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56発目 冥帝,復活の怨嗟

 すっかり日が暮れ,寒気と暗闇に包まれたリーマップ・フロンティア。


 その中で煌々と明かりが灯っているのは,中央本部の会議室。


「さて……。これでようやく,落ち着いて話が訊けるな」


 カプセルの中から取り出した後もしばらくの間喚き散らしていた研究員の女性も,施設に常駐している心理士の助力もあって何とか落ち着きを取り戻してくれた。


「さあな……私のような下っ端の研究員を捻ったところで,お前たちにとって有益な情報が得られるとも思わないが」


「お前の情報が有益かどうかの価値判断は,この崇高なるカトラ・フローリアが決定する。お前に口をはさむ余地はない」


「それに,私達はほとんど何も知らない状態ですからね……少しでも組織について把握できれば,対策も立てやすくなりますし」


 現在判明していることと言えば,組織の名称・形態が“冥帝教”という宗教団体であること。それの指導者として「サリエル」という英霊族が関わっていること。そして,その目的が,かつて世界を崩壊させた冥望龍・アペルピシアにあるということ。これだけだった。


「ともかく,だ。私の行う質問には,全て,正確に,かつ,私の今話しているメタヴィアス語によって回答を行うこと。偽った場合や白を切る場合はその指を一本ずつ弾いていく。いいな」


「ッグ……」


「しかし,この研究員が嘘をついていないということは,どのようにして判定するので?」


「ああ,それは俺がやるよ」


 立派な髭を弄りながらのアレキサンダー氏の問いかけには,マクラウド氏が反応する。彼は魔導陣を形成すると,女性の思考回路をそこに映し出す。


「彼女の発言と,その思考内容が一致していなかった場合は,俺が知らせる。完璧だ」


「……なんとまぁ,便利な能力を持っているものだ」


 観念したのか,溜息をつく研究員。同意が得られたと判断したカトラ様は,早速質問を開始した。


「では始めよう。まず,名前だ。お前の名を答えろ」


「ミグノフだ。ミグノフ・ワークランド」


 妖魔族が言っていた名前(マクラウド氏曰く)と一致する。ここまでは問題なかった。


「よろしい。それではワークランド,冥帝教から受けた,お前への命令は。その内容を答えろ」


「っぐ……」


 流石に口ごもる。当然機密事項でもあるため,口外はしないよう厳重に言われているのだろう。ただ,それもカトラ様の威圧にはかなわない。


「……この地に,竜の怨嗟を刻むこと。竜族(ナーグッド)を大量に召喚し,それらを殺戮することにより,奴らの恐怖と怨恨の感情が,この地に根付く。それが目的だ」


「恐怖と,怨恨……どうにも物騒な響きですなぁ……」


「それに関しては,私達が前に遭遇した研究者も言っていましたね。闇竜皇(あんりゅうおう)……と言っていましたが……」


 闇竜皇が蘇れば表彰してやる,世界に混沌が訪れる,そんな話だったかを,ウェストはしていたような気がする。発狂状態で発していたものであったため,あまり信頼性の取れるものではないが……


 しかし,何気なく発した私の言葉に,ミグノフ氏は過剰に反応する。



「あ,闇竜皇……!?おい,その名を誰から聞いた!!」


「えっ!?あ,いや,その……」


 驚いてしまった私に代わり,カトラ様が説明をする。


「ああ,マル・タンボ火山帯で遭遇した,ウェストとかいう研究者だ。闇属性の竜族を統括する超越魔導生物……皇獣族だそうだな。


 お前たちが刻もうとしている竜族達の怨恨がこの地に根付くことと,闇竜皇が復活すること……この二つに,何か関係があるのか」


「あの間抜け,余計なことを喋りおって……!」


「何か関係があるのか,と聞いているのだ。既にその名はこちらに割れている。黙って指を吹っ飛ばされても,今ここでしゃべっても変わらない情報だ,さっさと吐け」


 舌打ちをするワークランド氏に,カトラ様は恫喝する。小さく悲鳴を上げ,彼女を睨むことで抵抗の意志を見せるも,じきにその威圧感に屈する。


「……くそ。わかった,話せばいいのだろう。


 闇竜皇の復活のためには,魔導陣が必要なのだ。大地に刻み込まれた怨恨は陣の核を形成し,光と闇を除いた5色の恨みの力が収束した時,世界を闇の色に染め上げる儀式によって闇の皇帝が復活を果たす……」


「魔導陣……5色の恨みの力,だと……?」


「その通り……お前たちがこの地で土竜を殺せば殺すほど,その怨嗟は増大し,強固な核を形成する……その核こそが,闇竜皇の復活に必要なのさ」


「ど,どういうことだ……魔導陣の核?皇獣族だと!?お前達,このリーマップの森を使って,まだ何かするつもりなのか!?」


 ガンっとアレキサンダー氏は机に手を叩きつける。その様子を嘲笑うように,ワークランド氏は笑みを浮かべた。


「どうかな……まぁ,少なくとも……この森の中だけに被害が留まると思っているのなら,お笑いだな」


「んな!?なんだと……!?」


 魔導陣の形成,闇竜皇の復活……どれも物騒な,この一件だけで事態が収束する用には思えない発言ばかりだ。


 だが,それらの単語に皆が反応する傍ら,カトラ様は別の言葉に警戒心を見せていた。


「この森だけに留まれば……お笑い……?」


「……?いかがいたしました?カトラ様」


 真剣に思い悩む彼女に問いかけると,彼女は何かに気付いたように目を見開くと,職員の一人に声をかけた。


「おい,そこのお前……地上界全体の地図はあるか!」


「えっ?ち,地上界全体の,ですか?この森だけでなく?」


「ああそうだ,出来れば比較的正確に地理情報を示した楕円地図が望ましい」


「わ,わかりました,探してきます。どこだったかな……」


 慌てて出ていく職員を見届けるカトラ様。その顔はいつになく深刻そうな面持ちだった。


「……気付いた,みたいだな……」


「ど,どういうことなんだい,カトラ?」


 ワークランド氏とカトラ様以外の全員が首を傾げる。しばらくして地図を探しに出た職員が戻ってくると,一番大きなデスクにカトラ様は地図を広げる。


ペンを一本取り出すと,彼女はリーマップの森と,マル・タンボ火山帯の2ヵ所にマル印をつけた。


「答えろ,ミグノフ・ワークランド。他の場所はどこだ」


「他の場所,だと?何のことだかわからんな」


 ズガン!!


「ひえっ!?」


 カトラ様の拳銃が火を噴き,正確にワークランド氏の小指を撃ちぬく。


「ぐぎゃあああああああああああ!!?な,何を!!貴様,何をいきなり!!」


「最初に言ったはずだ,嘘を言ったり白を切る場合はお前の指を弾いていくと」


「こ,この程度のことで……!?悪魔めぇ……!」


 脂汗をにじませ,縛られたまま身もだえするワークランド氏。そんな状態になっても,カトラ様の尋問は止まらない。


「さっさと言え。お前の知っている,魔導陣の核とやらが形成される場所だ。他にも知っているんだろう?」


「ひ,ひぃいい……!」


 ワークランド氏は,痛みと恐怖から涙目になってしまっている。これはウェスト氏と同様じきに発狂してしまうかもしれないと思うが,まだ何とか理性の意図は切れなかったワークランド氏が言葉を続ける。


「はぁ,はぁ……!わ,私が知っているのは,火山帯を含めてもここ以外に2ヵ所だ!あとの2つは知らん!!」


 2か所……そこでピンときたのは,地下の大空洞での会話。銃を突きつけながらマル・タンボ火山帯の名前を出した際に,ワークランド氏が出した研究者の名前が二人分だったのだ。カトラ様もそのことには思い至ったようで,カツカツと靴を踏み鳴らしながら質問をする


「“塔”のあった洞窟で答えた研究者の数と一致するな。片方はウェスト,もう片方は……」


「ノーデンス。ジャック・ノーデンスだ。この森に来る前に,少しだけ話した」


「把握した。それで,ノーデンスが向かう場所はどこになる。ついでに,その色もだ」


「色?」


 いまいちカトラ様の理解に追いついていないためそれが何を意味するものなのか把握し切れないものの,それに二人は答えてくれない。


 しかし……ワークランド氏の口にした“その場所”には,私も聞き覚えがあった。……それも,嫌というほどに耳にこびりつき,カトラ様が追放されたその時から,もう二度と聞くはずはないと思っていた場所……


「ノーデンスが任された土地,その名は……地上界で最も輝きに満ちた,黄金郷。


……エル・ドラド金皇国。担当する色は,雷だ」


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