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9発目 新たなる就職先

「いやはや,昨晩は本当に助かりました。あなたのご主人様がいらっしゃらなければ一体どうなっていたことか……」


「いえいえ。カトラ様は,高潔なるお方。貴族として当然のことをしたまで……そう仰ることでしょう。寧ろ彼女なら,自分のような存在が率先してそうした討伐任務を請け負うべきである,ともお考えになるでしょうね」


 平身低頭で感謝の意を述べているのは,パレゾイック工房の工房長,マーロン・バージェス。


 浅黒い肌,小柄な身長に,豊かな口ひげを蓄えた初老の男性だ。


 その耳の形状は,妖精族に見られる先のとがった形質。浅黒い肌と低い背丈は,その中でも手先の器用さを特徴とし,職人気質な者が多いとされる“ドワーフ”の持つ形質。


 それでいて人間とも似通った容姿をしていることから,恐らく“混血種”……ドワーフの形質が色濃く出ていることからそちらが母親なのだろう,という点まで推測が出来た。


「いやはやまっこと猛々しく高潔なるお方だ。貴族として,上に立つ者としての責務……そのような立派な思想を持つ者など,どれほどの数いることやら」


「そうですね……地上界のような場所では,特に」


「ええ,ええ。……おっと,つい関係の無いことを話し込んでしまいました。報酬の件でしたね」


 はっとしたように顔を上げ,こちらへと言って奥の一室へ案内するバージェス工房長。


 その先にはなんと,山のように積まれた鱗に爪牙,竜角……あの火竜6匹分の素材だった。


「わぁ……凄い,こんなに採れたのですね……!」


「ええ,ええ。カトラ様がほとんど傷つけることなく狩りつくしてくださりました。特に値が張るとみられるのはこの7本確保いたしました火竜の角。こちらでも多少お磨きいたしまして,1本であなたさまがたのお泊りいただいているホテルですと5泊分の価値にはなるだろうと思われます」


「そ,そんなにも……!?改めて聞くと見事ですね……って,7本?火竜の数は6でしたよね」


「ええ,ええ。6対12本。この角は鱗や爪牙と比べて優秀な火属性魔導回路の素材でして,ビルケニアの方からカトラ様のご愛用されていらっしゃる魔導機銃の強化素材にしてはどうかと提案を受け,それに必要な5本は磨かず保持しております」


「そういうことでしたか。……ということは,それ以外の素材に使う分も差し引いて,それでも余った分がこれだけある,ということなのですね」


 素材として提示され,金額と言う数値に変換されると,改めてその価値が想像できた。助けてくれた恩だからすべて私たちに譲ると工房長は言っていたが,なんだか申し訳なくなってしまう。


「金銭はいくらあっても困るものではありませぬ。旅費の足しにでもしてくださいませ」


「わかりました。我々も安定した収入の無い身,ありがたく頂戴いたします」


「ええ,ええ。それがよろしい。それと,その収入については,多少なりこちらでも案がございます」


「案,と申しますと?」


「実は,今回のように魔界の門が開くことで生活が行き届かぬ,という工房は,ここだけでも,今回だけでもございませぬ。このメタヴィアス公国のみでも,いろんな工房で,いろんなときに発生する魔界の門に,出現する度四苦八苦しておるのでございます」


「それは,確かに……勿論,この国だけではないでしょうが」


「ええ,ええ。他の国家であるならば,国家全体としての警備隊なり国軍に任せるのがよいのでしょうが……あいにく貴族様方の権力が強いこの国では,自治権の弱化を恐れる彼らが圧力をかけるようで,市を跨いでの警備隊の要請が出来ませぬ。今回のように,支配している貴族が貴族だと……」


「なるほど……つまり,その役目を私達に担ってほしい……そういうことですね」


「ええ,ええ!その通りでございます。我ら魔具装具職人は協働と連携,何より全体としての技術の向上を目的として,首都ハイオワを中心にうちのような工房をいくつも設けている状態にございます。今回の件,魔界の門の閉鎖までこなしてくだされば,それを実績としてこちらの方から中央本部に掛け合うことができるでしょう」


「なるほど……それはありがたいことです。カトラ様にも確認を取りますが,彼女が頷いてくださるのならば,ぜひともお願いしたいですね」


「ええ,ええ。お任せくださいませ。詳細なことは解決後に交渉いたしますので,それまでは。最後にですが,爪や牙,角などはもう少し磨くことでとてもよい装飾品になることもございます。換金の前に,これは残しておきたい,火竜の素材で何か装飾品など身に付けたい,というような要望はございますか?このパレゾイック工房が請け負いますよ」


「そうですね……召使をしている以上華美な装飾は許可されておりません。カトラ様もそういったものをお好きではないので,すべて換金していただいて構いません」


「畏まりました。では,こちらの方でお手続きは行っておきますね」


「よろしくお願いします」


 工房長は一礼をし,早速換金作業に取り掛かってくれた。




「ほう……つまり,ここを含めた魔具装具士組合の,全国規模での用心棒,というわけか」


「ええ。危険な仕事ではございますが,恐らくその分収入も多く入ると思われます」


「私の収入は正直いい。魔具というのは市民の生活必需品であり,それを造る魔具装具組合は大切な存在だ。彼らを護ることは,ひいては国民の生活を護ることに繋がる。民の上に立つ者として,重要な責務の一つだ。」


「カトラ様ならそう仰ると思いました。それでは,喜んで引き受ける,ということで,工房長にもそのようにお伝えいたします。よろしいですか?」


「ああ,頼んだぞ,ミーア」


「ええ,お任せくださいませ」


 こうして,高潔なる元貴族令嬢,カトラ・フローリアの次の就職先は,魔具装具組合の用心棒……ということに,決定するのであった。


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