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15発目 降臨,焔煌竜

「見えてきた,あそこだな……」


 日も暮れかけた夕刻。私たちは,火山帯の中央部北西……もっとも活動が活発な,エルピオス火山の火口部付近に来ていた。


「いくら火属性の冷却コートがあるとはいえ,流石にこの暑さは耐え難いですね……」


「ここは活火山の火口部だからな。この崇高なるカトラ・フローリアならまだしも,お前たちのような一般人が生身で来れるようなところではないだろう」


「お前だって肉体的には一般人だろうが。それより,向こうを見ろ」


 シャルル氏が指さす先にいるのは,先ほど遭遇したような妖魔族。


「さっき逃がした兵隊が報告しているとしたら,警備が手厚くなっていることが考えられる……」


「わかった。出来るだけ短時間で殲滅しろということだな」


「そうじゃねぇ!隠れろって言ってんだよ。迅速に片付けるには,気付かれないように,慎重に動くのが適切だってこと」


「またその話か……全員一度に相手すれば時間もかからんだろう?」


「その代わりに苦労がとんでもないことになるんだよ。一体一体気付かれずに斃すことが出来れば,労力だってかけずに済むだろう?」


「しかし考えても見ろ。私は今回ずっと,一気に全員集めて一網打尽にするやり方で労力をかけずに全滅させてきただろう?」


「うっ……ま,まぁ……それはそうだが……」


 丸め込まれそうになるシャルル氏は,はっと気づいて慌てて首を横に振る。


「いやいや,妖魔族(ようまぞく)と戦った時を思い出せ!俺達は,下手すりゃ流れ弾に当たるかもしれない状況だったんだ。あんな乱戦状態,ごめんだっての!」


「むぅ……ならばどうするか……」


「あ,あの……お二人とも……」


「あ?なんだよ」


「どうしたミーア?そんなに震えた声を出して」


「その……お二人とも,そんなに大きな声を出しても良いのでしょうか……」


 先ほどから音が鳴らないようにしているレーダーには,周囲を囲うように魔導反応が点在している。


 しかも,先ほどから全然動いていない。どう考えても気付かれている。


「……あ……」


 青ざめるシャルル氏。それとは真逆に,カトラ様はいたって冷静だった。


「ああ……周囲にいる妖魔族のことだろう?警備の者がいるというケニーの話を考えると,気付かれているようだな」


「……ばっかやろうがぁ!!」


 シャルル氏が叫ぶと同時にカトラ様は岩陰から飛び出していく。


「烈,散,砲,解!!」


「結局こうなるのかよぉおお~~~~~~!!」


 シャルル氏の悲痛な叫びは,カトラ様の一方的な銃声によってかき消されてしまった。




「さて!」


 ザン,と着地するカトラ様。その周囲には,何十という妖魔族が転がっていた。


「お,終わりましたか~~……?」


 ずっと岩陰に隠れていた私たちは,恐る恐る顔を出した。


「何か撤退するようなそぶりを見せていた。恐らく,何かしらの準備をしているのかもしれない」


「それって,要するにやばいってことじゃねぇのか!?何かとんでもない大技を仕掛けてくるとか……」


「だろうな。逆に言えば,ここで一網打尽にするチャンスが来たということ。恐らくこの向こうに大量の妖魔族の下っ端と,エボーラスの魔塔が一緒にあるはずだ。攻め入るぞ」


「はぁ……本当,嫌になっちまうぜ……わかったよ,行けばいいんだろう?」


 シャルル氏が溜息をつく。そうして私達は,エボーラスの魔塔のある火口湖のすぐそばにある岩陰まで移動した。


「……見つけた……アレが魔界の門だな……」


「禍々しい,とはまさにこのことですね……」


 火口湖の中心,上空数メートルのところに,巨大な漆黒の穴が出来ている。あれこそが,私たちの今回の目的……魔界の門だ。


 不気味な光を発し,その奥にも溶岩の渦巻くような空間が広がっているのが確認できた。アレが魔界の光景なのだろうか?


 しかし……問題なのは,その大きさだ。


「なんだ……?やけに大きいな。魔界の門自体は文献でしか見たことはないものの……聞いていたサイズと比べても目算だけで二回り以上はあるぞ……」


 シャルル氏の方を見ると,汗をにじませながら唾をのむ。


「俺は数回魔界の門を見たことはあるが……そのどれとも比較にならない大きさだ。それに……よく見てみろ。まだまだでかくなるみたいだぞ……」


 そう言われてはっと見ると,確かに肥大化している。


「恐らく,その原因が……あの塔,ということだな」


「えっ……つまり,あの装置は……魔界の門の,大きさを操作することが出来る……?」


「そんな装置聞いたことねえぞ……冥帝教,なんて凶悪なモノを作りやがる……」


 シャルル氏がそうつぶやいた時,門の周辺にいる妖魔族がざわざわと騒ぎ始める。


「HANROAER!!AITIH,AITIH!!」


 指導員らしき者の怒声が飛ぶ。支持をされたであろう者がエボーラスの魔塔に近づいて何かを操作する。


 直後,魔界の門が一層暗く光り始めた。


「なんだ,騒ぎ始めたぞ……」


「待ってください……魔界の門が輝きを増していますカトラ様!まさか,あの巨大な門から魔獣を呼び出すつもりでは……!」


「んな!冗談じゃねぇ!!あのサイズ,ゆうに数十メートルは越えてくるぞ!!」


「グォォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 大地を揺るがす咆哮が轟く。


 巨大な腕が門のふちにガッと手をかけ,巨大な竜の頭が姿を現した。


「んな……!?あ,あれは……本当にさっきまで倒していた奴らと同じ火竜属なのか……!?」


 その大きさは,先ほどのシャルル氏の言う通り数十メートルは越える大きさ。翼を広げるだけでも,火口湖全体を覆い隠さんばかりで,ズドォオンと着地したときの風圧だけで,岩陰にいる私達ですら飛ばされそうになる。


 その大まかな特徴は先日から出現していた火竜達とは変わらない。だが恐らく,長大な年月を生きたことで巨大に成長したであろうその個体のパワーは,彼らなど歯牙にもかけないような強力な個体なのだろう。


 私達がその強大さに息を飲んでいると,不意に今この場にはあり得ない声が聞こえてきた。


「おおお……!す,素晴らしい……!まさか,これほどのサイズの大火竜をも呼び出せるまで門を拡張させられるとは……!これが冥帝教の……サリエル様のお力……!!」


「……え……?ひ,人の声……?」


「何……?」


「っふふふ……これならきっと,どちらにしろだ!例の邪魔者たちを殲滅できようができまいが,コイツが絶命する時にはこの土地の怨恨は十分に溜まっているだろう!!」


 高らかに叫ぶその声は,明らかに人間の……それも,私達と同じメタヴィアス語だ。


「人間が,妖魔族を従えている……?それに,サリエル……教祖の名だろうか。詳しく聞く必要がありそうだな」


「というか,アレどうするんだよ!?あんな魔獣族,いくらアンタでも……」


「ほう?この崇高なるカトラ・フローリアの実力を,疑問に思うか?」


「い,いや,そういうわけじゃあねえけどよ……」


「二人とも,あまり大きな声でのお話はまた向こうに……」


「グォォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 再びの咆哮に,火口湖にいる者達も含め全員がすくみ上がる。ただ咆えるだけで周囲を破壊しかねない強大な竜……そんな存在に向かって,研究員は高らかに宣言した。


「っくくく……気合十分なようで嬉しいよ!!さあ行くのだ,焔煌竜(えんこうりゅう)リオル・グランディア!!岩壁の向こうにいるであろう,われらが計画の邪魔者どもを皆殺しにするのだ!!」


「か,カトラ様……!このままだと,見つかってしまいます!」


「さあ……どうかな」


「え……?」


「ケニー,今ならお前の言うことがよくわかるよ。この状況なら……黙ってみている方がいい」


 そうつぶやくカトラ様は,愉快そうに笑っていた。


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