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45発目 進撃の土竜

「考える時間も与えてはくれないか」


 衝撃音が宿泊部屋の屋根を揺るがす。恐らく土竜族がこのリーマップ・フロンティアに襲撃を仕掛けているのだろう。


「どうしますか,カトラ様」


「私が出る。お前たちはここに留まっていろ」


 私の問いかけに,カトラ様は銃を構えて立ち上がる。しかしそこに,マクラウド氏が食って掛かった。


「待ってくれ,俺も行くよカトラ」


「何だと?お前が一番この場に留まっていなければならないのにか?」


 カトラ様が仰っているのは,この魔獣族の少女についてだろう。不安げな表情をこちらに向ける彼女と私達には,意思疎通の手段がない。彼女に不調が生じた際,その状態を把握することが出来るのはマクラウド氏だけなのだ。


 しかしそれでもと彼は譲らない。


「もしかしたら外にいる土竜族と彼女との間に何かあるかもしれない。ここは全員で行くべきだ」


「何かあるなら尚更だろう?それに,非戦闘員まで引っ張りだす必要もない,もう少しまともなことを話せ!」


「そんな難しい話をしている場合じゃない!今こうしている間にも,被害は広がっているんだぞ!」


 彼がそう言うと同時に,ひときわ重い振動が響いてくる。議論の時間がないことだけは確かだろう。


「カトラ様,ここは彼に従いましょう,時間がありません……!」


「……全く。だから私は嫌だったんだ。もういい,全員で行くということでいいんだな?」


「ああ。それじゃあ行こう!」


 早速マクラウド氏は魔導陣を展開し,少女に行動を伝える。少女は雰囲気を察してくれたのか,怯えながらも頷いてくれた。


 そうして私達は部屋をあとにし,オズボーン氏の案内の元,外に向かって急いだ。



♢♢♢♢♢



「くっそが……!何だってんだ一体!?」


 土煙が舞い上がり,視界を覆う。アレクサンダー氏は防寒装備にあるフードで顔を覆い,土の粉塵から目を護る。煙が晴れ,フードの隙間から睨むと,ゆっくりと首をもたげる複数の長大な影がその輪郭を露わにする。


 潜蛇竜……ガルランザ。


 その数……なんと,3体……。


「ギュゥロロロロロォオオオン……」


 唸り声の後,透き通った響くような余韻が鳴る。ぎらりと光る黄色い目が,彼の魂を握りしめる。


 汗が伝い,迎撃用の魔具を握る手がカタカタ震えるのがわかった。


「か,館長……」


「下がってろ……巻き込まれたら死んじまうぞ」


 後ろから怯えた声が聞こえてくる。職員たちの中には,戦闘することのできない者達も多い。研究を専門に行う者達など特にだ。


 彼らを護るためにも,アレキサンダー氏が退くことはできなかった。


「ふざけやがって……魔獣どもがぁ!!」


 裂ぱくの気合と共に,彼は手に持った魔具を起動する。


 それは先端に付けられた巨大な魔導結晶を囲うように,赤・青・緑・橙の4色のトリガーが付けられた魔導杖。使用する属性を指定することで,様々な組み合わせの魔導弾を放つことのできる強力なものだ。


 ガギン,という金属音と共に,杖身に魔導回路が浮かび上がる。


 ギュゥゥウウウウン……という音が鳴り,杖の先の大きな結晶体に魔子が充填されていく。


「カートリッジ,セット……水,炎……!」


 起動したトリガーは,赤と青の2色。2つのエネルギーが一つの魔導弾に集約され,まばゆい輝きを放つ。


 だが,魔獣側もそれを見ているだけではない。


「キュゥァアァァアアアアン……!」


 甲高い声を鳴らし,巨大な岩石を頭上に形成した。


「そんなもん,ぶち破ってやらぁ!!いくぞぉおおお!!」


 怒号を上げ,アレキサンダー氏が魔導弾を発射する。同時に魔獣側も巨大な塊となった岩石を打ち出す。


 バゴゴォォオオオオオオン!!


 激しい衝撃と共にふたつの魔導弾がかちあう。


 風が巻き起こり,その場に立っていられないほどの圧にもまけじと彼は踏ん張りをきかせる。


「ぐぅぅうううう……ま,まだまだ……!」


 再びトリガーに手を伸ばす。その時,アレキサンダー氏の横腹を,長く巨大な尻尾が打ち払った。


「がはぁああ!?」


「か,館長ぉおお!!」


 人間にとっては頼もしく逞しいその身体も,魔獣にとっては虫けらも同じ。無残にも吹き飛ばされたその身体は,本館の窓ガラスを突き破って廊下の壁に激突した。


「ヒュゥゥウウウウウン……」


 彼に攻撃を加えたのは,もう一体のガルランザ。魔導弾を放った個体とは別の者だ。


 それでは放った方はどうなった,と職員の一人が目を向けると,煙の晴れたそこには,なんらダメージを受けた様子の無いそれが佇んでいた。


「グルルウ……ッグック……」


 そして,館内に追いやられたアレキサンダー氏に近づいていくのは,それらともまた別の,3体目の個体。その唸り声は,余裕綽綽といった様子で,無力な人間を嘲笑っているかのようだった。


「そ,そんな……館長……!」


 絶望する職員たちに,ガルランザが迫る。


「ォォォォオオオオオオオン!!」


 反響音を響かせ,大口を開けたそれは,一気に彼らを飲み込もうと肉薄した。


「う,うわぁぁあぁああああああああ!!」


 万事休す。その場にいた誰もがそう思った時。


 バギュゥゥウウン!!


 空を切り裂いたのは,一発の銃声。


「……えっ……?」


「クシィィイイアアアアアアアアアアアア!!」


 恐る恐る目を開けた直後,ズドォォオオオンという重厚な音と共に,その個体は地面に倒れ伏した。


「やれやれ……なんとか間に合ったようだな」


「皆様,ご無事ですか!?」


 間一髪。カトラ様の銃弾は,見事にガルランザの脳天を貫き,大穴を開けたのだ。


「か,カトラさん!!ミーアさんも!」


 その場にいた職員全員の顔がぱっと晴れ上がる。しかし,それも長くは続かなかった。


「クォォオオオオオン!!」


 アレキサンダー氏に向かっていた個体が咆哮を上げる。カトラ様が銃を構えた時,なんとマクラウド氏がそれを遮った。


「カトラ,下がっていて。こいつらは,俺がやるよ」


「はぁ?」


「任せて。カトラ達はけが人の手当てをしているといい」


 呆れ顔のカトラ様を背後に置き,マクラウド氏は魔導陣を展開する。


「ミラージュ……ユニークスキル,オーバーフロー!」


 恐らく彼の能力【写鏡】の能力を使用したのだろう。幽鬼のような,ただならぬ気配が漂ってくる。その裂ぱくの気合をみるに,恐らく2体のガルランザを相手をすることが出来る程度には強力なようだ。


「キュルルァァアアアアン!!」


 アレキサンダー氏に注意を向けていた方の個体が咆哮をあげる。それと同時に,奥の個体もエーテルの輝きを増大させ,頭上に土属性のエーテルの塊を形成する。


 巨大な岩石の塊となったそれは,一直線にマクラウド氏目掛けて放たれる。


「マクラウドさん!」


「大丈夫……見ていて,ミーア……」


 ふっと笑みを浮かべる彼に岩盤が衝突する寸前,彼の身長と同等レベルの直径の大きな魔導陣が展開される。


「インパクト……ミラージュブラスト!!」


 その瞬間,ガルランザの放った魔導塊をはるかに超える巨大な岩石が魔導陣から飛び出し,その勢いのまま塊を砕く。


 最早へたな魔獣族一匹を優に超えるほど巨大なそれは,マクラウド氏に食らいつこうとして勢いづいていたガルランザを押しつぶした。


「ガギュゥゥウウウン!?」


 勢いよく地面に激突した岩の塊は衝撃と共に粉砕し,鋭利な破片がゼロ距離で魔獣に襲い掛かる。


 押しつぶされたガルランザは,もう二度と起き上がってくることはなかった。


「さあ……次はお前だ!!」


 脱兎のごとく駆け出すマクラウド氏。瞬く間に最後の個体に肉薄すると,その勢いのまま魔導陣を展開する。


「ユニークスキル!パーフェクトミラージュ!!岩盤の雨を喰らえ!!」


 その宣言通り,巨大な魔導陣から飛び出してきたのは先ほどガルランザが放ったのと同じ岩石の塊。しかしそれはひとつやふたつではない。何十発もの岩石の嵐が魔獣の甲殻を削り取り,緑の血が飛散した。


「さあ,これでとどめだ!!」


 ダンッと跳躍すると,新たに展開した魔導陣から,巨大な岩盤を出現させる。


 重力が上乗せされた巨大な岩の塊は,そのまま最後の魔獣族も押しつぶして粉砕してしまった。


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