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21発目 シノゾイック工房

「す,すごい……パレゾイック工房でも驚くほど大きかったはずなのですが,これは……」


 見上げるほどの大きな門の奥,何本もの巨大な塔がそびえ,様々な色の煙を放出させている。その中心には,巨大な箱型の建物にドーム状の屋根の乗っている。


 貴族の宮廷と見まごうほどの大きさ。これが,メタヴィアス公国最大を誇る魔具装具士組合(まぐそうぐくみあい),シノゾイック工房の本部である。


「驚く必要はないだろう。つい数週前までここよりも大きな場所に住んでいたのだから」


「カトラ様,そういう問題なのですか……?」


「ふふふ,流石に元貴族令嬢様は思うことが違いますね。どうぞ,こちらです」


 サーデス氏の案内で門をくぐる。パレゾイック工房と同様防音用の魔具を渡されるかと思いきや,そのまま受付まで通された。


「加工の音が聞こえないですけど……本日は一部業務しか行っていないのですか?」


「いえいえ,本日も確かに,加工も行っておりますよ。これほど大きな施設になると,加工場毎に防音魔導を組み,事務所などの接客をする場所は無音で,お客様に安全な状態で対応が出来るというわけです」


「な,なるほど……さすがですね」


そんな話をしながらサーデス氏の口利きで受付を済ませ,少し進むと様々なポータルの並ぶ通路へたどり着く。


「ポータルがこんなに並んで……ここからいろんな施設に移動できるのは便利ですね」


「いろんな施設?まさか。ここに並ぶポータルはすべて,この工房内の作業場間を移動するものですよ」


「えっ!?こ,これ,全部がですか!?」


 見渡すだけでも,数十は存在するポータル。その全ての上に札が付けられており,「回路開発」「炎軸魔具加工場」「雷子回路設計」など,確かにこの工房内のどこかにつながるもののようだ。


「気になるようでしたら,工房長との面会を終えた後にでも,工房の一部をご案内致しますよ。うちで製作しているのは,なにも武器や装備だけではございません,きっとお楽しみいただけると思います」


「そうなんですか?何だか楽しみですね,カトラ様」


「全く……それ自体は別に構わないが,何も私達は遊びに来たのではないんだぞ?」


「わかっていますよ。」


「さて,ご案内するよう指示されたのはこの先です。では,良い交渉を」


 社長室,と記載されたポータルの前で,サーデス氏は一礼する。お礼を言って二人で入ると,正面に大きなプレジデントデスクに座る,半透明の翅を持った女性だった。


「来ましたね……。ようこそ,シノゾイック工房へ。カトラ・フローリア,ミーア・フローリア……最強の用心棒と,その召使」


 透き通った絹のような肌に,尖った耳。宝石のような碧眼を持ったその美女は,そのゆったりしたローブを翻して立ち上がる。


「わぁ……!」


 見上げるほどの高身長に,腰まで届く白金の長髪と翅がまるで後光のようにふわりと広がっている。工房などという機械的な環境にはまるで適合していないように感じるその姿に,思わず息をのんでしまった。


「私はローゼンファイス。この工房の長にして,この国の全魔具装具士組合を統括する者です」


「私はカトラ・フローリア。グルーオン家の娘……と申し上げたいですが,現在の肩書は何もございません」


 ビジネスの場であるため,カトラ様も尊大な態度を潜ませ優雅に礼をする。貴族育ちらしく,その仕草にもしっかりとした品格を感じられた。


「私はミーア・フローリア。カトラ様の召使をしております」


 カトラ様に続き,私も頭を下げる。その様子を見て,ローゼンファイス工房長は穏やかに口元に手を当てた。


「うふふ……初対面時の形式とはいえ,やはり慣れませんね。これ以降はお互いフランクにいきましょう」


「……違和感があるのならしなければよいのに。そちらが先に振舞ってきたのだろう?」


「そうですね,失礼しました」


「ところで,ローゼンファイス工房長……?」


「ファイス,で構いません。それで,以下がなさいましたか?」


「は,はい……素朴な疑問なのですが。ファイス工房長は,そのお名前や(はね)を見る限り,妖精族でございますよね?」


「あぁ……この背丈のお話ですね?」


「は,はい。失礼ながら,ふと疑問に」


 複数の単語から成る単一の名,そして背中の翅は,ともに妖精族の特徴である。しかしながら,妖精は特別な地位にある一部を除き,大きくても人間の子供ほどの大きさしかないはずだ。


 そんな不躾(ぶしつけ)な疑問に対しても,ファイス工房長は丁寧に答える。


「この背丈……そしてこの耳は,父親由来のものです。世にも珍しい,かどうかはわかりませんが……私は巨人と花妖精との混血なのですよ」


「そうなのですね……失礼いたしました」


 巨人は,分類的には霊獣族にあたる,通常の何倍もの体躯(たいく)を誇る人間だ。基本的な形質は妖精族であることからも,巨人の方が父親なのだろう。興味深い話だ。


「さて……まずは契約に関するお話を致しましょうか。書類に記載はお済みですか?」


「はい,ここに」


 列車の中で書いておいたものを渡すと,彼女は美しい所作でそれを受け取る。


 一通り目を通すと,満足そうに頷いて胸元から小さな筒状の魔具を取り出した。


「やはりどちらも貴族に教育を受けた者達……文字の一筆一筆にも気品が感じられますね。これなら,お仕事も十分満足にこなしてくださることでしょう」


 パシュっと音がして,書類に印が刻まれる。契約完了,ということなのだろう。


「さて,ただいまよりあなた達は正式に我が元で働く組合員となったわけですが……早速お仕事の斡旋(あっせん)をさせていただいてもよろしいですか?」


「ああ,構わない。というよりも,既に何か私が動く必要のある事態が起きているのか?」


 カトラ様が雇われたのは,用心棒……もとい,組合に損害を与える魔獣達の狩猟だ。その範囲が国全体と捉えると確かに広いが,それでもパレゾイック工房の解決時期を考えるとあまりにも……


 そう思っていると,ファイス工房長は煩わしそうにため息をついた。


「ええ……でも,今回はパレゾイック工房の時ほど大がかりではない筈です。まぁ,研修のようなものと捉えていただければ構いません」


「研修,か」


 ゆっくり頷くと,その内容を彼女は続ける。


「場所は,我が国の誇る観光の要所・ヨスミトタテ国立公園。内容は,周囲の生態系を荒らす変牙獣(ヘンガジュウ)・エヴィルアークの群れの討伐です」


最後までお読みいただき,ありがとうございました!

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