40発目 パーフェクト・ミラーマン
「ところで,先ほど役立たずとか,同じことしか……などと言われていましたが,アレンさん。あなたの固有能力って,なんなのですか?」
カトラ様に追いつき,彼女が依頼をザッピングしている最中,私は気になったことを尋ねてみた。
するとマクラウド氏は,申し訳なさそうに口を開く。
「そ,そんな大した能力じゃないよ。役に立てるようなものじゃないから,戦力には数えない方がいい」
「いえ,だから……」
「役に立つ立たないの話ではない。ただ単に,どういう能力か,とだけ聞いているのだ。真面目に応えろ」
私がなんとかマイルドに話を勧めようとする前に,ぴしゃりとカトラ様が嗜める。やはりカトラ様はマクラウド氏のことが嫌いなのではないだろうか。
「え,えっと……どういう能力か?」
「私の【戦女神の魔弾】は,手のひらに収まる大きさの物体を形成する能力だ。系統はサークル型。戦闘に特化させていて,形成する物体を魔導弾に特化させている。
そういった詳細を言え,と言っている」
カトラ様は依頼の画面を次々に切り替えながら例示をする。それに倣って自身の能力を明かすマクラウド氏は,すっかり縮こまってしまっていた。
「わ,わかったよ……
俺の能力,【写鏡】は,対象の能力を模倣することが出来る。系統はサークル型。ただ模倣するだけの能力だから,特に凄い使い方とかはしてないよ」
それだけ聞いた私は,彼の口ぶりにいささか疑問を覚えた。
模倣……他者の行動を,それになぞって同じようにすること。
しかし,それは簡単にできてしまえば異常事態だ。
たとえば私がカトラ様の行動をいくら模倣しようとしても,才能や身体能力に歴然とした差が存在し,何より能力をその場の判断で適切に扱うことなど出来るわけがない。
仮にそれが出来るのだとすれば……無能どころか,天才的と言っても過言ではない。卑下する要素など,どこにもない筈なのだ。
「模倣,か。理解した,後でそのほどは試すこととしよう」
それだけ言って次々と依頼を見ていくカトラ様。何かを探しているのだろうか,と思ったところで,彼女の手がぴたりと止まった。
「これは……」
「どうしました?カトラ様。何かめぼしい依頼でも見つかりました?」
「ミーア,これを見てみろ」
カトラ様が示したのは,国内でもかなり北の方に位置する,リーマップの森。そこに出現した土竜族の掃討を依頼するものだった。
「竜族の討伐依頼……?最近何故か出現し始め,着々と数を増やしている。近隣の住民への実害はないものの,林業が停滞しているから掃討をしてほしい。これが,何か?」
「覚えがないか?竜族が,人里離れた自然地帯に出現。実害はないものの,付近の産業に影響……」
「……え……?そ,それって,つまり……」
その口ぶりから察するに……彼女は,こう言いたいのだろう。
以前解決した,マル・タンボ火山帯での騒動と同様の事件が起きている,と。
「これを請けるぞ。報酬金は多くないが,素材を売ればその分儲けになる。面倒なしばりもないことだしな」
「竜族の群れの掃討……その依頼を請けるのか?」
「ああ。不可能か?」
「いやまあ,出来るけど……そんな依頼でいいのか?」
「出来る,けど……ですって……?」
カトラ様と共にいると一瞬錯乱してしまうが,竜族というのは魔獣族の中でも特に脅威的な存在とされ,下手な魔導士に依頼すれば返り討ちどころの話ではないのだ。
それの掃討を,自身を戦力に数えない方がいいと明言する者が,出来る?しかも,その反応から察するに,至極当然のように言っているのだ。
一体彼は,何者なのだろうか。
ひょっとすると,カトラ様が異様なほどに彼を毛嫌いする理由が,そこにあるのだろうか?
深く推察する暇もなく,カトラ様は即決で受注を決めると,スペンサー氏の元に向かう。
「イヴ。受注する依頼を決めた。即席パーティについての説明を頼むぞ」
「あ,はーい,決まったんですね。それでは,依頼内容の一番下にある受注決定の欄をタッチしてください」
指示通りにすると,ゴウンゴウンと箱が音を立て始め,その下側から一枚の紙が吐き出される。依頼内容の詳細が印刷されているようだ。
「はい,ありがとうございます。そうしたら,そこに“参加者”と書かれ,横線の並んだ場所があると思います」
「横線……ああ,ありますね」
確認してみると,紙の中央部にそれらしきものが確認できる。横線の終点には,小さくチェック欄のようなものも確認できた。
「そこに,参加するチーム名,および個人名を記載します。書き終わったら,受注する旨と用紙をゾルフィさんに渡してください」
「ゾルフィ……あいつだな」
スペンサー氏の指示通り,カトラ様はチーム名と,その下にマクラウド氏の名前を記載する。ゾルフィ氏の元へ向かうと,彼女は天真爛漫な笑顔で対応を始めた。
「はーい,チームフローリア……あった,カトラさんとミーアさんの2人チームだね。そこに,個人でアレン君が加わる,と。
……はい,チーム情報と依頼書の紐づけは完了したよ。アレン君だけ個人だから,この魔導刻印を使って印をお願いね♪」
「うん,わかった」
マクラウド氏が差し出された魔導刻印に指を当てると,刻印が光りはじめ,彼の指先に同じものが刻まれる。
それを依頼書のチェック欄に押し付けると,指先から依頼書に刻印が刻まれ,役目を終えた指の刻印は消失した。
「は~い,ありがと!これで依頼に向かうメンバーも決定!晴れて受注完了だよ!」
「なるほど……処理自体は,箱から依頼書を印刷して,受注するチームや個人の情報を紐づけする……これだけなんですね」
「そういうこと。簡単でしょ?それじゃあ,頑張ってね!」
「任せておけ。ほら,ミーア,マクラウド。早速準備をして,依頼の場所に向かうぞ」
「ああ,わかった」
「向かう先は寒冷地でもありますから,防寒に纏わる準備もした方が良さそうですね」
「諸々の判断はミーアに任せる。資金はある筈だ,無駄なく使え」
「畏まりました。お二人はいかがなされますか?」
「少しこいつの実力を見る。この工房の施設内には訓練所があるから,そこを使用する。行くぞ」
「あ,ああ,わかったよカトラ」
スタスタと歩いていくカトラ様の背中を,マクラウド氏は追いかける。2人っきりになることに一抹の不安を覚えつつ,私は言われた通りに装備の準備を始めるのであった。
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