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20発目 いざ,中央本部へ

闇竜皇(あんりゅうおう)……で,ございますか?」


「ああ。冥帝教の研究員が,そのように言っているのを聞いてな。どうにも,今回の事件や,冥望龍(めいぼうりゅう)とも何かしらの関係があるような口ぶりだったのだが」


 カトラ様の問いかけに,工房長は顎に手を当てる。少し考えた後,彼は真面目な声音で口を開いた。


「なるほど……聞き覚えは,ございますね」


「あるのか」


「はい。しばらく前に……都市伝説のようなもので」


「都市伝説……ですか」


 ゆっくりと頷くと,工房量は続ける。


「闇竜皇……その個体名は,ラドナグライヴァ。天龍族に次ぐ力を持つとされる,超越魔導生物……皇獣族(こうじゅうぞく)の一角とされております」


「皇獣族……推測するに,闇属性の竜族達の頂点に君臨する存在,か……」


「ええ,ええ。話によると,冥望龍が最も信頼を寄せる,最凶にして最悪の魔獣族……冥望異変の際にも,当時最大の力を誇っていた,大天使ミカエルの軍勢を壊滅させたのだとか」


「それほど強大な皇獣族……でも,それほどの存在なら伝承に残っているのでは……?」


「ええ,ええ。そう思われるのですが,反対にその存在を都市伝説化させることによって,封印されているその者を刺激し安易に復活させないようにしている……そんな噂もささやかれている,とのことでございますよ」


「なるほどな。それを本気で信じ,蘇らせようとしている……か」


「不気味ですね……冥帝教。彼の言葉を信じるのなら,その闇竜皇の復活のために,魔界の門を開いて竜族を呼び出して回っている……」


「ああ。中央本部で活動を続け,魔界の門を辿っていった先……もしかしたら,幾度となく彼らとぶつかり合うこともあるかもしれない。意識しておいて損はないかもな」


「そうですね。彼らの野望や闇竜皇に関する情報も,集まるかもしれません」


「そうだな。工房長,教えてくれて感謝する」


「いえ,いえ。他にご質問などは?」


「いや,大丈夫だ。では改めて……世話になったな。」


「ええ,ええ,こちらこそ。また何かございましたら,ぜひ当工房をご利用くださいませ」


 ぺこりとお辞儀する工房長に挨拶をすると,改めて私達はホテルのチェックアウトに向け,ポータルへと向かうのであった。



♢♢♢♢♢



「ご乗車,ありがとうございました~。終点,メリドス~,メリドスです」


 ぷしゅー……と音を立て,魔導列車が停車する。


 メタヴィアス公国の首都・アイオワ市の北西部,魔具装具士のものと思われる住宅街がまばらに並ぶ田舎町,メリドスだ。


「また随分と寂れた街だな。このような閑静な都市がこの国にも存在するのか」


「カトラ様,まだまだこの街は閑静(かんせい)などとは言い難いですよ~。領主を務める貴族のムーア家が観光業に力を入れているという話もあります。国全体からすると……中の下くらいの発展具合でしょうか?」


「そうだったのか。それは失礼な物言いであったな」


 そう言いながら,カトラ様は駅の物静かな感じが物珍しいのか,興味津々と言った様子で辺りを見回している。心なしかその瞳も輝いていそうで,その背に提げる物々しい銃を考慮しなければ,まるで祖父の家に招かれる幼い子供のようだ。


「ほらカトラ様。日が暮れる前に組合中央本部との面会も済ませておきたいですし,早く移動しますよ」


「わかっている。ゆくぞミーア」


 声をかけると途端にきりっとした声音に切り替わる。相変らずオンオフのしっかりしているお方だ。


 中央本部までは,ここから路線バスに乗り換え,1時間ほどで辿り着く。手続きまでの時間を考えると,もたもたしていると仮住まいとなりそうなホテルを探せるようになるまでにも日が暮れてしまいそうだ。


「あ,カトラ様。あそこに停留所がございます。中央本部に向かうバスが出るところですよ」


「んむ……?なんだミーア,あんな屋根以外何もないような駅で待つのか?」


「ええ。それが庶民の暮らしの当たり前です」


「そうなのか……また随分と不便なものだな」


 宮廷にいたころは専用車に乗っていたカトラ様は,少し不服そうな表情をする。それでも,私が“庶民の暮らし”という言葉を出したために学びの時と判断したのか,大人しく付いてきてくださった。


 時刻表を見ると,次のバスの到着時刻は10分ほど後のようだ。


「それで?どのくらい待てばいい?」


「そうですねぇ……時刻表を見ると10分ですが,遅延も考えると15分はかかりそうですね」


「こんな貧相な駅で待たされるというのに,更に遅延までするのか!?バスというのは公共交通機関なのだろう?一体どういう神経をしているのだ!」


「ま,まぁまぁ……道の混雑具合もございますし,仕方ないんですよカトラ様……」


 宥めようとしていると,不意に私たちの後ろから声がする。


「もし。カトラ・フローリア様と,その召使様でございますね」


「む。誰だ」


「え?は,はい。私達に何か御用でしょうか?」


 その男は,ぴしっとした正装を身に纏い,いかにもビジネススマイルといった笑顔で微笑みかける。


「申し遅れました。私,メタヴィアス公国の魔具装具士組合の中央本部……またの名を,シノゾイック工房から参りました。名はスミロン・サーデス。お二人を我らの本部へお届けする用,仰せつかっております」


 丁寧に一礼をするサーデス氏。よく見ると,その奥には賓客の送迎用と思われる魔導車が一台留まっていた。


「あら,わざわざご苦労様です!」


「迎えか。良い計らいだ,褒めてつかわそう」


「光栄にございます。さぁ,こちらへどうぞ」


 優雅に開けられた扉に,二人で乗り込む。音や揺れもなく上手に動き出した魔導車は,そのまま真っすぐ街の中心部にあるシノゾイック工房へと向かっていった。


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