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57発目 超大陸型召喚魔導陣

「エル……ドラド……」


 カトラ様がグルーオン家を追放されるきっかけとなった,ベリエス公子の住まう国。


“黄金郷”とも呼ばれ,地上界でも特に重要な価値を持つ金を,最も多く有する国家だった。


 しかし,問題なのはそこではない。


「確かに,あの国に今回みたく魔獣の群れを生み出せば,相当な大混乱を招くことが出来る。だが……地上界を混乱に陥れるだけが目的ならば,寧ろこのリーマップの森に出現させることこそ不適切というもの。一体,その目的っていうのは……」


 サッパリ推理の進まない私達を尻目に,カトラ様はぶつぶつ呟きながらペンを動かす。


「国の中で,火山帯と森の二点と位置が等しくなるのはこの地点……対岸である可能性は?構築式を最適化する場合は……排除できるな。軸となるのは闇属性,ホロウ・エレメント方程式を適用して……」


「か,カトラ様……?」


「……やはり,そうなるな。まさか,とは思ったが……本当に,とんでもない計画を企てるものだ」


「なにか,わかったんですか?」


 溜息をつくカトラ様に問いかけると,彼女は改めて私達を中央の机に呼ぶ。見てみると,地上界の全体図を現した地図に,マル・タンボ火山帯,リーマップの森,エル・ドラド金皇国の一部に,それぞれマル印がつけられていた。


「にわかには信じがたいことだが……奴らが作り出そうとしている“魔導陣”というものの,全体像が見えた」


「全体像……?」


 マクラウド氏の,問いかけとも呟きともとれる言葉にうなずくと,マル印を線でつなぎ,そこから更に線を描き足していく。


「この3点は,奴の言う通り魔導陣の軸……魔導陣の中心となる,五芒星の頂点となっている。それを考慮すると……」


「えっ……!?そんな,まさか……」


「こ,これは……!?こんなサイズ,あり得ないでしょう!!?」


 その場の全員が息をのむ。そのままカトラ様が描ききったものは……


 大陸を跨ぎ,海を越えて形成された,あまりにも巨大な魔導陣。


 その広大さは,私達の住んでいるメタヴィアス公国が,まるごと2~3個すっぽりと魔導陣の中に収まってしまうほどだった。


「どうだ?ワークランド。お前たちが完成させたい魔導陣というのは,これで間違いないのだろう?」


 カトラ様がその地図を見せると,ワークランド氏は感心したような声を上げる。


「なるほどな,全体像はこうなっていたのか。大陸を横断し,世界を覆うほどの魔導陣を形成すると言っていたが……確かにこれほどの規模であれば,皇獣族を召喚することも出来そうだ」


「皇獣族を……召喚……!?」


やはりな,とカトラ様は呟く。つまりは,そういうことなのだろう。


 この世界地図に示された,大陸をも跨ぐ巨大な魔導陣を使用して,皇獣族……闇竜皇・ラドナグライヴァを召喚する。それこそが,冥帝教の目的。


 皇獣族を,神にも等しい超越魔導生命の一角を,無理やり召喚することなど,出来る筈がない……普通であれば,そう思うだろう。だが,召喚に使う魔導陣の規模は大陸を跨ぎ,その魔導陣を形成するのは,各属性を司る竜族(ナーグッド)達の,溜まりに溜まった大量の怨念。不可能だと断ずるには,あまりにも1つ1つの要素が強すぎた。


 しかし,いざ対処すべき状況が出来た時,カトラ様の行動は早い。


「ミーア!シノゾイック工房に連絡を取れ。ワークランドから得た情報を,全てファイスに報告するんだ。既に魔導陣を形成する軸の内,2つが完成してしまっている,急いで手を打たねばならないだろう」


「畏まりました,カトラ様」


「アレキサンダーはこの土地の領主に連絡を。万が一手遅れになった場合,被害に遭う一般市民は出来る限り少ない方がいい」


「了解です!」


 次々と指示を出していくカトラ様。先ほどまでとはまた違った緊張感のもと,リーマップ・フロンティア本部は急激に慌ただしさを増していった。



♢♢♢♢♢



「冥帝教……闇竜皇の復活……マル・タンボ火山帯で発生した一連の事件は,パレゾイック工房の工房長,バージェスより伺っておりました。しかしながら,我々もここまで規模の大きな事態にまで陥るとは考えておりませんでした。反省しております」


「いえ,こちらも伝える情報に不足はございましたから,仕方ありません。」


 本部の奥まった一室。テーブルに置かれた魔具から,ホログラムのファイス工房長の姿が投影されている。リーマップの森に来る前にスペンサー氏から支給された,映像機能付きの通信端末だ。


「私の方からも,近隣の工房や環境管理組合に連絡を取り,連携を強化することにいたします。チーム・フローリアは明日の便を用いてすぐさま帰還し,我々の指示に従ってください」


「畏まりました。カトラ様にも,そのようにお伝えいたします」


「よろしくお願いします。他に何か,我々に報告しておくべきことなどは?」


「特に何も。必要な事項は,概ね報告し終えたと把握しております」


「わかりました。それでは,通信を終えますね」


 軽い挨拶をかわし,ホログラムの映像が消失する。ふぅっとため息をついてカトラ様のもとの戻ろうとすると,ぴぴぴっと再び通信端末が鳴った。


「あら,何かしら?」


 画面を見ると,スペンサー氏の私用アドレス。先ほどのファイス工房長との通話を繋いでくれたのが彼女であることからも,まだ集会所にいるはずなのだが,話している間に休憩時間にでも入ったのだろうか?


「はい,フローリアです」


「あ,ミーアさん?ごめんね~,ちょっといいかしら?」


「構いませんけど……何かあったんですか?」


 わざわざ集会所の回線を使わない辺り,何か公には言えないことなのだろうか。彼女の声も,どこか人目を気にしている様子だった。


「そうなの。ちょっと,マクラウド君のことでね?」


「あぁ,はい。……って,マクラウド,君?」


 QROでマクラウド氏と話す時,スペンサー氏からの呼び名は「アレン」と呼び捨てだったはず。そう疑問を抱いていることを察しているのかいないのか,彼女は話し始める。


「うん。彼の処遇について,ちょっと相談したいことがあるのよ~。QRO内でも,受付のみんなと前々から話してはいたんだけど,工房としては,あくまで彼の意思を尊重するべきだってことでさぁ……」


「はい?彼の,意思?何のことですか?」


「実はね……」


 彼女はずいっと顔を画面に近づけ,囁くようにこう告げる。


「マクラウド君をさぁ……シノゾイック工房からの移籍っていう設定にして,リーマップ・フロンティアの専属になるように,説得しちゃって欲しいのよ~」


「……はい……?」


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