24発目 アクアンフェアリー・ラビリンス!!
「ま,待ってくださいよカトラ様~~!っきゃん!?」
べしょっと上からスライムが降ってきて,勢いよく頭にぶつかる。
なんとか水核を見つけ出して引きはがすと,その間にもカトラ様は遠くの木の幹に着地していた。
「これでも合わせてやっているのだぞ?一人ならもう突破している。ほら,その足元」
「え?うわわわ,わっぶ!?」
言われてふと下を見ると,そこにはスライムの青い体が。咄嗟に脚を引いてしまい,顔面から勢いよくダイブしてしまった。
「大丈夫ですか?ほらミーアさん,お手を」
「は,はいぃ……ありがとうございますぅ……」
「プクククク~!やっぱりメイドとジョセフは取るに足らないわね!」
「アンタたちの無様に引っかかる様を見ているだけでおもしろ~い!」
「あのチビ女にだけ躱されるのは癪だけどね!」
ノーマン氏に助けられて何とか起き上がる。周囲からは,いつのまに増殖したのだろうか,何体もの水妖精の声が聞こえてきた。
「な,なんだか増えていませんかぁ……?」
「そ,そうですねぇ……ここに生息している水妖精たちは,ティンクルスターを筆頭に悪戯好きの個体が非常に多いです。といっても,ここまでやたらめったらに仕掛けてくるような子たちではないはずなんですけど……」
「つまり,これもエヴィルアークの影響というわけだな。奴らにもともと住んでいた場所を追われた個体もいて,発散できないストレスが溜まっている可能性も考えられる」
「いえ,十中八九あなたが煽ったからだと思います……」
自慢げに的外れな考察を述べるカトラ様に,冷ややかな目を向けるノーマン氏。そうしている間にも,次々と妖精たちのトラップは敷かれていった。
「おっと……!」
慌ててカトラ様が飛び降りると,一瞬まで彼女のいた場所を水属性の魔導弾が通過する。
「そこにもいるな!」
「ぴぎ!?」
着地寸前に足元を狙撃し,スライムを置こうとしていた妖精を退ける。
「きぃぃいい~~!また失敗した!自慢げに話してるからチャンスだったのにーー!」
「いつでも来る可能性があるとわかっているのに,わざわざ気を抜てやる道理もないぞ。やるのならもう少し真面目に……おっとすまない,ちゃんとやってその程度なんだったな」
「あああーーーーーもぉお!腹立つーー!絶対にぎゃふんと言わせてやるんだから!」
ぷんぷんと肩を怒らせるティンクルスターを尻目に,余裕たっぷりの表情でタンッと地を蹴るカトラ様。
あっという間に私達を置いて行ってしまうその顔は,なんとも楽し気な雰囲気が感じられた。
「……もしかして,カトラ様……こうやって子供っぽい者達と遊ぶのが,好きだったり……?」
普段から尊大な態度で,誰も寄せ付けないような気品と風格を漂わせるカトラ様。
しかし,そんな彼女も……ひょっとしたら,こんな子供じみた遊びを,心のどこかでやってみたいと思っていたのかもしれない。
そう思ってほんのり心が温かくなった……途端,カトラ様のいらっしゃる方から飛んできたスライムが勢いよく顔面に衝突する。
「むぐぐぅぅううーーーーー!!」
ほっこりしかけた心が一瞬で瓦解していくのがわかった。
「ぶはぁ!!もぉ,カトラ様ぁ!さ,流石に罠の数が多すぎますよぉ!!」
しばらくして,なんとか声の届くところまで追いつくと,自然と縋るような声が口から出る。
それを聞いたカトラ様も思うところがあるのか,足を止めて銃を手に取った。
「そうだな……少し数を減らそうか」
カトラ様はそう言うと,ダンッと木の枝を軽く蹴る。
「こうした本来のターゲット以外に対しても,無駄撃ちが許されないのは少々やりづらいが……縛,結……集!」
魔導陣を展開し,数発の弾丸を発射する。
「ぴぎっ!?」
「きゃん!?」
「おふぅん!?」
「ひぃん!?」
その全てにおいて見事に命中。その射線上に導子の線が生まれ,カトラ様が再び引き金を引くと同時に糸を巻き取るように収束していった。
「やぁあ~~ん!!」
「ちょっと!捕まえられるなんて聞いてないんですけどーーー!!」
「勝手に沸いてきたのはお前たちだろう?ティンクルスターに唆されたのかは知らないが,歯向かってくる以上反撃されることを想定しておくべきだろうに」
「そ,そういう問題じゃなくて……いやそういう問題でもあるのだけど……」
あの妖精たちが文句を言っているのは反撃されることそのものより,手のひらに収まるほど小さな自分たちを精密に撃ち抜いてみせたカトラ様の射撃精度に対してだろう。
「さて。ただ,更に数を増やされるのは厄介だな……お前たちには,少し痛い目を見てもらおうか」
「ふえ……?」
「い,痛い目……?」
現在捕まえられている妖精は5~6匹程度。それらが纏めて導子の紐でぐるぐる巻きにされて繋がれている。カトラ様はその紐の端っこを掴むと,
「さあ……新感覚アトラクション,スーパーフリーフォールの時間だ!」
そのままぐるぐると勢いづけて回転させる。
「「「「ひぎゃああああああああああああーーーーーーーーーーーー!!?」」」」
妖精たちは悲鳴を上げ,目を回してしまう。
「そぉら……!!森の外まですっ飛んでいけーーーーーー!!」
カトラ様はそんな妖精たちを,全力で森の奥に向かって放り投げた。
「「「「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!」」」」
妖精たちの悲鳴は次第に遠く消えていく。パンパンパン,と手を払うカトラ様を,私たちも周りの妖精たちも呆然と見つめていた。
「死んだりはせん。ちゃんと魔導陣を使って身体強化も施してあるから,動けなくなるほどのダメージを追うこともないだろう。
まぁ,味わうことになるスリリングな感覚は……ほかのどの遊園地にも真似できないだろうがな」
ガシャッと銃を構えると,その先にいたすべての妖精たちが震えあがる。
「さぁて……次に仕掛けてくるのは……誰だろうなぁ?」
「ひぃぃいいーーーーー!」
「い,悪戯は好きだけど,されるのはイヤーーーーー!」
「ご,ごめんなさいーーーーー!」
一斉に彼らは悲鳴を上げ,ぴゅーんと飛び去ってしまう。
残ったのは一部特に仲の良い妖精か,準備に手間取って逃げ遅れたのか,ティンクルスターを含めても数体程度だった。
「よしよし,これで突破もしやすくなったが……次の仕掛けはなんだ?ティンクルスター」
「む,むぎゅぐぐぐうぅ……!」
数で押し切ることを想定していたのか,押し黙ってしまうティンクルスター。
周りを見回しても反対意見が多かったようで,大人しく音を上げた。
「無理ぃいーー!あの人数で攻めてもぜんぶ突破されちゃうのに,減っちゃったらもう無理じゃーーん!あーーあ,もういい!私の負けでいーーよー―だ!」
駄々っ子のように負けを認めるティンクルスター。カトラ様はその返答に頷き,銃をしまった。
「いいだろう。ではそうだな……勝った報酬として,少し協力をしてもらおうか」
「協力?」
「どういうことですか?カトラ様」
樹木から飛び降りると,彼女はノーマン氏から地図を借りて広げる。
「我々がこの森に来た本来の目的は,変牙獣エヴィルアークの掃討だ。特に厄介なのは,行動範囲の広いイヴリスクと,遠方からでは観測しづらく数も多いフリーヴァス。こいつらの捜索と,出来れば私達が到着するまでの足止め……これを,お前たち水妖精に手伝ってもらいたい」
「捜索と,足止め?」
「なるほど……確かに,我々観光庁やシノゾイック工房の空中観測船のみでは,我々が向かうまでの時間も考えると限界がある……それを妖精たちに手伝ってもらうわけですね」
「そういうことだ。先ほど相対した限りでも,お前たち水妖精は大勢いるのだろう?協力してくれれば,最近山から下りてきた厄介な魔獣の処理をしてやる。なんなら報酬だってくれてやろう。どうだ,悪い話ではないだろう」
「ふん……ま,まぁ,報酬がもらえるんなら……やってあげなくもないけれど」
「……カトラ様,もしかして妖精たちからの協力を得るのが目的で……?」
「いや,今さっき思いついただけだが」
ちょっと計算ずくを期待してしまっただけに,がくっと肩が落ちる。
ただ,何はともあれ,地元の妖精たちの協力を得られたことは,依頼の完遂に向けた大きな一歩であることは間違いなかった。
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