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38発目 QROと追放

「ここが,狩猟依頼管理事務所……別名,QRO(クロ)……思った以上に賑やかですねカトラ様」


「そうだな。まぁ,少々騒々しいが」


 翌朝,私達は早速ポータルを使って出社する。


 事務所と言うからにはデスクの並んだ狭い部屋の印象があったものの,訪れてみると広大な大部屋に丸いテーブルが煩雑に並び,多くの重厚な装備をした男性たちが騒ぎあっていた。


 また聞きではあるが,辺境の地に点在する,開拓を専門に引き受ける冒険者と呼ばれる者達の組合がこのような雰囲気であると聞いたことがある。冒険者といえば,魔具装具士にとっても貴重な素材を提供してくれる可能性のある役職であり,相補的な関係にあるといえる。彼らのシステムを参考にした可能性は大きいだろう。


 男たちの間をズカズカと進み,一番奥の大きなカウンターに歩いていく。慌ててついていくと,既にカトラ様は受付との話を始めていた。


「いらっしゃいませ~!あら?見ない顔ですね?」


「ああ,初めてだからな。昨日から正式に社員となった,カトラ・フローリアだ」


 相対する女性は,さっぱりしたクリーム色の短髪に,瞳の色は深紅。隣の2人と同じ,白を基調とした制服に,青のスカートを纏っている。元気溌剌という言葉を絵に描いたような雰囲気を纏っていた。


「カトラ・フローリア……カトラ……あ!ファイス工房長からご推薦のあった方ですね。お話は伺っております!」


 カトラ様が社員証を提示するのと同じくらいのタイミングで,彼女の顔がパッと明るくなり,ポンと手を打って声を上げる。どうやら昨日出会った入り口の受付の人と違って,しっかりと情報は伝わっているらしい。話が早いというのは,それだけで嬉しいことだ。


「工房長からは,おふたりがいらしたら依頼受注の手順と,チームの申請手順を簡単に説明するようにと聞いているのですが,よろしいですか?」


「ああ。それ以外は追い追いでいいだろう」


「それもそうですね」


 彼女はうんうんと頷くと,自身の胸に手を当てる。


「まず,私はこの狩猟依頼管理事務所QROの主任受付嬢,イヴ・スペンサーです。受付嬢は基本的に3人体制で,現在いるのはこの二人。こっちの青髪の方がフレイライト。エルフさんです。それで,こっちの小柄な方が,ゾルフィ。彼女はドワーフですね」


「……どうも」


「よろしく~♪」


 手で示された順に挨拶をする二人の受付嬢。


 フレイライト氏は,清水のような長髪を湛え,深い碧色の瞳をしている。名前を呼ばれても薄い反応を返し,すぐに資料の整理に戻る。まさに仕事人といった風貌だ。


 反対に,ゾルフィ氏は天真爛漫な笑みをこちらに返してくる。黄金色の瞳を持ち,浅黒い肌に小柄な身長,とても種族がわかりやすい。仕事が出来ないわけではないようだが,カウンターの上の資料も煩雑で大きくスペースを取っており,あまり丁寧に仕事をこなすタイプとは言い難い感じだ。


 自己紹介を終えたスペンサー氏はカウンターから出ると,続いてカウンターの隣にある,いくつかの紙が張り出された板を示す。それは人がひとり手を広げられるほど広く,高さも私の背丈の1.5倍ほどあった。


「そして,こちらにございますのが,注目依頼情報になります。報酬金レートが高かったり,緊急性の高い依頼があそこに張り出されます。受注者が多い分消費も早いので,目についた気になるものは早めに受注しておくのが吉,ですよ!」


「なるほどな。基本はあそこから依頼を引き受けるわけか」


「そうですね。そして注目依頼情報板に記載される情報は,主に対象物……貴重な鉱石であったり,強大な魔獣族であったりですね。それを見出しに,対象の場所と,依頼者からの切実なポエムが載せられます。どれだけその依頼を受けてほしいか!といった感じですね。報酬金や条件に纏わる情報は,紙の右下に刻まれる魔導陣から確認することが可能です。重要な条件が記載されている場合もございますから,確認を怠らないようにしてくださいね」


「ぽ,ポエム……」


 一枚の紙を手に取り,魔導陣を起動しながら説明をする。ポエムと茶化されると重要ではないように聞こえるが,恐らく依頼者がどれだけ熱意をもってその依頼に踏み切ったかを知ることのできる最も明確な情報であるのだろう。恐らく,その質や量によって,凡その報酬額は察することが出来るかもしれない。


 魔導陣を閉じ,元あった場所に貼りなおすと,彼女はその隣に5~6個程度並ぶの箱型の装置を示す。依頼を受注する側であろう,何人かのガタイの良い男性たちがそのうちのいくつかを使用している。


「そしてそして,こちらにございますのは一般依頼情報箱。注目依頼に該当しないとこちらで判断されたものであったり,環境管理組合側から送られてくる,個体数調整の依頼などがここにすべて集約され,魔子データとして保存されています。こちらの方が数は多い分簡単にこなせるので,一攫千金を狙わないお小遣い稼ぎにはもってこいの依頼が多いんですよ」


 最も端にあった台のひとつを起動するスペンサー氏。空中に表示されたディスプレイには,狩猟,採取,調査など,様々な依頼のジャンルが表示されており,タッチ操作によってそのジャンルの依頼が一覧形式で表示される仕組みのようだ。


「なるほどな。概ね理解した」


「助かります♪それでは次は……」


 スペンサー氏がカウンターに戻ろうとすると,


「だぁからぁ!!いい加減黙れっての!」


 ガチャンと食器の当たる甲高い音とともに,男性の怒号が聞こえてくる。


「なんだ」


「あぁ,この声……またあの人たちですか……」


 スペンサー氏はあきれた声を上げる。どうやら騒ぎを起こす常連のようだ。


 その方向に目を向けると,その中心にいたのは二人の男性。片方は偉そうに椅子に腰かけ,ふんぞり返っており,もう片方は対照的に,倒れたテーブルのそばにうずくまっている。


「お前はもう,俺たちのチームにはいらないって言ってんの。自分が邪魔者だって,わかんない?」


 先ほどの声の主である椅子に座った男性が,ひらひら手を振りながら続ける。派手に染め上げた金と赤の趣味の悪い髪型に,これまた趣味の悪い金色でゴテゴテの鎧を纏っている。そして更に趣味の悪いことに,彼の座る椅子の周りでほくそ笑んでいるのは,どれも露出度の高い装備を身に付けた,端正な顔立ちの女性陣。その一見華々しい光景だけを見れば,確かに床にうずくまる男性は少々不釣り合いに見える。


「で,でも……俺は,ちゃんとやることはやっていただろう!?何がいけないって言うんだ!」


 おどおどとした声でなんとか追いすがろうとする彼の努力も,高圧的な黄金男性の割り込みの寄って打ち砕かれる。


「何もかもだよ!俺達が必死に頑張ってるときに何をしているかと思えば,仲間の使った技をただ真似しているだけ!おんなじことしかできないような無能に食わせてやれるほど俺たちは余裕ないんだよ!」


 周りの女性も口々に共感と床男性への罵声を浴びせる。これだけでも,最悪な雰囲気であることは丸わかりだ。


「で,でも!」


「あーもういい!言い訳は聞き飽きた!話は終わりだって何度言えばわかるんだよ?」


 碌に議論も交わしていないのが明白な中,溜息をついた黄金男性は決定的な一言を放つ。


「お前は今日で……俺たちのチームから,追放な」

 

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