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19発目 報酬清算

「いやぁありがたい。ビルケニアより話は伺っておりましたが,やはり流石,元グルーオン家ご令嬢のカトラ様でございます!」


「なに,この崇高なるカトラ・フローリアの手にかかれば,造作もないことだ。それに民の暮らしを護り,平和と安寧を約束する。民の上に立つ者として,当然の責務でもある」


「なんとも,なんとも頼もしいお言葉……!!あの迷惑しかかけてこない領主のエゲツナー伯爵に,爪の垢を煎じて飲ませてやりたい気分でございます」


 マル・タンボ火山帯から一日かけて帰還し,更に一夜明けた日の朝方。私達は依頼の事後処理を行うため,再びパレゾイック工房に訪れていた。


「工房長,頭をお上げくださいませ。感謝のお言葉は,もう充分いただきましたから」


 目の前でペコペコ頭を下げて感謝し切っている工房長をなんとか宥める。しばらくたって,ようやく工房長は顔を上げ,本題へと話を進めてくれた。


「ええ,ええ。それでは早速本題へ移りましょうか。とはいえ,何からお話しするべきか……」


「まず,今回の魔界の門の件。火山帯にいる魔獣族たちの事後処理などはどうする」


「ええ,ええ。まずはその話からに致しましょうか」


 工房長は近隣の地図を広げる。そこにはいくつかマルとバツで印がつけられている場所がいくつかあった。


「まず,カトラ様達がまとめて火竜達を討伐なさった箇所,これがマルで囲っている12ヵ所でございます。現在工房の素材取り扱い担当でその場所に残っている素材の確認を行っております。現状3ヵ所で報告があるのですが,損傷が激しい個体が多く,骨や爪牙などの一部素材が残っている程度のようでございます」


「そうか。それに関してはすまないな。一気に全員を討伐する作戦上,どうしても荒く斃さざるを得なかったのだ,許せ」


「ええ,ええ。そもそも竜族は一匹討伐するだけでも一苦労。一度に何匹も相手になど,我々如きではできようはずもございませぬ。討伐してくださるだけでありがたいことこの上ありませぬ」


 少し過剰にも思えるほど平身低頭な様子の工房長に,どうにもむず痒い感覚がする。まぁ,それだけカトラ様の実績が偉大であることの証左でもあるのだが。


「ただ,こちらのマルで囲った部分。焔煌竜(えんこうりゅう)リオル・グランディアに関しては,真っ先に確認に向かったところ,とてもよい素材が手に入りました。強力な魔獣族からしか入手することのできない,非常に貴重な素材でございますよ」


「貴重な素材,ですか?」


 そう言うと,工房長は腰に提げた袋から,豪奢(ごうしゃ)な赤い箱を取り出す。両手に抱えるほどの大きさのそれを開くと,深く鮮やかな紅色の球が収められていた。その模様は輝きを伴って変化し,まるで火竜の炎がその内側で燃え盛っているようにも感じられた。


「わぁ……!!す,凄い,何ですかこれは……」


「竜の宝晶,と呼ばれる素材にございます。竜族の中でも,特に強力な個体は,自らの魔導回路を以てしても余りあるほどの強力な魔導エネルギーをその体内にため込むことがございます。そのエネルギー達が体内のある一点に凝縮され,体内の不純物を取り込んで結晶化したものを,俗に宝晶と呼ぶのです。この素材の場合は火竜属から採取されたものですので,火竜の宝晶(ほうしょう),と呼ばれます」


「宝晶……そんなものがあるのですね。魔導エネルギーの結晶体……綺麗……」


 吸い込まれそうなほど深く美しいその輝きに,思わず息をのんで見入ってしまう。その様子を見て,カトラ様もやれやれと言った様子で工房長に声をかける。


「随分とミーアも気に入っているみたいだし,その宝晶とやら……買い取らせてもらおうか。いくらだ」


「いえいえそんな!お代は全く必要ございません!これは我々からの御礼,ぜひぜひ受け取ってくださいませ!」


「そうか,そういうことなら受け取ろう。ミーア,管理はおまえに任せる。好きに扱うがいい」


「えっ……!?よ,よろしいのですかカトラ様!?」


「ああ。この崇高なるカトラ・フローリアにとって,優秀な召使にしっかりとした褒美を与えることも責務の一つだ。文句を言う必要はない,受け取りれ」


「カ,カトラ様……!」


 手渡された深紅の宝玉。カトラ様からのプレゼントという価値も合わさって,より一層輝いて見えた。


「ありがたく頂戴いたします。大切に,大切に保管させていただきます……!」


 頂いたプレゼントをしっかりと握りしめ,バッグに仕舞う。よほど私の反応がよかったのか,カトラ様も工房長も満足そうな笑みを浮かべていた。


「それ以外の報酬に関しましては,素材の換金額に上乗せして我々からの報酬も追加でお支払いいたします。その詳細はまた後日……そしてお次の報告は,このバツ印。こちらはビルケニアから報告のあった,崩落した採掘場の場所にございます」


「問題はそこだな。収益が戻るにはどのくらいの損失になりそうだ?」


「ええ,ええ。そこに関しましては,現状確認している4か所は想定していたほどの損害にはならない様子であるとのことです」


「そうなのですか?私達が見た限りでも,崩落して使い物にならなさそうな場所も……」


「ええ,ええ。しかしながら,魔導鉱石や鉱脈の形成には,環境内の魔子濃度が強く影響いたします。この性質から,カトラ様の狩猟法が非常に有効に機能いたしまして」


「有効に機能?ど,どういうことでしょう……?」


「なるほどな。火竜達の遺骸から火属性の導子が放出される。その導子から,崩壊した場所以外にも鉱脈が出来る可能性があったり,瓦礫そのものが新たな魔導鉱石となったりする可能性もあるわけだ」


「そ,そんなことが……」


「ええ,ええ。その通りでございます。ビルケニアからは大層迷惑な狩りかただと聞いていましたが,事後処理や工房の復興を考えると,とてもありがたい手法でございました」


「なるほど……よかったですね,カトラ様」


「ああ。狩りやすく,事後処理も楽,復興にも貢献。これが一石三鳥というものだな」


「あはは……まさしくですね」


 個人的には,あの轟音はとても耳に悪いので,できればやめてほしいのだが……。


 そんな事情はいざ知らず,目の前の二人は話を進めている。


 残る話題は,これから先の話だった。


「さて,さて。最後になりますが,今回の成果を首都ハイオワの本部に報告を致しましたところ,二つ返事でぜひとも雇用したい,という返信が届きました。基本給に加え出来高による報酬の上乗せということですから,十分に豊かな生活は保障されると思われます」


「その話か。いいだろう,こちらとしても願ったりだ。詳細な契約は何処で行われる?」


「ええ,ええ。こちらで地図や資料をご用意しております。こちらに」


 工房長は袋から,今度は封筒に入った書類を取り出す。開いてみると,そこには先ほどの言葉通り,詳細な場所や契約内容の書類が入っていた。


「アイオワ市,メリドス。なるほど,中心の都市部から少し離れた,ヨスミトタテ国立公園にほど近い場所ですね」


「ええ,ええ。自然豊かな良い場所です。そこに行けば,すぐに手続きに入ろうと,本部の者も申し上げておりました。」


「わかった。そういうことなら,すぐに向かおうか。ミーア,準備はできているか」


「ええ,勿論。すぐにでも出立可能でございます」


「よし,それでこそだ。では,我々はアイオワ市に発つ。世話になったな,バージェス工房長」


「ええ,ええ。ご検討を祈っております」


 工房長は再びぺこぺこと頭を下げる。ただでさえ腰の曲がった体がさらに曲がってしまいそうなほどだ。


 カトラ様は頷き,ポータルに向かう。だが,ふと何かを思い出したように立ち止まると,工房長に声をかけた。


「そうだ,忘れてた。工房長,最後に一つ,聞いておきたいことがある」


「はい,何でございましょうか」


 きょとんと首をかしげる工房長に向かって,カトラ様は問いかけた。


「“闇竜皇”という存在について……何か,知っていることはあるか?」


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