16発目 v.s.リオル・グランディア
「さあ行け,焔煌竜リオル・グランディア!!我々の計画を邪魔する者どもを見つけ出し,殲滅するのだ!!」
「グルルルゥウアアアア……」
高らかに宣言する研究者を見ながら,焔煌竜は動かない。
「な,なんだ……どうした!なぜ動かない!!せっかく呼び出してやったのに,この私の命令に逆らうというのか!!」
「ど,どうしたのでしょう……動かないみたいですけど……」
小声で尋ねると,カトラ様は意味深な笑みを浮かべる。
「呼び出された身にもなってみるがいい。奴のいう邪魔者のことを,奴はその存在すら知らない。見ず知らずの他人だ。……そんなよくわからない他人より……目障りな存在がいるだろう?」
「ゴォォオオオオオオ……」
煩わしそうに呻くと,巨大な火竜はその口を大きく開け,獄炎の球を溜め始める。
「んな……なんだ,何をする気だ!!おい,まさか……」
「目の前に一人……ぎゃあぎゃあ騒ぐ,五月蠅い蟻が……」
「グゴォォォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「や,やめ,やめろぉおおおお!!うわぁああああああああああ!!!?」
情けない悲鳴を上げて研究員が逃げ出そうとするが,焦って躓き無様に転んでしまう。
彼が振り向くころには,巨大な火球がその視界を覆いつくしていた。
「集,砲……散!」
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
爆音が大気を震わせ,衝撃波が火口湖に高波を起こす。
着弾時に起こるはずの局地的な地震は,しかし起こることはなかった。
「ひぃいい……!?お,お前たちは……」
「ケニー……話を聞くのはこいつからだ。例のカプセルに入れて捕らえろ」
研究者の前に立ち,焔煌竜の火球をその弾で相殺したのは,他に誰がいるだろう……カトラ様その人だ。
「一個しか持ってきてねえんだが……中に入ってたやつはどうする?」
「ほっぽり出して構わん。大した情報も持っていないだろうしな」
「へーい」
「ガァァォォオオオオオオオン!!」
自慢の火球を打ち消されたことで,ようやく真の脅威に気付いたのだろう,焔煌竜が咆哮する。
「呼び出されたばかりのところ,すまないが……お前を地上界に置いておくわけにはいかん」
その威圧感に欠片もひるむことなく仁王立ちのまま銃を構え……カトラ様は,高らかに宣言した。
「この崇高なるカトラ・フローリアが,貴様を成敗する!!」
開戦の火ぶたは切って落とされた。
激昂する焔煌竜に,カトラ様は真正面から飛び込んでいく。
「烈,砲!」
一発撃ち込んで強靭な腕による攻撃を相殺すると,その腕に飛び乗り更に跳躍。
「散,破,貫!」
ズガガガン!
「ギャォオオオン!?」
カトラ様がまず打ち抜いたのは目。思わず仰け反る巨体の腹に向けて,落下しながら無数のブロックを展開した。
ドドドドドドドドドドドドドン!!
腹の曲線に沿って,無数の弾痕がえぐり込む。魔獣族特有の深緑の血が噴水のように吹き上がった。
だが,巨竜も一方的にやられるばかりではなかった。
カトラ様の着地に合わせ,先端の太さだけでもカトラ様の身長ほどはありそうな尻尾で打ち払う。
「がふ……!」
叩きつけられた岩壁は,そのまま勢いだけで破壊されてしまう。その衝撃を耐えきったカトラ様は,展開した極小のブロックに全体重をかけ跳びあがる。
「集,砲……!」
回転しながら出現させたブロックに数発弾を撃ちこむと,それは巨大な魔導弾となって火竜を襲う。
ドゴォォオゴォオオゴゴオォオオン!!
一発一発が竜の吐くブレスに相当する凶弾は,命中の度に爆発を起こす。その煙を振り払い,獄炎を纏った火竜は翼を広げる。
「ゴォォオオオオオオアアアアアアアアアアアアア!!!」
咆哮と共に発せられる大熱波。それは周囲にいた妖魔族をすべて岩壁にたたきつけ,火口湖の水の一部を蒸発させてしまう。
大量の水蒸気で視界が奪われるカトラ様。もとより目を潰された火竜はそんなことお構いなしに飛び掛かる。
「あっぶ……!?」
間一髪,視界を奪われたタイミングからその場を離れていたカトラ様のすぐ隣を小山のような巨体が突っ切る。
カトラ様は何とか傍の岩にしがみつき,その風圧をこらえ切った。
「グゴォォオオオオオ!!」
しかし,その直後に襲い来る火炎放射ばかりは避けられない。
「ぁぐぅうう!?」
火だるまになってしまったカトラ様は,そのまま火口湖に突っ込んでしまった。
「ぶはぁ……!!あっつ……!」
何とか水の中から這い出すが,腕や頬などいたるところにやけどを負ってしまった。
「やるじゃあないか……それでこそ,この崇高なるカトラ・フローリアが討伐するに相応しい!!」
撥水姓の高い火鼠の羽衣の素材と,周囲を覆う熱波によって,服が吸った水分はすぐに蒸発してしまう。それを見越したカトラ様は,そのまま円を描くように走りながら火竜のそばの岩肌に向かって連射する。
「ガォオオン!!」
反射的に撃ち抜かれた岩に向かってかじりつく。その隙を見逃すカトラ様ではなかった。
「烈,散……衝!」
電光石火のスピードで肉薄すると,腕では対処しにくい脇腹に銃口を突き立てる。
ズガガガガガガガガガン!!
「ギャゴォオオオオ!!」
勢いで胴体が半回転し,腕が吹き飛びかける。
なんとか体勢を立て直した巨竜の怒りは,ついに頂点に達したようだった。
「グゴォォオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
全身に炎を纏い,怒りのままに飛翔した火竜は,火口湖から少し外れた上空にてその身を翻す。
「ガアアアアアアアアアオオオオォォォォォォォオオオオ!!!」
ただでさえ巨大な火竜の体躯の何倍もある巨大な火球を頭上に展開すると,ためらいなく炸裂させて火口湖に落とす。それはさながら,天から降り注ぐ流星群だ。
「烈,集……速!」
降り注ぐ火球の雨を,カトラ様は一縷の無駄もないステップで回避する。その中で,回避できないと判断したら即座に撃ち落とす方向に切り替えてく。とても並の人間に可能な瞬発力・判断力ではなかった。
「爆,砲……集狙,烈……!」
流星群の勢いが衰えたその瞬間,カトラ様は大地を踏みしめ攻勢に入る。
詠唱と共に,カトラ様の銃口に溜まっていく魔導弾。限界を突破し溜められたそれは,あまりの高密度に真っ白に光り輝いていた。
「極天砲……戦女神の巨砲!!」
ガチっと引き金を引き,GK反動制御技術ですら殺し切れない衝撃と共に打ち出される巨砲。それは一寸の狂いもなく,焔煌竜を撃ち貫いた。
ズガァァアアアアアアアアアアアアアアン!!!
空中に広がる光球は,太陽が没して暗くなったはずの火口湖を,真昼のように照らし上げる。
その光が収まる頃……瀕死状態にまで追い込まれた紅蓮の竜は,火口湖よりさらに下の地表めがけて垂直落下していった。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
「い,いた!カトラ様!!」
戦火が収まったところで私達が再び火口湖に戻ると,そこにはカトラ様のお姿が。
「あぁ,ミーア。すまないな,少し手間取った」
「す,少し手間取った……だとぉ……?」
周囲の惨状に戦慄するシャルル氏を尻目に,急いでカトラ様に駆け寄る。
そのお体は,至るところに火傷が……恐らく,無事にはすんでいない骨だっていくつもあるはずだ。
「カトラ,様……」
「……あぁ……ちょうどよかった。……少し,その能力……借りさせてもらうぞ……」
そうつぶやくと,とさっと私によりかかる。
「……はい,カトラ様……ゆっくり,お休みください……」
その小さなお体を,ぎゅっと抱きしめる。彼女はすぐに,深い眠りにつくのだった。




