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55発目 決着

「グゴォォオオオオオオオオアアァァァアアアアアアアア!!!」


洞窟内の大気の全てを揺さぶるほどの大咆哮。


 カトラ様ですら思わず耳を塞いで顔をしかめるほどの絶叫が,惨劇の合図だった。


 壁面に亀裂が走る。


 岩盤が裂け,砕けた岩石の塊が土属性の導子を纏って浮かび始める。


 カトラ様の本能が全力で警鐘を鳴らすも,大地の震動と音圧によって動けない。


 一刻も早く目標を仕留め,崩落を始めた洞窟から脱出しなければ……そう思って目を向けた時,彼女は羅震竜の異変に気付く。


 翼を広げて体重を後ろに向け,前脚を浮かせている。ここまではまだいい。


 問題は,その全身の甲殻までもが崩壊を始めていることだ。


 がらがら,ぱらぱらと欠片が落ち,あれほど破壊するのに苦戦していた白銀の鎧が剥がれ始めている。


 いつの間にか咆哮も止まっており,大きく振りかぶった両前脚は力を溜めているようにも感じられた。

 

「まさか!!」


 カトラ様がその考えに至った途端,全体重をかけた羅震竜の前脚による一撃が洞窟の床に打ち付けられる。

 

 ズドォォオオオオオオオオオオオオオオン!!


 衝撃波がその場のすべてを吹き飛ばし,ひび割れが一瞬にして岩山全体に広がる。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 鼓膜がつぶれてしまうほどの轟音を感じる頃には,地中深くに潜っているはずのカトラ様の視界に太陽の光が映る。


 一瞬にしてばらばらに崩壊した岩山は,その時点で小石の破片に至るまですべてが羅震竜の配下にあった。それらは自然にはありえない勢いで落下をはじめ,森林地帯全体を揺るがすほどの衝撃は局所的な地震を引き起こすほどまでに至った。


「カ……カトラ様ぁぁあああああ!!」


 それが発生したのは,ちょうど私達が洞窟の外に脱出したころ。私の絶叫が余韻となって消え去る頃……目の前にあったのは,巨大な瓦礫の山だけだった。


「そんな……カトラ,様……」


「ミーア……」


 あのカトラ様が負けるはずがない……そう思っても,今目の前にあるのが現実だった。


 いや……それよりももっと,酷かった。最悪の静寂は,更なる最悪によって砕かれる。


 ズズズズズ……


 大地が揺れ始め,みるみるうちにその震度を増していく。


 それが最高潮に達した時,岩山だった瓦礫たちが火山の噴火のように吹き飛んだ。


「ミーア,危ない!!」


 こちらに飛んでくるつぶてをマクラウド氏が弾いていく。その向こうにいたのは,傾きかけた太陽を覆い隠す巨大な翼。


 先ほど地底で見たものとは,明らかに姿かたちが変わっている。


 筋骨隆々の四肢に甲冑の如き甲殻はなく,代わりに無数の岩石の塊が鋭利に突き出た攻撃的なシルエットを形成している。


「ヴゴォォオオオオアアアアアアアアアアア!!」


 巨大な岩石の塊を形成したドーゼル・グランディアは,それを猛スピードでこちらに向けて撃ちだした。


 まるで隕石の如きそれは,絶望を引き連れて私達に迫る。


 だが……私達の持っていた戦力は,その絶望が叶うほど小さくはなかった。


「仕方ないな……俺がやるしかないか」


 マクラウド氏の声が聞こえる。


 瞬間,巨大な土竜が放った砲撃は,その数を何十倍にも増幅させて本人に帰っていく。


「何もかも,無駄なのさ……俺の,【写鏡(パーフェクトミラー)】の前ではね」


「グゴオオオオアアアアアアアァァァァァァ!!」


 羅震竜の絶叫は,襲い来る岩石の塊によって多い潰されていく。


「さあ,ダメ押しだ……!お前の能力をコピーさせてもらう!!」


 魔導陣を展開し,新たな岩石の塊を生み出していくマクラウド氏。


 それを全速力で打ち出すのは,魔獣が襲い来る岩石の塊を砕き割った直後だった。


「ガグウウウ!!」


 巨岩は標的の顎に直撃し,先ほどの形態と変わらず顔面を覆う甲殻に衝撃が走る。


 だが,そこは流石の歴戦個体,他の魔獣と違ってそれだけでは斃れない。


「ググゥゥウウウウウウアアアアアアアアア!!」


 かぶりを振るだけで岩を弾き飛ばすと,大きく両腕を広げて咆哮する。


「ひぃいっ……!?」


 圧倒的な威圧感と共に大地が揺れ始め,私達の周囲に岩石の塊が形成されていく。


「こ,これは……!」


 岩の塊は360°全方位,隙間なく私達の周りを埋めていく。


 鏡写しにされて反射されるなら,そうならない,あるいはされても問題の無い攻撃をするまで……そう思ったのだろう。マクラウド氏を見ても,苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


「ま,マクラウドさん……」


「くそ……反射自体はできるけど,これじゃあダメージも通らない!どうすれば……」


 これが対処できても,ダメージが通らなければ意味はない。このままじり貧になって終わりだ……そう思った時のことだった。


「 極 天 砲 !!」


 地中からまばゆい光が放出し,巨大な魔導陣が連続して形成される。その凛とした叫び声は……!!


戦女神の激烈砲(バルキリー・アブソルートカノン)!!」


「カトラ様!!」


 撃ちだされる,一筋の光。


 それは装甲のなくなり防御性能が消し飛んだドーゼル・グランディアの腹部を正確に撃ち抜く。


 岩石の塊を通してもなお目を刺し貫く,太陽よりも大きく,力強い輝き。


 天空を覆い潰す大爆発は,土属性魔導の持つ硬質化の影響を無視し,その身を悉く蒸発させるのであった。



♢♢♢♢♢



「んぅ……」


「あ,お目覚めになられましたか?カトラ様」

 

 すっかり日も暮れ,ちょうど私達がリーマップ・フロンティアに帰り着くころ。


 私におんぶされたカトラ様は,軽いうめき声と共に意識がお戻りになる。


「あぁ,ミーア……お前の背中だったか。外にしては,どうにも温もりがあると思った」


「うふふ,お褒めに預かり光栄です♪」


「いいなぁカトラ。俺なんて,さっきミーアに回復を頼んだら,断られちゃってさ」


「なんだお前は,今までのやり取りを通して,欠片でもミーアにそれを許してもらえる要素を手に入れられたと思っているのか?そのおめでたい頭だけは称賛にあたるやもしれんな」


「ええっ!?そ,そんなにぼろくそ言わなくてもいいじゃないか!!」


「まぁまぁ。直接言ってしまっては可哀想ですよ」


「ねぇミーア!?ちょっとは否定してくれよぉ~!!」


 がっくしと肩を落とすマクラウド氏とのやり取りを,ゲニウスはコロコロ笑いながら楽しんでいる。正直に言って私の胸や下半身にばかり目を向けながら「君の能力で俺も回復させてくないか?」と問いかけてくる彼は控えめに言って相当気色悪かったが,指摘して気を病まれても面倒なので黙っておくことにしていた。


「おお,帰ってきた!!カトラ様達だぞ!!おーいお前ら,早く来い!!英雄様ご一行の凱旋だ!!」


 温泉の裏手から敷地内に入ると,すぐさま複数人の声が聞こえてくる。ぞくぞくと職員たちが出てくる中,真っ先にその姿を認識することが出来たのは,やはりアレキサンダー氏だった。


「うおおおーーーー!カトラさん!!魔獣どもの討伐,お見事でしたぞーーーーーーー!!」


「ひぃいっ!?ちょ,お,落ち着いてください――!!」


 どずどすどすと地響きを鳴らし,こちらを轢き潰さんばかりに突っ込んでくる彼にはさすがに肝が冷えたが,とてつもない体感によってびたっと私達の真正面で止まってくれた。


「はぁ,はぁ,はぁ!!よくぞ!よくぞご無事でお戻りなさったぁ!!」


「わかったわかった暑苦しい。ほら,いいから早く中に入るぞ。話はそれからだ」


「うっす!!」


 カトラ様の鶴の一声で,一斉に職員たちが屋内になだれ込んでいく。その騒がしい光景は,日常を求める疲れた体によく効いた。


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