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39発目 同調の男,アレン・マクラウド

「ぅう……ど,どうしてこんなことに……」


 床男性の悲痛な声もむなしく,役目を終えたとばかりに黄金男性は女性陣を引き連れて去っていく。集会所を荒らすだけ荒らされたスペンサー氏は,頭を抱えてため息をついていた。


「あの,スペンサーさん。彼らは一体,何者なのでしょうか?」


 私の問いかけに,彼女は答える。ただ,その口調には彼への同情はあまり感じられなかった。


「そうですねぇ……彼ら,前々からQRO内で問題になっていたんですよ。特にさっき立ち去って行った,リーダーの男。ギジェルモって言うんですけど,まーどうにも見栄っ張りというか,自分をとことん飾りつけたがんですよねぇ」


「そのようだな。だが,それにしてはあの這いつくばっている男からは大した豪遊癖があるようにも感じないが」


「そりゃあそうですよ。彼,アレンだって,ギジェルモの装飾品のひとつなんですから」


「あぁ……なるほど,そういうことですか」


 輝かしいものは,傍に醜いものがあると相対的に一層輝きを増す,ということを,宮廷にいた時に耳にしたことがある。アレンと呼ばれた男の姿はいかにもみすぼらしく,ギジェルモの装備とは比較対象にすらならないほど。それはそれであまりに離れすぎて相対性も何もなくなりそうな気はするが,引き立て役としては適任なのかもしれない。


「まぁ……彼も彼で,どうにもねぇ……」


 スペンサー氏が歯切れの悪い返事をすると,ちょうどレドルト氏がこちらに向かってくる。私たちの後ろには一般依頼情報箱があるため,それが目当てだろう。


「はぁ……あ,イヴ……ご,ごめん,騒いじゃって……テーブルも……」


「ハーイ,アレン。別に,あなたが謝ることじゃないから大丈夫よ。全く,荒らすだけ荒らして出ていっちゃって……」


「うん……と,ところで,その人たちは?」


「ん?ああ,この人たちは,今日からここで働くことになったカトラさんとミーアさん。工房長からもかなりの実力者ってお墨付きだから,仲良くしておくといいわよ」


「ど,どうも。僕はアレン。アレン・マクラウドだ」


「カトラ・フローリアだ」


「カトラ様の召使のミーアです。以後,お見知りおきを」


 あまり人との会話に慣れていないのか,おどおどとした態度で自己紹介をするマクラウド氏。心なしか,それに応えるカトラ様の声には不機嫌さが垣間見えた。


 そんな雰囲気を感じているのかいないのか,何かを思いついたスペンサー氏はポンと手を打った。


「あ,そうだ!折角だし,チームの申請手順の説明を兼ねて,この三人で即席のパーティを組んでみてはいかがですか?」


「なんだと?即席の,パーティ?」


「つまり……私達と,このマクラウドさんの,三人で,ですか?」


「ええ,そうです。ちょうどカトラさんとミーアさんのお二人には,チームの申請方法と依頼の受注手順についての説明をするところだったんですよね。その例示にぴったりだと思いまして♪」


 私達の問いかけに,全く良いアイデアだと言わんばかりにうんうんと頷くスペンサー氏。これには,さしものマクラウド氏もしどろもどろで反論する。


「で,でも……僕と一緒に組んでくれるようなメンバーなんて,今までギジェルモ達くらいしかいなかったよ?」


「大丈夫大丈夫。恐らくカトラさんとミーアさんの2人は登録チームで,そこに即席でアレンが加わることになるでしょうけど,合わなければ解消すればいいのよ。それなら,登録チームと即席パーティの説明も同時に出来るし,一石二鳥だわ♪」


「そ,そうかもしれないけど……」


「登録チームと即席パーティ……その2種類があるんですか?」


「他にもいろいろありますけどね。先ずはこっち,付いてきてください」


 何やら早く話を勧めたいのか,スペンサー氏は有無を言わさない様子でカウンターまで歩いていく。カトラ様は様子見を決め込んでいるのか,やけに素直に付いていった。


「ハーイ,フレイ。チーム登録についてなんだけど,問題ないわよね」


「その聞き方で,仮に問題があったとしたらどうするつもりなの。……まぁ,ないけど」


 溜息をつくと,フレイライト氏は書類を取り出す。5つの手のひらサイズの魔導陣が描かれており,名前を書く欄がある。


「はいどうぞ。先ず前提として,チームメンバーの入れ替えには一定の手順を必要とするわ。登録する時よりもお互い面倒だから気を付けて。そして,ひとつのチームに登録できるメンバーは5人まで。それ以上の人数で登録したい場合は,“パーティ”と名称が変わり,別の規定があるから,その時は改めて私に言うこと。そして,チームを組む時に使うのは,この結成書。この魔導陣ひとつにつき1人,チームの登録が可能よ。ここまで何か質問は?」


「問題ない」


「私も大丈夫です」


 フレイライト氏は頷くと,カウンターに置かれたペン立てからペンを一本取り出すと,すぐに話を続ける。非常に口調は淡々としており進行が早いが,紙を見せて指し示しながら説明してくれることもあってか,すっと頭に入ってきた。


「手順としては,まず1人,このペンを使って魔導陣の上の空欄に名前を書く。書き終わったら,魔導陣の上に手のひらを当てる。そうすると,陣が手のひらから情報を読み取って氏名に紐づけするから,それでチームのメンバーとして登録がされる。これを1人1人行い,全員分の登録するわ。あと,一番上の空欄がそのチーム全体の名称になる。最悪つけなくてもいいけど,依頼を受けるときにチーム名で書いた方が手っ取り早いから推奨してる。ここまで何か質問は?」


 再びフレイライト氏が問いかけ,私達は先ほどと同じ返答をする。それに頷くと,彼女は改めて用紙をこちらに差し出してきた。


「それじゃあ,チームメンバーとなる者1人ずつ,今説明した手順で登録をしてちょうだい。できれば代表者から,上から順に登録してくれると,私達が助かる」


「理解した。ならば,私から行こう」


 カトラ様がペンをとり,達筆な文字で名前を書き,その下の魔導陣に手を当てる。すると,魔導陣が青い光を発し始めた。


「それが登録中に出る光よ。収まったら完了したことになるから,次に回して」


 その言葉通り,じきに発光は収束し,カトラ様が手を離すと他の陣にはない複雑な模様が刻まれていた。フレイライト氏が促し,今度は私がそれに倣って登録をする。私の光が収まると,カトラ様は用紙を取り,一番上に“フローリア”と記載した。


「私とミーアの2人チームでいく。名称は“フローリア”。これでいいな」


「ええ,問題ないわ。チームフローリア,お疲れ様」


「それじゃあ次は,即席パーティの説明ね。これは,依頼を実際に受注する時に設定するものですから,適当にひとつ依頼を受けてからの説明になります。」


「そうなんですね。どうします?カトラ様」


「ああ。注目依頼といきたいが,マクラウドがついてくることになる以上下手な依頼は受けられんからな。一般の方で探すことにしよう」


「あ,アレンでいいよ」


「いくぞ,ミーア,マクラウド」


 カトラ様はそのまま一般依頼情報箱の方に歩いていく。どうにもカトラ様からマクラウド氏への印象は悪いようだった。


「う~ん……怒らせちゃったかな。まあいいや,よろしくね,ミーア」


「ええ。カトラ様も,悪いお方ではございませんので,よろしくお願いしますね,アレンさん」


 先行きが不安ではあるものの,ひとまず3人で行動することは確実なようなので,私達は大人しくカトラ様の後を追うのであった。


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