12発目 火山探索
「カトラ様~。引き払う準備,完了いたしました」
「ああ,ご苦労。こちらも処理は終わっている」
テントを出ると,火竜の亡骸を前にカトラ様は疲れた様子もなく銃を肩に乗せていた。
「あら……?この魔獣族,先日襲撃してきた火竜とは全然違いますね」
赤い鱗に黄土色の腹,頭部にある二本の角など,類似する特徴は見受けられるものの,肝心の翼がなく,その代わりのように1対の,帆のような背びれができている。また,四肢も太く頑健に発達しており,どちらかと言えばそのシルエットは狼などの獣に近い。
「こいつは……火竜属の中でも,地上での暮らしに適応した奴だな。飛ぶことをやめた代わりに,発達した背びれを使って体温の調節に役立てているって話だ」
「なるほど……同じ火竜の中でも,種によって形態がこうも違うのですね」
「この手の種は背びれが強靭に発達していることから,空を飛ぶ種の持つ翼膜の互換素材として優秀であると聞く。ケニー,お前にとっても僥倖ではないか」
「ああ,そうだな。ま,問題が解決した後に持ち帰れるようならぜひともだぜ」
「周囲に他の反応は?」
「今のところありません。恐らく,何かしらの理由で縄張りからはぐれて降りてきたのかもしれませんね」
「その可能性は高そうだな。先日の6匹といい,何かしら強力な個体がいて,縄張りを拡大しながら弱い個体を外に追いやっているのかもしれん」
「そんなことになってたとしたら,猶更早いうちに打ち取っておかないとな」
「ああ。追い出された個体が周辺地域に被害を及ぼしかねん。メルトロン以外の街のことも考えるとな……」
「はい。行きましょう,カトラ様」
テントを完全に片付けると,カトラ様を先頭に,私達3人は火山帯へと踏み込んでいった。
♢♢♢♢♢
「お,あれは……」
「どうしたケニー」
ほどなくして,シャルル氏が声を上げる。
彼の指さす方向には,人工物で補修された洞窟の入り口があった。
「あの門……グラマラス鉱石の鉱脈だ。魔子の反応が安定しやすい場所には,ああやって目印を兼ねて入り口を補強してあるんだよ」
魔具の素材となる魔導鉱石は,周囲の魔子の密度や反応性によって,発生したり消失したりする。そのことから,埋蔵量が非常に不安定で,政府や企業が大規模な採掘場を建造して管理することは非常に難しい。だが,そんな中でも安定して採れやすい場所というものは存在し,行商人や魔具装具士たちはこれらを称して“鉱脈”と呼称しているという。
「よっ……と。あ~あ,ひでぇもんだ。こりゃあ採掘に使うスポットとして再生するのは難しそうだなぁ……」
入り口を狭めている岩をどかして中を覗くと,瓦礫や燃え跡がいたるところに存在し,シャルル氏の言葉通り,ここで作業を行うことはできない様子だった。
「ったく,魔界の火竜どもめ……覚えてろよ。お嬢様が一匹残らず駆逐してやるからな」
「働きもしない者が偉そうに言うな。魔獣族一匹まともに狩れもしないくせに」
「ポンポン殲滅できるアンタがおかしいんだっての。俺は一般人だぜ?」
「まぁまぁ。カトラ様,解決後にこの地での採掘を再開しやすくするためにも,こうした鉱脈も我々の手で見つけてある程度の修復をしていくことを提案します」
「そうだな。門を閉じたところで,魔導鉱石が採れないままでは元も子もない」
「場所はある程度なら俺が覚えてるぜ。近くに来たら案内する」
「ああ,任せた」
そんなやり取りをしていると,不意にレーダーが警告音を鳴らし始める。
「来たか」
「はい,1匹……いえ,すぐに2匹目が現れました。同じ場所に留まって……いえ,これは……!」
ドドォン!と地響きが起きる。
その直後,そう遠くない場所で火竜の呻く声がした。
「縄張り争い,といったところか。全く,野蛮なことだ」
「危険度を考えると斃した方がいいと思うが……」
「グォォォオオオオオン……!」
地響きと共に,再び火竜の咆哮が聞こえる。先ほど私達を襲撃した個体と比較しても,あまりその声に覇気はなかった。
「一旦放っておこう。ばったり遭遇したとしても,ある程度弱ったところを狩った方がやりやすい」
「それもそうですね……少し迂回していきましょうか」
「それなら,向こうに一個鉱脈があるはずだ。迂回がてら,様子を見に行こうぜ」
「わかった,案内を頼む」
「任せな,こっちだ」
シャルル氏の案内のもと,北の方向に移動する。
鉱脈の付近に辿り着こうというとき,再びレーダーに反応があった。
「またか。本当に魔獣が多いな……」
「全くですね……ある程度数を減らしながら移動したほうがいいのかもしれません」
「おい,そんなことを言ってる場合じゃあなさそうだぜ……」
「え?どういうことですか,シャルルさん……?」
気になってシャルル氏の向いている方向を見ると……
バギ,バキ……ゴリゴリ,ガキン……
鉱物のこすれあうような不快な音が響いている。
その音源は,我々に背を向け,鉱脈に一心不乱に口を突っ込む魔獣族の姿。
火竜とはその骨格が違う。大きな翼や鱗などはなく,その代わりというように,鳥と同様の羽毛の生えた巨大な翼に,特徴的な長い管のようなトサカがある。
「鉱脈を……食べている……?」
「ああ,魔導鉱石を捕食する魔獣族だ……蓋冠鳥・バンバリオール。周囲の音を真似する能力がある」
「周囲の音を真似る……?」
「ギュォオン……?」
様子を観察していると,唐突にバンバリオールが食事をやめて首をもたげる。
周囲を見渡すようにぐるぐると首を回すと,唐突にこちらに振り向いた。
「やっべ,気付かれた……!」
「グェエ,グェエ,ガァァオオオオオオオオオン!!」
気付いたとたん,あからさまに敵意だとわかる咆哮をあげる。食事中だったために気が経っているのだろうか。
「仕方ない。狩るぞ」
「気をつけろ。さっきも言った通り,奴は他の音を真似る」
「ああ,わかっている……!」
そう言うとカトラ様はばっと飛び出していく
「あ,ちょ……!」
シャルル氏が手を伸ばす間もなく,カトラ様は引き金を引く。
ズドドドドォン!!
一瞬にして巨大な怪鳥は蜂の巣にされてしまった。
「ピョェェエエエエエエエエエ!!」
ドズン,と音を立てて崩れ落ちる。
「終わったぞ,二人とも」
一瞬で決めてしまえば警戒の必要もない,ということなのだろう。相変らずすさまじいお方だ。
「あ,あぁ……大丈夫なら,いいんだ……」
シャルル氏が溜息をつきながら出てくる。私も完全に警戒を解きかけた時,倒れたバンバリオールの首が少しだけ動いた。
「あ,カトラ様。まだ……」
「ォガァアアアアン!!ガァアアア,ガァアアア,ガァオオオオオン!!」
「ぁぐぅうう!!?な,何……!?」
鶏冠を激しく震わせ,強烈な鳴き声で空気を震わせる蓋冠鳥。先ほどまでの声とは比較にならない,まるで空気全体が振動しているかのような爆音に,思わず3人とも耳を塞いで怯んでしまった。
「ぅぐぅぅううう……!まずい,呼んでいやがる……!」
シャルル氏の顔が青ざめる。鳴き終わり,余韻が未だ耳にこびりつく中,
「グゥオオオオオオン!!」
遠くから火竜の咆哮が聞こえてきた。
「おいお前ら,急いでここから離れろ!!」
「どういうことだ,説明をしろケニー!」
「する前に銃ぶっぱなしたのはどっちだ馬鹿!今の鳴き声は,“招集鳴き”っつってな……周囲の魔獣族を呼び寄せる効果があるんだよ!!」
シャルル氏が叫ぶと同時に,レーダーの警告音が鳴る。
「カトラ様,まずいです……魔獣族の反応が,5,6……どんどん増えていきます!」
「いいだろう!すべてこの崇高なるカトラ・フローリアが殲滅して……」
「このっ……ちゃんと言うこと聞きやがれってんだ!」
カトラ様が立ち向かおうとしたところを,シャルル氏が脇に抱えて走る。
「わぅ……!?な,なんだケニー,私は問題ないぞ!」
「黙ってろ!勝手に飛び出して勝手に迷惑持ち込みやがって!」
「シャルルさん,あてはあるのですか?」
「あるって!ほらこっちだ,ついてこい!!」
シャルル氏が先陣を切る。それに続き,続々と火竜が迫る中,私たちは傍の洞窟に逃げ込んでいった。
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