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採集活動、初バトル。

青い光が治まると、目に入って来たのはどこまでも広がる森だった。

空が高く青い、鳥の声が聞こえる、足場は大きな岩の上だろうか

傍にある木の葉を見るに広葉樹が多く分布しているらしく、ドングリの木に似ていた。

地形の見え方から察するに大きな山の中腹当たりに見える

強い風は無い、気温も少し肌寒い程度だ。


「(ここが外の世界…やはり情報のみと体感するのとでは違いますね! 何と鮮やかなのでしょう!!)」

ハコネさんも無事に移動できたようで、声がした方へ振り向くと

周辺の物を手当たり次第に触手で拾い上げ、毟ったりして

観察しては口の中に放り込んでいた。


「ちょ!? 何やってるの?! お腹壊すよ?」


「(いえいえ、御心配無く! こうやって鑑定と観察、そして味見を踏まえマスターに役立つ物を探しつつ、見分を広めているのです! それに私には耐性がありますので毒は効きません)」


「そ、そっか…ありがとね?」

趣味と実益を兼ねてる訳ですね。


「(辺りの物は粗方鑑定し終えましたね、目ぼしい物が幾つかありましたよ ゲフッ)」

ゲップする程食べたんかい…。

「こちらになります」とハコネさんの口から触手に巻かれた状態で

ニョロニョロと2つの草花と何か透明がかった石を差し出してきた。


「(ヒールミントとケアラベンダー、それと質は良くありませんが魔石です)」


「ハーブと魔石?」

ミントとラベンダーは言われてみれば元の世界で見知った物と似ている気がする

石もデパートの雑貨屋で売ってそうな感じだ。


「(この二つの植物は魔法薬の材料になるのです、魔法薬にするには特殊な加工が必要なのですが、食用にも適してます)」

「(魔石は特定の条件で魔力が結晶化した物になります、主に魔道具の作成や先程の魔法薬の加工に用いられますが、技術の無い我々には金品に変える以外使い道はありませんね)」


「魔道具、魔法薬かあ…いよいよ異世界って感じがしてきた」


「(おや、マスターの世界では魔法技術は普及していないのですか?)」


「普及と言うか、魔法自体が無いんだよね。代わりに魔力を使わない技術や道具が発達してるの」


「(魔法が無い? 興味深いですね。では一体何を動力にしているのでしょうか?どういった仕組み動かすのでしょう?)」


「動力…あー雷の力、かな? 小さな雷を人為的に作ってそれを動力にしてるって感じ、仕組みについては良く分からないな、私も誰かが作った物を買って使ってるだけだったし」


「(そうでしたか…詳しく学んでみたかったのですが、うーむ残念)」

声色が心底残念そうだ…。

うう、ごめんね…私が工業卒じゃないばっかりに…。


「ねえ、これスマホ、これは電気で動くものだよ、ホラ」

リュックからスマホを取り出し、動かして見せる

「おお! 板に描かれた絵を触って動かすのですね?! これが『電気』の力ですか…」

興味深々で「触らせてくれ」「この絵は何だ」「この文章はどういう意味だ」と矢継ぎ早に質問してきて大変だったので、動力を補給できないので長く動かす訳にはいかない事を説明して切り上げてもらった。

時間ができたら説明できるとこまで説明してあげたい。



「それで、今後の方針なんだけど」

スマホをリュックにしまいながらそう切り出した。


「とりあえず山を下りながら大きめの川を探そうと思って、飲み水の確保がまだ出来てないし、川にそって下れば人里が近くにあるかもしれないよ」


「(良い考えかと、道すがらに役立ちそうな物も採集しましょう)」


「じゃあ当面は川を目指しながら物資採集って事で、早速出発しよう!」


とは言ったものの、快調な滑り出しとは行かなかった。

手付かずの自然の森だ、道なんか勿論無く、生い茂る低木やツルに阻まれて思うように進めないのだ。

そこそこの厚着をしているが、毒虫や蛇がいる可能性を考えて確認しながら進んでいるのでこれがまた時間がかかる。

最初から居た場所から50メートルも進めていないように感じた。

「きついなあ…」

無事に脱出できるか不安になり始め、愚痴が零れた所に


「(マスター。私が前を進んで、マスターが通りやすいようにしてみましょうか?)」

ここまで私の後ろを着いてきていたハコネさんがそう提案してきた。

あまりの進みの遅さに焦れて呆れたのか、見かねたのか。

「はぁ…お願いします…」

私自身もウンザリしてきたので、頼んでみる事にした。


ハコネさんはその巨体と重量で藪を無理やり押し広げながら、何本もの触手を鞭のように振るい進路の枝やツタを次々薙ぎ払い始めた。

バキバキバリバリと凄まじい音を立て、見る見る内にハコネさんの通った後が巨大な獣道になっていく、まるで巨大な芝刈り機のようだ。

そんな中でも採集は怠っていないようで、枝を払う触手の中、何かしら拾い上げては口の中に収めている触手が何本か混ざっていた。


そうして暫く進んでいるとハコネさんが突然声をあげた。

「(あ、マスター!見て下さい!マスターの懸念の通り居ましたよ、ほら、毒蛇です)」

そういって私に捕まえた蛇を見せてきた。

濃い茶色に赤黒い斑点のある、いかにも毒蛇といった毒々しい配色の蛇だ。

毒蛇は牙を剥いて威嚇していたが、ハコネさんが頭と体の半分をがっちりと固めているので無駄な抵抗だった。

ハコネさんは触手で器用に蛇の首をポキリと捻って締め、口の中に放り込んだ。

一瞬ギョッとしたが、祖父がネズミ捕りにかかったネズミを事も無げに叩き殺して捨てていたのを思い出して、まぁこの状況で騒ぐ事でもないかと一人で納得した。


「毒蛇も取って置くの?」


「(ええ、毒が毒矢や魔法薬の原料として使われているようですし、肉も食用になりますよ)」


「そうなんだ、今のとこ貴重なお肉だし、晩御飯に焼いて半分こしようか」

女性として嫌がるべきなのだろうが、そういえば昔から「食べられる」と保証されてさえいればゲテモノと呼ばれる物に対してそう忌避感は持たない性格だったな、旅行先で友達が気味悪がる中、蜂の子やら海蛇を率先して食べていた事を思い出した。


「(おお、焼いた物を食べるのは初めてです!)」

そっか‟料理”も初めてなんだ、こりゃ責任重大だなと思った。


「でもハコネさん、生き物を仕留める時は一声欲しいかな、まだ慣れてないから驚いちゃうんだ」


「(驚かせてしまいましたか、では今後からそうしましょう)」



「ハコネさん、あそこ、何か生ってない?」

また移動を再開して進む中、ふと横を見ると離れた距離に少し開けた場所があり、そこの茂みの一つに赤く小さな何かが多数付いているのが見えた。


「(何でしょうか?確認しに行きましょう)」


取るに足らない事だと思って話かけたが、好奇心旺盛なハコネさんは放って置かなかった

その場で方向転換し、茂みに向かって進んで行く。

目前まで近付き、一つもいで口の中に入れる。


「(フェアリーローズですね、生息できる環境が限られている珍しい植物です、美しい花を咲かせるそうですが、赤い実の状態も良いものですね)」


「うん、ホントに綺麗…え、バラの実?ローズヒップだよね、食べれるかな? ひょっとしてコレも魔法薬の材料になったり?」


バラらしい棘の付いた茎と葉、そこまで大きくはない茂みに知っている生のローズヒップより数段濃く、若干の透明感を帯びた赤色の実がたわわに実っている。


「(ええ、お察しの通り食用は勿論、魔法薬の材料として混ぜると効果を高める作用があります。中々高値で取引されるとか、運が良いですね、摘んでいきましょう)」


「高価なんだ?いいね、摘もう摘もう」

我ながら風情もへったくれも無いなとは思ったが、人里に入ってすぐ仕事にありつけるとは限らないし、現金を作れる手段を増やしておくのは間違いではないだろう、うん。


フェアリーローズの実を摘み終わり、丁度開けている場所だったので少し休憩する事にした。

地べたを座ると服が濡れるとハコネさんから自分の蓋の上に座るよう促されたので、甘える事にした。


「中々見つからないね、川、それでも下っていくしかないんだけど」


「(そうですね、今の所は闇雲でも進む他は…そういえばマスター、[探知]は使っていますか?」


「! ごめん、忘れてた…」

ハコネさんと一緒に行動している安心感で完全に失念していた、ここは外だ()()()()()()()

タダでさえ手付かずの森だ、本来ならいつ出くわしてしまってもおかしくは無かったんだ。

自分の迂闊さに嫌になる。

慌てて[探知(魔)]で周囲を探る。

近くに居るひと際大きいのが…ハコネさんか、感知できる範囲でハコネさんの次に大きいのと、中くらいのが幾つか、小さいのは…結構いるな…。

…位置関係を見ているとふと気づいた事があった


「なんか…私たちの周り、妙に魔物が居ないような…」


「(私が大きな音を出して移動しているからでは?)」

なるほど。

格上の生き物が移動している事が分かれば、それより弱い生き物はそこから離れようとするだろうな。


「そっか、安全に過ごせてるのはハコネさんのおかげなんだね」


「(いえいえ、大したことはしてませんよ)」

とは言いつつも誇らしげだ。


「(マスター、魔物の種類は分かりますか?)」


「ん、やってみるよ」

探知した気配に[鑑定(魔)]をかけてみる。

―――――――――――――――――――――――――――――――

アシッドスネイル×2

 脅威度:低


ホーンラビット×4

 脅威度:低


ビッグホースフライ×5

 脅威度:低


ブッシュスライム×26

 脅威度:低


コレクタースクィール×1

 脅威度:低


アローバード×6

 脅威度:中


ベノムグリズリー×1

 脅威度:高


ブッシュキャタピラー×6

 脅威度:低


アシッドスラッグ×1

 脅威度:中


ポイズンリーチ×8

 脅威度:中


ブラックホーンディア―×3

 脅威度:高

――――――――――――――――――――――――――――

どうやら探知と鑑定の範囲に複数の魔物が居ると見え方が変わるらしい。


とりあえず感知した結果をハコネさんに伝える。


「(ふむ、お聞きした魔物の種類と数から推測するに、ここいらの魔物程度なら物の数ではありませんね、襲ってきても直に片付けられます、どうぞご安心を)」


「おおー頼もしい」


「(いやーそれ程でも…それよりもマスター、どうでしょう? 倒せそうな魔物を見つけて腕試しでもしませんか?)」

う、やっぱりきた…。

絶対持ち掛けられると思ってた…。


「(大丈夫ですよ、村人が自力で駆除できるような魔物が殆どですし、危ないと思ったらフォローに入りますよ、どうですか? 今後の事も考えると魔物との戦いも経験しませんと、ね、やりましょうよ!)」


「ええ…怖いな…」

ハコネさんが補助に入ってくれるのなら命の危険は無いだろうが、手が出る喧嘩もした事も無いし

そもそも生き物の命を奪う経験もせいぜい蟹を生きたまま茹でた程度だ。

でもハコネさんの言う事も最もだと納得している自分もいる。

いざとなったら自分で自分の身を守らなければならない、躊躇しては危険な場面もあるだろう

うーーーーーーーーーーん。


「よおし!わかった、やるよ!」

ここまで来たからには、腹を括るしかない。

何でも経験して身に着けた方が生き延びられるだろう。


「(やった! …いえ。では早速魔物を探しましょう!)」

…随分と嬉しそうだ。


「じゃあどれから行こうか?」


「(そうですね…名前の出た魔物の中ならアシッドスネイルが良いと思いますよ、大きなカタツムリなのですが殻が固いわけでもなく、勿論動きも遅いです、酸こそ飛ばしてきますが飛距離はありませんし)」


「酸?!」


「(マスターのステータスなら大丈夫ですよ、試しにどれだけ弱いか鑑定してみては?)」


「そう…? じゃあ」

とりあえず、更に鑑定…。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アシッドスネイル

一抱え程の巨大なカタツムリ。

危険を感じると強酸性の体液を分泌して撒き散らす。

大量に発生すると周囲の植物を食い荒らし、駆除の際に環境を汚染するため注意が必要。


 年齢:8ヵ月

 性別:両性

 体力:9

 魔力:2

 筋力:5

 敏捷:1

 耐久:10

 知力:1

 精神力:1

 幸運:1


 -種族特性-

 [酸液生成]


 -固有スキル-

 [打撃耐性.E]

 -獲得スキル-

 なし

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

お、弱い?

これなら私でもイケる…か?


「大丈夫そう…かも」


「(そうでしょうそうでしょう!では早速行きましょう!)」

ホント嬉しそうだなこの人?…


「(では、その前に)」

ハコネさんが口から長めの木の丸太を取り出す

「(これをこうして…)」

丸太をガリガリとこそぎ落すように自分の歯で削りだした!?


「あの、なにをしてらっしゃるの…?」


「(マスターの武器を拵えているのです、腰のナイフ一本では心許ないと思いまして、リーチの長い武器をと)」

そういって、あっと言う間にずんぐりとしたバット状に削り上げると

「(後はこれを…)」

口から棘の生えた蔓を取り出してくるくるとバットに巻いていく…。

「できましたよ!急拵えになりますが、お手製の棍棒です!」


「(どうぞ!)」と誇らしげに私に差し出してきたので受け取ってみる

ずしりと重量を感じた、が、振り回せない事もない。

とは言え粗削りな表面に巻かれた棘付の蔓がまた凶悪だ。


「わ…わぁ~ありがとう、器用なんだね」


「これならナイフで切りかかるよりも間合いをとって戦えるかと、尖らせた槍も考えたのですが、こう障害物の多い環境では難しいと思いまして」

考えてくれていたんだな、少し引いた自分が情けなくなる。

そして何だか途端に棍棒が愛おしく感じてくる。


「本当にありがとうハコネさん、大事に使うね」

抱き締めたいけど棘があって無理だ。


「(いえいえ!存分に使い潰して沢山魔物を斃して下さい!丸太と蔓ならいくらでも在庫がありますし)」

あー…もう次を考えてる口ぶりだな…。


改めて標的を定め、それに向かって歩みを進める

カタツムリなだけあってハコネさんの移動速度に逃げ切れず、あっと言う間に追いついてしまった。


「いた…あそこの倒木の影、うわやっぱデカいなぁ…どうする?」

僅か10メートルと言った所に標的のアシッドスネイルを確認した。

本当にタライぐらい大きい…緑色の地にくすんだピンク色の殻、派手だな。

ハコネさんの気配に警戒してか殻に籠っている

身の部分は見えない。


「(私にも視認できました。触手の射程まで近付いて引き摺り出します、手加減せず思い切り殻を割って下さい、ヒビだけでも構いません、そうしたら中身が焦って出てくるので、そこに間髪いれず中身を叩き潰すのです、出来そうですか?)」 


「ちょっと待って…。 ふぅー、はー…良し!いいよ!やって!!」

深呼吸をして身構え合図を送る。


「(では!)」

ハコネさんが一気に距離を詰め、触手を伸ばす

アシッドスネイル巻き取られ、私の傍に叩きつけられる。


「(今です!)」


「ん゛ん゛っ!!!」

くぐもった掛け声をあげながら思い切り棍棒を振り下ろす

メギッという音と感触と共に棍棒の先端が殻にめり込む

もう一度振りかぶって振り下ろす、別の個所にめり込んだ。

更にもう一度振りかぶると、ハコネさんが言った通りに中身の青紫色の実がのろのろと這い出してきた。

振りかぶったまま少し待つと、頭と思わしき部分が完全に露出したので、それ目掛けて振り下ろした。

ビチャッという水気のある音をたて、アシッドスネイルは次第に動かなくなった。


「(やりましたね!マスター!)」


「ぶはっ!はぁっはぁーは―…ふー」

ずっと息を止めながら殴ってしまっていた


「(マスター? 大丈夫ですか?)」

ハコネさんが少し心配そうだ…。


「大丈夫、初めて魔物倒して緊張しちゃったみたい」

考えてみたらやたら大きい巻貝ってだけだ、沖縄で刺身にした夜光貝やシャコ貝とあまり変わらない。


「よーし!アシッドスネイル、獲ったどー!」

ちょっと空元気だけれど、大きな声で自分を鼓舞した。


「(その意気ですよマスター! では責任をもってこのアシッドスネイルはお預かりさせて頂きますね!)」

ハコネさんがアシッドスネイルの死体を口に収める。


「アシッドスネイルってどこをどう使うの?食べられる?」


「(アシッドスネイルは残念ながら食用には向きません、ですが体液はある種の汚れ落としに、殻は腐食に耐性のある塗料として用いられます)」


「そっか、壺焼きかなって思ってたんだけど、残念」

間髪入れずに壺焼きとは何だと質問が飛んできたが、今回は適当に説明できた

海に行く機会があったら一緒にやってみようという事でその場は納まった。

真由子もやるときゃ殺ります。

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