32発目 トタテ山攻略戦
「か,カトラさぁん……!」
息をのむティンクルスターの声。
そのさらに奥からは,ガガランドスの歓喜の咆哮が聞こえてくる。
しかし……その静寂も,長く続くことはなかった。
「……爆……散……」
ズガガガガガン!!
カトラ様の凛とした声と同時に,轟音を立てて大岩は粉砕され,瓦礫となって散らばった。
「私の魔導弾は,銃口に追随するものと,空中に固定させられるものとの2種類存在する。弾の大きさから防御に使うのは難しいわけだが……このように質量のある大きな物体を防ごうとする場合,面を形成するように複数弾を展開することで,受け止めることが出来るのさ」
「か,カトラさん!!」
「全く,フリーヴァスが妙にやかましい声を上げて威嚇していたから何かあるかもしれないと思っていたら……脳髄まで筋肉で出来ている魔獣族にしては,随分姑息な手を打つじゃないか」
不敵な笑みを浮かべると,岩を転がしてできた道の先にいるガガランドスをぎらりと睨む。
「仕置きの時間だ。この崇高なるカトラ・フローリアの前には,搦手も正面突破も無意味だと知れ!!」
ぬかるんだ大地を深くえぐり,カトラ様は跳躍する。
木の幹を足場にして更に跳躍し,稲妻のように猛烈なスピードでガガランドスに肉薄した。
「ゴアァァァアアアアアアアアアア!!」
咆哮をあげてドラミングするその魔獣の腕にエーテルが溜まり,輝きと共に高速で腕の周りを回転する薄い刃が形成される。風の魔導エネルギー体だ。
「ウゴォオオオ!!」
猛烈な勢いで振り下ろされる,木の幹のように太い腕。その効果範囲は風の魔導で強化され,ジャンプして回避したカトラ様を地面に向けて引っ張り下ろす。
「っと……甘い!」
腕を振りぬいたことでバランスを自ら崩したガガランドスは,そのままボディプレスを仕掛ける。だが,カトラ様の狙撃によってその軌道を横にずらされ,そのまま木々をなぎ倒しながら地面に胴体を叩きつける。
木々がなぎ倒され,土煙が足元にいる私の目からも確認できた。その煙を貫通して高く跳躍した小柄な影は,魔導陣を展開しながらその直下に狙いを定める。
「集……速……爆……!」
ズガガガガガガガガガン!!
弾は一切のブレなく鉛直方向に連射され,打ち付けられる衝撃と着弾時の爆発によって山が揺れる。
カトラ様が着地する頃には,ガガランドスの身体はボロボロになり,見るも無残な姿になっていた。
「す,すごい……でも,まだ……」
「まだ第二形態が残っています!カトラさん,気を付けて!」
ノーマン氏が声を上げると同時に,
「ゴグァアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ガガランドスの咆哮が大気を震わせる。麓にいる私達まで耳を塞いでしまうほどだ。
その叫びにすら,カトラ様はまるでひるまない。寧ろ,余裕綽綽の表情で銃を構える。
「爆……砲……集……貫……旋……!」
バキバキバキ,と形態変化をしている最中にも,カトラ様は魔導陣を展開し,準備を整える。
「ガゴゴォォオオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!」
「っふん……全力を振り絞って,弱点を生み出してくれたこと……感謝するぞ」
魔獣が力の限りの絶叫をあげたところで,カトラ様は引き金を引いた。
「極天砲……戦女神の滅槍!!」
空を一瞬にして貫き,極太のレーザーが放たれる。光り輝くそれは,文字通り超巨大な槍のように見えた。
光線が消える頃……そこには綺麗に胸の中心に大穴の空いた,ガガランドスの姿があった。
♢♢♢♢♢
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ま~た息切れしてる。ミーアちゃん,体力なさすぎ~」
「あ,あなたは飛んでるから……大丈夫,でしょうけど……こっちは,徒歩でここまで登ってきてるんですからね……!?」
トタテ山の中腹,ガガランドスの遺骸のもとに着くころには,もう夕方近くになっていた。相変らずティンクルスターは余裕の表情で,ノーマン氏も疲れてないとまでは言わないものの,多少の息切れを見せる程度でまだまだ気力を残している様子。4者の中で私だけが疲労困憊であるという事実には,ただただ惨めな思いをするだけだった。
「女性の体力ではお辛いですよね。ロープウェイが動かせれば,まだ楽だったんですけど」
「今は使えないのか」
「ええ,残念ながら」
カトラ様の問いかけに,ノーマン氏は首を振る。どうやら,エヴィルアークの襲撃に遭ったことで,支柱が破壊されてしまったため,利用が出来なくなっているとのことだった。
「それで?ガガランドスも倒して,あとは泉の調査だけだと思うけど……どうするの?」
「ああ。ミーアの体調も心配だからな。早めに済ませよう」
そう言うと,カトラ様はいきなり振り向き,樹木の間に銃を突きつける。
「えっ……か,カトラ様……?」
「いるんだろう,そこに。私がガガランドスを倒した少しあとに,洞窟のある方向から移動してくるのが確認できた。まさか,無関係とは言わせないぞ」
声にも並々ならぬ威圧感が籠っている。あのカトラ様をして,最大限の警戒をしている……それほどの存在が,目の前にいるということだろうか。
しばらくの静寂が訪れる。
「……まぁ,落ち着きなさい。あなたの実力は把握しております。私としても,この場で事を荒立てては,我々の計画に差し支える。穏便に済ませる方が,お互いのためでしょう」
ガサガサガサ,と音がする。
木々の間をかき分けて出てきたのは,白銀の長髪を湛えた,身長2メートルは越えるであろう,長身の女性。
青いワンピースに身を包んだ彼女の,その最大の特徴は……一目見るだけでもわかる。彼女のシルエットを大きく拡張することになっている,3対6枚の巨大な翼。その色は彼女の髪と同様純白に染まっており,その様子にはある種の神々しさすら感じさせられた。
「何者だ。その容姿……亜人種というわけでもないな」
「ええ。さしもの私も,地上界にいるような穢れ者と同列と考えられては困ります」
「穢れ,者……」
落ち着き払った彼女の声は,それが彼女の傲慢さを示すものであると理解をしていても,なぜかストンと心の中に響き,異論を唱える余地が全くないと思えるような,不思議な陶酔感を感じさせた。
荘厳な雰囲気を纏う女性は,その水晶の如き美しい瞳を私達に向け,こう告げた。
「私の名は,サリエル。この地上界に,正しき秩序と安寧を齎すために舞い降りた……英霊族にございます」
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