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49発目 独りよがりの大交渉

「NANIWOITTEIRU(何を言っている)……YUZUUNOIBUUNTDAOYNASO(随分と余裕そうだな)……」


 強力な威圧感を放ちながら,リーダー格の魔獣族が声を出す。


 何を言っているのかは変わらず理解できないが,それが好意的なものでないことだけは確かだった。


 カトラ様の銃を握る手にも力がこもる。それに対し,マクラウド氏の態度はあくまで余裕を崩してはいなかった。


「マクラウド,何か策があるのか」


「まぁ,見てなって」


 それだけ言うと,彼は魔導陣を展開する。妖魔族の言語を話せるようになった彼は,リーダー格に向けて話しかけた。


IOKIAN(いいのか)?OEAIRHTAT(俺たちは),NOETIOMAUNATIAONRESITEIW(お前たちの上司に言われて), KKOMEAOKTUADNOITNIOI(はるばるここまで来たっていうのに)」


「……ANANTNOD(なんだと)?」


 マクラウド氏の発言に,ピクリと反応する妖魔族。明らかな態度の変化に,私もカトラ様も戸惑うばかりだった。


「ま,マクラウドさん……?一体何を……」


「おい,せめて何をしているのかだけでも答えろ。話を勝手に進めるな!」


 魔導陣によって私達の声まで認識できなくなってしまったのか,マクラウド氏はそのまま話を進める。ここまで焦りと苛立ちをあらわにするカトラ様も,それすら無視する人物というのも,私は見たことがなかった。


「……ROARAWSOEWUAENNWIDATSYTIIITORE(我々の指導者に言われてきているのなら), BUSOJNONNAINMKUTUIONHEAERARAZU(その人物の名前くらいは言えるはずだ)。TIKOETAROEM(答えてみろ)」


AAUWSKAR(わかるさ)INOMFG(ミグノフ)AOKWNRDL(ワーグランド)。AYUTUODHETMGNWEKAEETOAAK(長髪で眼鏡をかけている), OONANENNNYKUNYKDURSOAUA(女の研究者だろう)」


「……!!」


 妖魔族が驚いたような反応を見せる。心なしか,少し怯えているようにも見え,一応今のところは,彼の交渉が上手くいっているようだ。


 彼は続けて彼らの説得を試みる。余裕そうというか,少し高慢な態度に見えるが,大丈夫なのだろうか。


「RAKOJAANHAOK(彼女からは),TMAAAOBEETIHIGARURAKWOEATA(お前達が無礼をはたらけば),

SIMUESMIATTWITATOIEIOIRURE(始末してもいいと言われている)。AWKTARAAT(わかったら),OOTASUTONANIKITREAGTIAWSIKTUK(大人しく俺たちに従うことだ)」


「……OEOOASANNMIM(仰せのままに)……」


 妖魔族たちの殺気がふっと消える。溜息をつき,マクラウド氏は魔導陣を解いた。


「ふぅ……。なんとかなったね。理解してくれたようで助かるよ」


「あの,マクラウドさん。あなたは,一体何をしていたのですか?」


「ん?ああ……俺たちは,今から奴らの中では客人さ。俺たちは奴らの指導者……ミグノフというらしいが,そいつによって招かれたという設定で話をしたんだ」


「ほう。それで?この崇高なるカトラ・フローリアの忠告をも無視したのは,その能力の影響か?」


 カトラ様が苛立ち交じりに聞くと,マクラウド氏は反省する様子もなく苦笑した。


「無視したわけじゃないさ。俺の能力【写鏡(パーフェクトミラー)】は,相手を強く反映すればするほど,簡単に解除することが難しくなる。今回は相手の言語機能だけじゃなくって,脳内のイメージ……ミグノフって人の人物像だったり,あいつらの考えていることまで反映しながら話を進めたから,カトラ達の声にこたえることが出来なかったんだよ」


「ならば,そのことをまず伝えてから……もういい,知らん」


 カトラ様は心底呆れかえった様子で深いため息をつく。解除に時間がかかるような状態で話を続けていたことも,私達が妖魔たちの指導者に当たる人物に招かれてこの地まで来たという説明をしたことも,正直に言って大した問題ではないし,寧ろ相手の警戒心を解きながら内部へ侵入するきっかけを作ってくれたことはありがたいと思う。


 カトラ様も私も,不服に思っていることは全く別にあるのだ。今の彼の返答は全くそれに応えられていないし,今までの言動から考えても,指摘したところで治る保証などなかった。そのことを理解したカトラ様は,普段の行いからは考えられないことを口にする。


「それで?これからの作戦はどうするつもりだ」


 指揮権の放棄。恐らく彼女の中で,マクラウド氏の行動を統制することの方が無理なことだと判断したのだろう。それに,生殺与奪の権などと言い,あれだけ自信をもって一人で事を進めたということは,何かしら強力な作戦を見出してのことかもしれないのだ。


「えっ……?そうだな,よく考えてなかった。カトラが決めていいよ」


 少しでも期待をかけた私が間抜けだったようだ。


「……きめて,いいよ……だと……?」


 ゆらりとカトラ様は身体を揺らす。カトラ様の中に溜まりに溜まっていた鬱憤が,臨界点を迎えていることは明らかだ。


「か,カトラ様!落ち着いてください,お願いします!


 今激昂してしまっては,民を護る者としての威厳が崩れてしまいます!」


「か,カトラ……?どうしたの,俺また何か……」


「あなたは黙っていてください!」


 咄嗟にぴしゃりとマクラウド氏を叱りつけてしまう。予想外の反応に流石に驚いたのか,マクラウド氏も大人しく口を噤んでくれた。


「さあ,カトラ様。依頼が終わればいくらでも発散して構いませんから。ね?」


「……私は,崇高なるカトラ・フローリア……民の上に立つ者なのだ……それが,こんな……」


「しょうがない人なんですよ……そういう人も含めてお護りなさるお姿に,人々は尊敬の念を抱くものですよカトラ様……」


 ゲニウスも心配そうにカトラ様の袖を握る。しばらく経って,ようやくカトラ様は深呼吸をし,恐ろしいほどの怒気を収めてくださった。


「……最後のチャンスだ。次,この崇高なるカトラ・フローリアの許可なく,身勝手な行動をとれば……その時は覚えておけ,マクラウド」


「えっ……わ,わかったよ,カトラ」


「せめて“さん”を……」


「それはもういい,諦めている。さて,ではまず状況の整理からだ」


 私の指摘を嗜めると,ぱしっと自身の頬を張り,凛とした声に戻るカトラ様。


 マクラウド氏の言葉の要約を私に任せ,彼らが指揮官たるワークランドに抱いている感情が畏怖を主体にしていること,および彼女の縁者という設定の私達にも従ってくれるということを把握すると,カトラ様は指示を出す。


「マクラウド,そこの妖魔たちに洞窟の入口まで案内するように伝えろ。道中に出会う妖魔族がいた場合には,そのワークランドとかいうやつの命令で動いていると説明させるんだ」


「うん,わかったよ」


 マクラウド氏が魔導陣を展開し,待機していた彼らに命令をしていく。その間に,カトラ様は私達とゲニウスの方に向く。彼女が取り出したのは,掌に収まるサイズの筒状の魔具だ。


「ミーア,お前にはこれを渡す。当たった対象の行動を束縛する魔導弾が撃てる魔具だ。洞窟の奥まで進めば奴らも用済みになるから,そこで始末するぞ」


「畏まりました」


 ゲニウスにはハンドサインを使い,カトラ様の指示通りに魔導を使い,洞窟の入り口を塞いで外の妖魔族や魔獣達が入ってこれないようにすることを命じた。


 ゲニウスが笑顔で返事をすると,ちょうどそのタイミングでマクラウド氏が私達を呼ぶ。


 かなりギリギリのハプニングはあったものの,ようやく作戦再開だ。


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