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53発目 羅震竜ドーゼル・グランディア

「カトラ様,一体何を……?」


「奴らに奇襲を仕掛ける。恐らく今,呑気に坂を駆けのぼっている馬鹿どもにな」


「えっ?それって,どういう……」


 いまいち要旨のつかめず疑問を投げかける。しかし,それを言い終わらないうちに,突然遠くの方から叫ぶ声が聞こえてきた。


「RUKEIGUHAZOAS(気配がするぞ)!」


「AAUYMTER(奴らめ), SNNNKZEEIINDAYO(根絶やしにしてやる)!!」


「来たよカトラ!」


「仕方ない……説明は後回しだ」


 妖魔族が現れ,何か訳のわからない言葉を叫んでいる。しかし,彼らが武器をこちらに向けると同時に,カトラ様は地面に爆発する銃弾を撃ち込んだ。


「落ちるぞ,衝撃に備えろ!!」


 ズドォォオオオオオン!!


 強烈な爆発と共に地面が一気に崩壊し,悲鳴すらかき消す轟音と共に私達は落下する。もしこの下に何もなければ,すぐに穴の底に衝突してしまう……


 ……筈だったのだが,私達の目の前に広がっていたは,明るい照明に照らされた巨大な空間だった。


「んな……!?まさか,あいつらは!!何故この場所がわかったのだ!!?」


 聞こえてきたのは,明らかに人間の女性の声。私ともカトラ様とも大きく違う,高圧的な声がした。窓が小さく,周りの景色はほとんど見えないが,それがどのような人物なのかは概ね推測がついた。


「ゲニウス!!マクラウド!!」


 カトラ様の指示が飛ぶ。それと同時に,私達の身体は床に衝突し,衝撃を吸収した岩石の塊は砕け散った。


「あぐ……!?」


 おかげで私の身体には落下によるダメージはほとんどなかったが,いかんせん私が高いところからの着地に慣れていなかったため,それでも腰をしたたかに打ってしまった。


「ミーア,大丈夫!?」


「いたたた……って,ここは……!?」


 周りを見渡すと,その広さはQROの酒場の半分ほど。洞窟内の場所としてはかなり広かった。


 天上を見上げると,私達が落ちてきた場所には真新しい岩の塊。恐らくゲニウスが作ったのだろう。


 室内には,大量の妖魔族と,白衣に身を包んだ研究者らしき女性が一人。どうやらこの場所での指揮を任されているのが彼女のようだ。


 そして彼女の背後にあるのが……円形に並んだ,人間の背丈の2倍ほどの細長い建造物たち。その数は6本,そのうち1本はひび割れ,崩れかけている。あれらがゲニウスの言っていた“塔”であることだけは,火を見るよりも明らかだった。


「やはりな。ミーアにもたれかかって休んでいた時に,気配を探っておいて正解だった。剛蹄竜がまるで示し合わせたかのように,ピンポイントで私達目掛けて2体も襲い掛かってくるなど,何者かの指示があったことを疑わないわけがないだろう?」


「っく,やはり逸ったか……!だが,この場所が我々の本拠地であることを忘れるな! MEAOTAIT(お前たち),KSATEAIMKEUDMOINIIUT(始末できなくてもいい),WIKNAJSEANGEOK(時間を稼げ)!!」


「AROKYIU(了解)!!」


 妖魔族の言語で指示を出すという,さらっと優秀な点を見せる研究者。妖魔族たちは咆哮をあげ,一斉に私達に飛び掛かる。


 だが,取り巻きの妖魔族程度,崇高なるカトラ様の敵になどなろうはずもない。


「烈,散,轟!!爆散弾,乱!!」


 ドガガガガガガガガン!!ズドドドン,ズガガガガガガ!!


 鳴り響く銃声。はじけとぶ肉の塊。妖魔族の甲冑のような外皮は下手な攻撃では傷一つつかないものであろうに,まるで紙切れのように簡単に穴が開き,緑の鮮血と共に飛散していった。


「んな……ひぐっ!!」


 真っ青になる研究者の喉元に,カトラ様の銃口が突きつけられる。その間,僅か10秒にも満たないほどだった。


「さて。貴様にもいろいろと事情を聴く必要がある。せめてマル・タンボ火山帯にいた奴よりは,知っていてもらうぞ」


「な,何を言っている……マル・タンボ!?ノーデンスの話か,それともウェストのことか!?」


 ガタガタと震える研究者の口から,2名ほどの名前が出てくる。火山帯にいた者の名は,“デイビッド・ウェスト”といったはずなので,後者だ。


「やはり知っているな。全て吐くなら解放してやるが,それまでは拘束させてもらうぞ。ミーア!」


「はい,ただいま!」


 急いでバッグを探り,取り出したのは小さなカプセル。シャルル氏の持っていたものと同じものだ。火山帯での経験から持っておいた方が良いと思い,シノゾイック工房で探しておいて正解だった。


 カトラ様に渡そうと思って彼女らの方を振り向くと,研究者の雰囲気が少し変わっているのに気付く。カトラ様に銃口を突きつけられ,絶体絶命のはずなのに,その口の端には余裕が感じられた。


「なんだ……何がおかしい」


「カトラ,気を付けて!そいつ,何かしてくるよ!」


 カトラ様もその様子に気付いたのか,更に銃口を喉元に押し付ける。圧迫されて苦しそうに呻きながら,彼女はその顔に影を落とした。


「全く……あの魔獣のガキに壊されたから,出来るだけ使いたくはなかったが……こんなところまでのこのこやってきた,お前たちが悪いのだ!」


 そう言うと,彼女はがばっと白衣を広げる。カトラ様が飛びのくと同時に,彼女の胸元から服を突き破って巨大な槍が飛び出してきた。


「んな……!?カトラ様,大丈夫ですか!?」


「かすりもしていない!ミーア,魔具を貸せ!」


 ザンっとカトラ様は私のすぐそばに着地する。カプセルを取り出そうとすると,キィィイイインという音が聞こえてきた。,それに呼応するように背後の塔が輝き始めた。


「もう遅い……この装置は,私の創りあげた特別製!!多少破壊されていようが,召喚機能に問題はないのだ!!」


 6つの塔の先端を通る円が形成され,魔導陣が展開する。大気も,大地も揺れ動き,強烈な気配がびりびりと肌を震わせた。


 しかし,何かがおかしい。


“塔”はバリバリバリと音を立て,金属の破片が飛び散りはじめる。


「な,なんだ……こんな音,理論上では……!?」


「お,おい……あれ,大丈夫なのか……?」


「ミーア!早く魔具を!」


 魔導陣から光の柱が立ち,部屋全体を揺さぶるほどの咆哮が轟く。


「グゴォォオオオオオオオオアアァァァアアアアアアアア!!!」


 ほぼ同タイミングで塔が崩壊し,吹き飛んだ破片が勢いよく研究者に突き刺さる。


「ヒギャアアアアアアアアア!!」


 転倒する彼女に巨大な影が覆いかぶさる。


 それだけでも岩山と見まごうほどの大きさを誇る,巨大な魔獣の前脚だ。


「くそ!!」


 勢いよく振り下ろされる腕に向かってマクラウド氏は鏡を展開する。


 腕自体は弾き返され,魔導陣から現れる影が大きく揺らめくも,召喚自体は止まらない。


 巨大な尻尾が壁を打ち,撥ね跳んだ岩石の塊が鈍い音を立てて砕け散る。


 蝙蝠のような翼は天井に達し,皮膜を支える芯指ががりがりと岩盤を削っていく。


 ズンと叩きつけられた四肢はいずれもボロンゴロンの腕すら超えるほど太く強靭で,硬い岩盤をものともせずに破砕する。


 その巨体はもはやこの空間に収まるようなものではなく,壁を破壊しながらぎしぎしと動く。


「ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 腹の底を揺さぶる爆音。聞いているだけで全身の毛が逆立つほどの恐怖を引きずり出してくるような威圧感。


 今まで苦戦してきたボロンゴロンやガルランザなど,足元にも及ばないような存在だった。


「な,なんだこの巨体は……!?」


「はぁ,はぁ……!あれこそが,羅震竜!!ドーゼル・グランディア……私の研究の成果だ!!」


 狂気的な高笑いを浮かべる研究員。アドレナリン全開になり,肩に刺さった柱の痛みすら吹き飛んでいるのだろう。


「全く,どうしてこうも研究者というものは……」


 自身に酔いしれ,全く周りの見えなくなった研究者にカトラ様は魔具起動する。


 それすらも認識できていたのか否か,歪な笑みを浮かべたまま彼女はカプセルの中に吸い込まれていった。


「それで?マクラウド。お前の中の設定では,戦うことなどできないらしいが……」


「どうかな。このくらいの相手なら,別に問題ないよ」


「ざんねんだなぁ……今なら特別に,ミーアのことを任せてもいいかと思ったのだが」


「えっ……!?」


 激しい振動に天上の一部が崩れ始め,ガラガラと音を立てる。ここからあの巨竜が暴れだしてしまえば,この部屋が瓦礫の下に埋まってしまうのに数分とかからないだろう。


「カトラ様~!!い,如何いたしましょう~!!」


「ゲニウスとマクラウドにお前を護るように指示をした!!決して離れるんじゃないぞ!!」


「は,はいぃ~~~!!」


「さあミーア,こっちへ!」


 マクラウド氏が駆け寄り,私を支えて距離をとる。


 それを気配のみで確認すると,カトラ様は銃を構えた。


「さあ,来るがいい……この崇高なるカトラ・フローリアが,貴様を成敗する!!」


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