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13発目 遭遇

「全く,あの程度の数,造作もないというのに」


「うるせぇ,アンタ一人なら問題ないかもしれねぇけど,今は3人いるんだよ。俺たちを危険にさらすんじゃねぇ」


「だから,その危険を私が殲滅しようという話だろう?」


「はぁ……なんにもわかってねぇな。今のアンタの行動は,普通なら危険にはならなかったんだよ。アイツが飛び去るまで隠れて待って,そこから補修すればよかったのに……あ~あ,あそこ結構広いエリアのはずなのに,火竜の群れでぎゅうぎゅうじゃねぇか」


 シャルル氏がため息をつく。岩陰から様子を見ると,5~6匹の火竜が一つの平地にひしめき合い,まるでそこだけ魔界のようだった。


「恐らく,周辺の火竜が一斉にやってきたな。寧ろ好都合のような気もするが……」


「はぁ?アンタ,ついに頭までおかしくなっちまったのか?元貴族令嬢だからって,何でもしていいわけじゃないからな?」


「嘘ではない。実際に披露して見せようか?」


「ああ?……どうかな。俺たちに全く被害を与えないっていうのなら,見てやっても構わないが……」


「そこは保証しよう。この崇高なるカトラ・フローリア,弱き者を危険にさらすような真似はしない」


「今さっきちょうどそれをやったところなんだがな……」


 呆れてため息をつくシャルル氏を尻目に,カトラ様は魔導陣を展開する。


「散……砲,烈……貫……集,破……」


 サークル型の魔導は,魔導陣と詠唱の2つの軸によって構成されている。


 カトラ様を含む多くの魔導士は,基盤となる回路を魔導陣によって,使用する魔導の情報を詠唱によって展開し,それを組み合わせることで発動する“複合型”を用いる。中には詠唱のみで魔導を放つ詠唱型や,詠唱を無くして魔導陣を描くのみで魔導を放つ陣型などがあるものの,一般的に効率が良いとされるのは複合型なのだそう。


「よし……」


 魔導陣が展開され,小さなブロックが形成される。それをカトラ様は,火竜達の集まる平地の空中に向かって全力で放り投げた。


「グルルルゥウ……?」


 火竜のうちの一匹がそれに気付き,こちらに目を向ける。


「おい,まずいぞ!気付かれ……」


「もう遅いさ」


 パン,と軽い音がして,ブロックに魔導機銃の衝撃が入る。


 その直後,


 ズドドドドドドドガガガガガガガガガガガガガン!!!


 大量の魔導弾が,豪雨などと言う言葉すら生ぬるい勢いで降り注ぐ。


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!?」


「きゃぁぁあああ!?」


 地震のような激しい振動が続き,あまりの轟音に火竜達の悲鳴すらもかき消してしまう。


「まだ少し足りないな……」


 殆どかき消され聞こえなかったものの,カトラ様がそのように呟く声が聞こえる。


 すると,若干落ちていた勢いが再び強まり,魔導弾の嵐が火竜達を貫いていく。


「さて……こんなものか。ほらお前たち,いつまで耳を塞いでいる」


「あたっ」


 どのくらいの時間が経っただろうか。ゴンっと頭に鈍い衝撃が入る。


「あ……終わりましたか……?」


「ああ。だいぶ派手に殲滅(せんめつ)したからな。もしかしたら,素材に使える個体は多くないかもしれん」


「……もう,いいぜ……今回は,火竜討伐が目的じゃあねえっての……」


 普段から飄々(ひょうひょう)としているシャルル氏ですら涙目になっている。未だに私の耳も若干聞こえづらく,痛いほどその気持ちがわかるというものだ。


 よく見ると,火竜の亡骸の下にうっすら見える平野の大地も,あまりの弾の威力に小さなクレーターだらけになっている。


「それはそうと,この狩りかた……思っていた以上に効率が良いかもしれないな」


「ぇえ……?この狩りかた,と仰いますと……?」


「当然,今みたいなやり方だ。周辺にいる火竜を蓋冠鳥(がいかんちょう)・バンバリオールの鳴き声で全員呼び寄せて,隠れた場所からそれらを一網打尽にする。非常に簡単で効率的な手法ではないか。この崇高なるカトラ・フローリアの力を以てすれば,この方が時間も魔力消費も少なく済む」


「つまりよぉ……アンタはこれから,火竜を倒すために毎回これをやろうってことか……?」


「勿論単体しかいないようならそいつを倒すさ。だが,数が多いのであればそうするほうがよい。そうだろう?」


「あぁ……まぁ,そうだなぁ……」


 最早反論する気も失せたのだろう,シャルル氏のため息には様々な感情がこもっているように感じられた。




「……さて。今の位置的に,直線距離であと半分ほどか」


「だなぁ……疲労感は予想以上だが……」


「私,少しばかり耳が遠くなってきた気がします……」


「あの程度の銃声で音を上げるとは情けないぞ二人とも。ほら,まだまだゴールではないぞ」


 ズカズカとカトラ様は歩みを進めていく。本当に疲れを知らないお方だ。


「は,はいぃ……ん?ちょっと待ってくださいカトラ様」


 何とか呻きながら顔を上げると,ふと,遠方に特徴的なものが見えた。


「どうしたミーア?」


「あれ……なんでしょう?」


「アレ……というと?」


「ほら,あそこ……」


 指を指す先をカトラ様とシャルル氏も見る。赤茶けた山の向こうに,何やら大きな,レーダー塔のような建造物が見えた。


「あれは……魔界の門があるとみている場所だな」


「ええ……何やら,人工物のような……」


「なるほど……閉じられない原因っていうのも,アレが影響していそうだな……」


「ああ。もしかすると,直接の原因になっているかもしれん。急ごうか」


「そうですね。目的が見えてくると,不思議とやる気が出てきます。行きましょう……!」


 気合を入れなおして立ち上がる。その瞬間,


「ミーア,回避しろ!!」


「え……?」


 突然の叫びに一瞬身体が固まる。直後,


ドガァアアン!!


「きゃぁああ!?」


 私のすぐ隣が唐突に爆発した。


 ズガガガガガン!


 カトラ様の銃声が遅れて聞こえてくる。派手な爆発音と共に,奇妙な音が聞こえてきた。


「NOUNNASIIHAKUDOSOSUBARDA……NENNKOREHODONONAADENOINNGITUZAIGAIRUTOKANIMOMHA……」


「え……何?声……?」


「人間の……いや,そもそも地上界に棲んでいる奴の声じゃあないな……」


「それって,つまり……」


「ああ……さっきまでの火竜達の,統率者に当たる立場の者の一体だろう……」


「OAKIHARAKIMYUDOKSNABAKUEITONNGASITOA……TIGATEITAOKOSIREHAOMAEGAINAMATIEIDADATOMITTAAMONOROUNA」


 理解不能の言語を話しながら,私達人間に似た姿の生き物が現れる。


 だが,似ているのは背格好のみ。


 黒い肌に,関節部には刺々しい突起が至るところに生えている。


 その光沢は肌よりも装甲に近く,顔面部も表情が読み取れるようなものではなかった。


「妖魔族……」


 彼らは,魔導生物5大区分のひとつにして,魔獣族と共に魔界に生息する種族。魔獣達の統率者とも言われ,一段上の存在とされている。


「NOKAKEIKUWAREWAREWYOUSYAHASINOSURUJAMAYOUDEAREBAAI……IMIKAESAUUGKUKHISA……OEWBRASIKAE」


「何言ってるのか全然わからねぇ……わかるように喋っちゃくれねぇか?」


「私たちの言語で話したところで向こうだって理解できんのは変わらん。話が通じなければ,とりあえず狩って進むしかないだろう」


「待ちなさイ。ちゃんと通訳になル者はいるのだカラ,早とちりデうちの者を始末しないデいただきタイ」


「だ,誰……!?」


 妖魔族の後ろから声がした後,暗がりからもう一人歩いてくる。


 その姿は,黒衣を纏った研究者のような出で立ち。漆黒の肌に変わりはないものの,地上界にいても違和感のない程度の姿をしていた。


「ようこソ,お邪魔蟲の皆様。私ノ名はエドメナ。冥帝教(めいていきょう)……といウ,この地上界でいう“宗教”というものニ属する,研究員でゴざいます……」

 

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