11発目 現地へ到着,そして……
「ふぅ……やっと着いたぜ」
準備が完了した翌日の昼過ぎ。
鬱蒼とした森を抜けた先,私たちは赤茶けた砂利の転がる平地に訪れていた。
「ここが火山帯の入り口ですね。周囲に魔獣の反応もないので,ここにキャンプを立てましょうか」
「そうだな。ある程度視界も開けているから,魔獣が来ても対応には困らなさそうだ」
「ヒュー,頼もしいねぇ。流石崇高なるカトラ・フローリア様だ」
平野の隅の岩陰に魔具を設置し起動する。
パシュっと音がして,3人がある程度寝られる程度の広さのテントが出現した。
「拠点の設置,完了しました」
「ありがとうミーア。いったん休憩にしようか」
3人でテントに入ると,早速シャルル氏は床にごろんと寝転がる。
「くぁ~,やっぱり寝られるっていいねぇ。こんなちんけなテントの中ですら天国だぜ」
「朝から歩きっぱなしでしたからね。無理もございません。カトラ様はお疲れではございませんか?」
「問題ない。早速詳細な計画の確認に移るぞ」
疲労の片鱗すら見せていない。相変らずすごいお方だ。
「はぁ……しかたねぇな。ういしょっと……」
シャルル氏もやれやれとため息をついて胡坐をかくと,地図を広げた。
「まず,今俺たちがいるのがここだ。元々森林の末端だったようだが,いつかの噴火によって森を焼かれ,それをきっかけに平地に変わったらしい。」
「ふむ。それで,魔界の門が確認されている場所が……」
「ここだとされている。魔子の反応がここだけ特異な値を示しているとのことだ。エリア13……ココから軽い山を一つ越えて,火山の奥地に入る手前のところだ」
火山帯の全体を示した地図の中で,エリア13としてシャルル氏が示したのは中心から若干北西に移動したあたり。この場所は地図の中でも東端にあたるため,比較的長い距離を歩くことになりそうだ。
「改めてみると遠いですね……」
「ああ。恐らく,工房から今まで歩いてきた距離と同等くらいは移動しないといけないな」
「その間に,火竜だけではない,魔獣達の襲撃がある可能性がたかい,と」
「だな。もしかしたら,魔界の門に到着するまでにも2~3日はかかるかも」
「このような火山帯にそんなにも長い間……はぁ,気が滅入ります」
「それで,だ。門まで到着して,次の作業は閉門に向けた調査だな」
「はい」
私の右手には,英霊オネイロスより授かった魔導刻印が刻まれている。
何事もなければ,この紋章で門を閉じることは可能のはず。
だが,オネイロス曰く,外的な要因によって門が維持されているとのこと。
つまり,その要因を特定し解決が出来なければ,門を閉じることは出来ないことになる。その外的要因の調査が,恐らく今回の課題になるだろう。
「門の維持に関して,考えられる要因は,大きく分けて2つだ。」
シャルル氏は,いくつか魔具を取り出しながら話を進める。
「まず一つ目。これは,縁の発生。偶発的な要因によって,この土地と魔界の門の間に魔力的な繋がりが出来ちまってる場合だ。これが出来ていると,閉門自体が達成できても,1日と経たずに再び門が開いてしまう可能性がある」
「濫用を防ぐためにも,オネイロス様から授かった加護は1度使えば着えてしまいます。発生するたびに閉じ続けるということはできません」
「そう。だからまず,その魔力的な繋がりを切る必要がある。それがパターン1。そして二つ目。これはパターン1とも類似しているが,魔力場の発生によって,魔界の門が開くための魔力が常に発生しているような状況。こうなってくると,魔力場がポテンシャル型の魔導のような存在になっているため,そもそも魔界の門を閉じるという作業が失敗する」
「閉じようとしても,常に一定の大きさになるように開き続けるというわけだな」
「そう。逆に言えば,その魔力場事態を消滅させることが出来た場合,魔界の門は自然に消滅する。自然にできた門の閉門に失敗する場合,その多くがこの状態みたいだな。これがパターン2だ」
「そして……最後のパターン3が……」
「ああ。これが最も厄介……第三者が,意図的に門を展開し,閉じられないような細工を施した場合。そんな状況聞いたことはないが,一応不可能ではないらしいな」
「その場合,一般的な魔具による解決が出来ない……」
「逆に言えば……その首謀者を叩き伏せて無理やり閉門をさせる,ないしは閉門できるようにさせればいい。そういうことだな」
「ああ」
「ふん……寧ろ,最も簡単な手法とさえ言えるかもな。この崇高なるカトラ・フローリアの手にかかれば」
「っははは,かもしれねぇな……ま,俺たちはリアルファイトは専門外,そんときゃ頼むぜ,最強お嬢様」
「任せておけ」
「そうなると,パターン3に関してはいいとして,残りの2パターンについては」
「ああ,それぞれ対処法を用意してある。パターン1では,コイツを使う」
そう言うと,シャルル氏は刀状の魔具を取り出す。
「風属性の切除回路を組み込んだ刀だ。これを使えば,土地にできた縁を切除することが出来る。普段は土地に憑いた悪霊との縁を切って払いまがいのことをしたり,建物を建てたりするときに悪い縁を切って悪いことが起きないようにするためのものなんだが,それを利用するわけだ」
「なるほど……」
「それで,魔力場の解除に使うのがこっち。光属性の本質,浄化の効能を使った魔具だ。これによって,その場所に発生した異常な状態を正常に戻す作用がある。さっきの魔導との違いは,異常に対してクリティカルに作用する点だ。縁のようなニュートラルな関係性を解決することはできないんだが,悪霊や魔力場みたいなのを直接浄化したいときに使う」
「ふむ……結果的な効果は似通ってはいるが,役割によって明確な違いがあるわけだな」
「そういうこと。ったく,原因が特定し切れていないと全部持ち込まないといけないから面倒ったらありゃしねぇぜ」
「候補が絞れているのであれば,もう一度ここに来るような二度手間かける方が大変だろう。必要な労力だ」
「わーってるって。……それで?出発はどうする?」
「そうだな。お前たちがまだ休憩したいというのなら待つが……」
ある程度会議も終わり,カトラ様が立ち上がろうとしたその時。
ビー,ビー,ビー!と,警戒音が響く。
「なんだ?」
「これは……魔獣族の生体反応です!属性は火……恐らく,火竜では……」
「はぁ……全く,休ませてはくれないか」
「タイミングが良すぎるって……こりゃ,何かあることを疑っちまうなぁ」
「仕方ない。いったん出てくる。お前たちはテントを畳む準備をしろ」
「畏まりました,カトラ様」
カトラ様は銃を手に取り,その足でばっとテントを飛び出していった。
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