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26発目 湖畔に轟く閃光

「ガルルルルルルルゥ……」


「全く・周囲の環境など,気にかけなければ苦労はないのに」


 昼時前のアルダン湖畔に,緊迫した空気が流れている。物理的にも,ぱちぱちと電気のはじける音がする。


 カトラ様は銃を構えたまま,二匹のイヴリスク達と対峙していた。


「ミーア,陣式魔導状態固定装置は持っているな」


 殺気を放ったまま,カトラ様はこちらに声を飛ばす。


「は,はい……」


「恐らく奴らは,出来れば強者の私と戦わず,奥の獲物,つまりお前たちを狙っていきたいはずだ。私がお前の名前を方向を叫ぶ。そうしたら,何も考えずその方向に装置の魔導を起動しろ」


「わ,わかりました」


 ごくりと唾をのむ。未だ苦しそうに呻くノーマン氏に密着しながら,カトラ様の声のみに注意を向ける。


「ガォオン!」


「烈!」


 先に動いたのは右側の魔獣。同時にカトラ様が引き金を引くと,彼女の構えた銃のすぐ手前で炸裂した。


「ギャン!」


「集砲!」


 半拍置いてもう一方が口から雷撃を発射する。カトラ様の放った銃弾とかち合ったそれは,派手な音とともに爆発を起こす。その煙は,カトラ様の目から魔獣の姿を隠すだけの一瞬を見事に作り出した。


「グォオン!」


「ミーア!後ろ!」


 カトラ様が叫んだ刹那,バチバチっと煙の合間をすり抜けて稲妻が走る。


「は,はいぃ!」


「ガァアアン!!」


 私が振り向くと同時に,目の前を魔獣の黄色く輝く口が覆った。


「ひぃいっ!!」


 無我夢中で魔導陣を起動し,その顎めがけて装置を突き出す。


 魔導陣が展開されると同時に閃光が放たれ,獣の悲痛な叫びが空を割いた。


「ッグゥウン……!」


 魔導陣が消え,ぐらっとイヴリスクの身体が揺らぐ。


 陣式魔導状態固定装置は,対象の魔導的形質を一定時間変化させられなくなる装置。即ち,変身系の魔導や自身の身体を電気や水,炎などへと変化させる魔導に対して使用することで,使用した瞬間の状態から変化できなくなるという魔具だ。


 今の状況で言うならば,イヴリスクが私達を捕食するために実体化した瞬間に使用したため,カトラ様の横をすり抜けた時のような雷電状態への変化が出来なくなったことになる。


 一瞬のうちにそのことを感づいた目の前の魔獣は,バックステップで距離をとる。私たちの更なる反撃を警戒して様子を見ようと一歩踏み出したその瞬間,


 ズダァン!

 

 目の前を拳大の大きな銃弾が横切り,えぐり込むようにその先の獲物を打ち抜いた。


「ガァァアアアン!!」


 撃ち込まれたあと,一拍の間をおいて銃弾が爆裂する。ドゴォオン!と重い音が響き,魔獣は動かなくなった。


「よし。間に合ったようだな」


「か,カトラ様ぁ……!」


 彼女の足元には,今の一瞬で倒し切ったのであろう,もう一匹のイヴリスクが倒れている。危機が去ったのだと理解すると,同時にほぅっと深いため息が出た。


「すっごぉ……流石,シノゾイック工房からわざわざ来てくれただけあるね」


 ざぱぁっと湖から音がして,エリーゼ氏が頭を出す。よく見ると,その近くには隠れていたのであろう,数匹の水妖精も目を輝かせて感嘆の声を上げていた。


「どうだろう。この崇高なるカトラ・フローリアの才覚を以てすれば,この程度だ。制約がなければ,もう少し早く狩れたろうが……誤差の範囲だな」


「うふふ,流石カトラ様です」


「ああ。問題は,戦闘によって発生した損傷率だ。我々にとってはそこが重要だろう」


「確かに。見た感じ,あまり大した変化はないと思いますけど……」


「いや,そうでもないぞ」


 カトラ様は顔をしかめ,深刻な面持ちで周囲を見渡す。


「一瞬にして決まるような攻防であったとはいえ,流石に睨みあいに時間をかけすぎたな。大気の魔子の状態が,雷属性に寄ってしまっている」


「魔子の状態……?」


 首をかしげていると,髪の周りでぱちぱちと音がする。感覚的に,乾燥した時期に見られるような静電気に近いようなものだ。


「事前に多少調べてはいたが,このアルダン湖周辺は,付近のアクアローソテツ林の影響と,湖があることから,大気中に水子の割合が多い。すなわち,大気の魔子の状態が水属性中心であるといえる。そのために,湿気を強く感じたり,森で遭遇したように水属性由来の妖精族が活動しやすくなっているのだ」


「なるほど……それが,イヴリスクとの闘いを通して,雷属性に寄って……大気中に雷子の割合が増えてしまった」


「ああ。お前たちが今湖に浸かっているのも,雷子が増えた影響で飛行がし辛い,ないし出来なくなってしまったからだろう」


 カトラ様は,エリーゼ氏の周りに群がっている水妖精たちに声をかける。彼らは眉を顰め,うんうんと頷いていた。


「なるほど……そうなると,被害状況も10%を超えてしまった可能性が……」


「でも,仕方ないよ~。全部イヴリスクがやったんだよ?」


「そうだよそうだよ!ぶっ飛ばしてくれるだけでありがとーだよ!」


 深刻な話をしていると察知したのか,妖精たちが口々に励ましてくれる。確かに魔獣族に頭を悩ませていた彼らからすれば,討伐してくれるだけでもありがたいことなのだろう。


 しかし……それでよしとはならないのが,仕事なのだ。


「えぇ,ありがとうございます。でも,たとえイヴリスクが与えた損害であったとしても,自然の10%以上を崩してしまえば,お仕事の報酬も減額されてしまうのですよ」


「えー!おしごとのけちんぼだ!」


「ま,そういうところは自由気ままに生きてる私達とは違うわね。でも安心して,大気中の魔子に関しては,数分たてば元に戻る。水の導子を大気に放出するアクアローソテツはいっぱいあるし,反対に雷の導子を放出するイヴリスクはいなくなったからね」


「確かに……ということは,このエリアでの仕事はほとんど完遂……といっても過言ではないですね,カトラ様!」


「あぁ,そうだな。確認されているイヴリスクはまだ2体残っているものの,自然への損害は報酬の減額されない程度には収まったようだな」


「といってもまぁ,妖精ちゃん達が飛べないのもなんだし,私もおひげがずっとピリピリしてるのは感知能にも影響するから……私が簡単な水魔導を使って,大気の水子割合を調整しましょうかしら」


 パン,と軽い音を立て,下半身のヒレを足に変化させるエリーゼ氏。そのままざぱっと水からあがると,大気に手をかざした。


「AOKJFENLXKHCPAJOKNHFLAKSJAJLKAJ……」


 私達には判別のつかない言語で詠唱を始めながら,魔導陣を空に描くエリーゼ氏。


 それがもう完成しようというとき,カトラ様がはっと目を見開いた。


「くるぞ,エリーゼ!」


「はい?」


 きょとんとした声を出すエリーゼ氏に向かって,カトラ様は銃を構えて引き金を引く。


 瞬間,バリバリバリっとエリーゼ氏に向かって雷撃が走り,


ドガァアン!!


「ひぃいっ!?」


 エリーゼ氏の目の前で,カトラ様の放った銃弾と激突した。


「積,烈!」


 雷撃は弾かれて森の近くに着地し,イヴリスクへと実体化する。


 ダンっと地を駆けたカトラ様は,すぐさま1発発砲した。


 バチっと新手のイヴリスクは雷電状態に変化し回避する。


「そこだ!」


 その方向を予測していたカトラ様は,的確に移動した瞬間の雷電めがけて魔導状態固定装置を起動した。


 ギィイン!と音が湖畔に響く。イヴリスクはそのままバチバチバチ!と破裂音を響かせながら,湖中を雷電状態のまま飛び回りはじめた。


「ひぃぃいいーーーーー!」


「か,カトラ様!!どうするんですかこれ!?」


「見ているだけでいいさ!ただし,見失うな!」


「そ,そんなこと仰られても!きゃあっ!?」


 目の前を稲妻が一瞬にして通過する。あまりにも速すぎて,叫び声を上げる頃にはそれが湖の中心まで移動してしまっているような状態だ。それでもカトラ様は,その状態を見定めるように集中している。


「もうじきだな……」


 カトラ様がそうつぶやいた時,バババババっと音がしてイヴリスクが実体化し,ドシャァアっと湖畔の草原に身体を投げ出して止まった。


「集…砲……狙,爆……!」


 立ち上がるイヴリスクは,どうにも力を使い切って疲労困憊といった状態だった。その様子を見届けたカトラ様は,ゆっくり正確に狙いを定め,その身体を打ち抜いた。


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