魔導機銃と自身の魔導回路を同調させる作業のこと。カトラ様は自身の魔導と銃による魔導とを組み合わせて戦われるタイプであるため,ペアリングを行わないで使った場合暴発の危険性が高まってしまうため,必須の作業である。


 そしてGK反動制御機構とは“GK技術”と呼ばれる,飛行や浮遊などに関する魔導を行うための技術を魔導機銃の機構に応用したものである。


 炎子回路(炎属性)と空子回路(空属性)の組み合わせにより,銃を撃った時の反動を軽減したりするだけでなく,銃が動くことで発生するブレなどを抑制することでより精密な射撃を可能にする便利な技術だ。


「え,ええ……しかし,本当にそれを使うのですか?その銃は確かに扱いやすい部類ではありますが,我々の経験上竜族のように強力な魔獣族を相手出来るほどの性能では……」


「くどいぞ。この崇高なるカトラ・フローリアの目を以て,問題ないというのだ。それ以上の理由は必要ない」


「は,はぁ……」


「ほら,時間がないのだろう?火竜どもの進行具合も気になる。そろそろ外に出ようか」


「確認だが……本当に俺たちは後ろで防衛しているだけでいいんだな?」


「いい。寧ろ,変に連携も取れない中でうろちょろされると気兼ねなく弾を撃てん」


「ケッ,邪魔者扱いかよ。いい根性してるぜ」


 そんな話をしながら工房の入り口に辿り着く。遮音効果を保つために二重になっている扉を開けると……


「グォォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 耳をつんざく咆哮が響く。


「んなっ!!?も,もう来ていやがったのか!?」


「あ,あそこにいます!!」


 木々の上から,重い羽ばたきの音。


 体長10メートルは優に超える,巨大な火竜だ。


「くっそが……!」


 一斉に臨戦態勢をとる。


 良い獲物を見つけたと思ったのだろう,火竜は涎を垂らしながら大口を開けて向かってくる。


「グァァアアアアアオオオオオオオオオ!!」


 そんな中,カトラ様が呟いたのはたった一言。


「まずは……一匹……!」


 それとともに,ダンッと真っすぐ火竜に向かって跳躍した。


「んな!何を……!!」


「カトラ様ぁぁぁぁあああああああああああ!!」


 叫びの残響ごと,火竜の口はカトラ様をばくんと丸のみにする。


 それはまるで,一瞬の時が何分もの時間に引き伸ばされたような感覚だった。


 しかし……きっとその静寂は,きっとたったの一秒さえもなかったのかもしれない。


 何故なら……




 火竜が満足そうに鼻を鳴らし,着地をすることもしないうちに,その頭部が内側から粉々に吹き飛んでしまったのだから。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 状況説明と会話の順序がきれいで読みやすいです。また、視点が一つのためストレスなくすぐ読めて良いと思います。 [一言] 4発目の時にも書かせて頂いたのですが、魔法や武器、その他世界感などをグ…
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