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準備完了、外へ。

 「それで…、色々と教えて欲しい事が色々あるんですが」


 「(はい、何なりと。私が知っている範囲までになりますけれど)」


 「ここどこですか? 出口はあるんですか?」


 「(ここは奥深い地中、何方かがあるアイテムを守る為に私に持たせ封じた、言わば隠し迷宮(ダンジョン)ではないかと。)」


 「隠し迷宮(ダンジョン)…ですか?ほぼ一本道でしたけど」


 「(ああ、ここは最深部。数ある謎かけやら罠を抜けた先にある最終地点なのです、熟練の冒険者パーティーでも到達する事は難しいでしょうね。)」


 「ええ…ちゃんと脱出できるかな…途中で力尽きそう…」


 「(出口に関しては心配無く、私が守るアイテムの所有権を貴方に譲渡すれば脱出の為の魔法円が現れます、それに入れば地上に出られますよ…じゃあ早速アイテムお渡しして外に出ましょうか?)」


 「ちゃんと出られるんですね?! あ~良かった…。でも外に出る前にお互いにスキルとかの確認をしませんか? 外は物騒みたいだし、長い付き合いになるんですから、出来る事と出来ない事を把握しておきましょうよ」


 「(成程、おっしゃる通りですね。私、気が早ってしまっているようです、お恥ずかしい)」


 「初めて外に出るんでしょ?当然ですよ。じゃあとりあえず私から…」

 自分のステータスとスキルの画面を出してハコネさんに見えるように回り込み、見えるかどうか確認する。


 「(ええ、見えます。マスターは料理上手なのですね、素晴らしい腕前の様子)」


 「いやあそんな、うへへ…。凝ったものはそんなに知らないけど、無難な味付けで大量につくるのは自信あります…でへ」

 思いがけず褒められ、気持ちの悪い笑い方になってしまった。


 「(ふむ、その他のスキルはかなり魔物使いに寄ってますね、かなり高水準の様子)」


 「やっぱりそうなんですね、実感が無かったもので…」


 「おや、今まで使った事が無いと? それはまた…そういえばこのダンジョンに関しても妙な口ぶりだったような?」


 「あー……そのですね、事情がありまして、口外はなるべくしないで欲しいんですけど…」

 命を預けるハコネさんに隠していてもしょうがないと思い、話してしまうことにした。

 自分はこの世界の人間ではない事、この世界の常識は何も知らない事、なるべく話せる所を正直に…。



 「(ふーむ、異なる世界から来た方でしたか、どうりで…。事情は理解しました、いきなり連れてこられて大変だったでしょう…私もマスターの最初の従魔として頑張りますので、安心して下さい!)」


 「…心強いです…ありがとう」

 労われたのが嬉しくて、何だか少しだけ泣けてしまった。


 ―…暫く私のスキルについて相談した後にハコネさんのスキルの話題になった。


 「ねえハコネさん、耐性スキルのは何となく分かるんだけど、この[アイテム吸収]とか[擬態]とかってどういうスキルなの?[鑑定]も持ってるみたいだけど私のと違うみたい」


 「おや?私のスキルはマスターの[鑑定(魔)]で調べる事ができるのでは?」


 「え、そう?そういえば気付かなかったな…やってみるね」

 ハコネさんの鑑定画面に触れてスキルの項目をなぞってみると、自分の物と同様に開示することができた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 -種族特性-

 [アイテムボックス]

 取得したアイテムを無尽蔵に保管できる能力。

 アイテムボックスの保管された物は時間経過による影響を受けない。

 動物は収納できない。


 -固有スキル-

 [物理耐性.A]

 物理攻撃によるダメージに対する耐性。

 被ダメージの95%を軽減する。


 [魔法耐性.A]

 魔法攻撃によるダメージに対する耐性。

 被ダメージの95%を軽減する。


 [弱体耐性.A]

 毒、魅了、混乱、麻痺、幻覚、呪い、石化、眠り状態に対する耐性。

 抵抗率99.5%


 [即死無効]

 即死効果を無効化する。


 [アイテム吸収]

 有機物無機物問わず生命を持たない物を吸収し、自らの体力と魔力の回復を行う。


 [鑑定.A]

 あらゆる物品の詳細を得る事ができる。

 情報量、精度はランク依存。


 [擬態.A]

 自身の体積、重量を無視してあらゆる物品、生物に化ける事ができる。

 物理的に言葉を発する事、自力で移動する事ができなくなる。


 [触手.B]

 紐状の捕獲器。

 触覚、味覚、聴覚をそれぞれ備えている物がある。

 本数、長さ、動きの精密性はランク依存。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「うわー、便利なスキル揃いですね」


 「(そうでしょうそうでしょう、何と言っても私はミミックの最上位種ですから!)」

 とても得意げに笑っているのを感じる、顔が無いけど何となく分かるような気がする…。


 「ハコネさんの[鑑定]は私みたいな限定的じゃなく、オールマイティーな感じなのかな? 」


 「(はい、大抵の品の情報はお伝えできるかと、お役に立ちますよ!)」

 凄いな、本当に助かる。サバイバルに打ってつけのスキルばかりだ、ハコネさんと会えて本当によかった。


 「この[擬態]は?」


 「(実際に見てみますか?)」

 「見てみたい」という言葉も言い切らない内に、ハコネさんの姿が逆再生したように渦巻いて縮んでい くと、一瞬でそこに首飾りが出来上がっていた。

 「(いかがですか?我ながら良い感じに化けられたと思うのですが)」


 「わ、凄い。好きなデザイン」

 シンプルな銀色の小さく丸いロケットに、控えめな青いストーンがあしらってある上品な、身に着けたいと思わせるデザインだった。

 「メタモル・ミミックが主に持ってるスキルなのです、こうやって剥き出しの貴重品に化けて獲物を襲うのですよ、マスターも気を付けて下さいね、場違いに高価そうな物が落ちていたら警戒を忘れずに」


 「そうなの? 怖っ」

 そうなのか、異世界といえど落ちてる物をホイホイ拾うのは良くないって事かな。



 「(これで粗方の確認は終わりましたね、それでは今度こそアイテムの譲渡といきましょうか)」


 「は、はい、下さい」

 いよいよか、何だかドキドキしてしまう。


 「(私が守りし秘宝『国生みの大宝杖』、私の主たる貴方に今こそ委ねましょう)」

 ハコネさんの蓋(口?)がゆっくりと開いていく、完全に開いたかと思うと、ゆっくりと中から何かが姿を現していく。


 煌びやかな宝飾が施され、華美で荘厳な…なんともけばけばしい杖だった。

 90年代のCL■MPがテイ●ズのアイテムをデザインしたらこうなりそうな感じと言うか…

 小学校の校長室の傍で展示されていた何かの部活のトロフィーを何故か思い出してしまうような。


 「(さあその手に、どうぞ)」


 「う、うん」

 手にとってみると不思議と重くは無かった、金属のようで石のような

 それでいて木を思わせる不思議な手触りで、手にぴったりと馴染む感覚。

 何とも言えない高揚感、万能感が湧いてくる気がする…。


 「えと、何て言いましたっけコレ?」


 「(『国生みの大宝杖』ですよマスター。えーと私の[鑑定]によると)」

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『国生みの大宝杖』

 世界創成に携わった原初の女神の力の一端が宿った杖。

 水面に穂先を浸すと水底を隆起させ島を作り出す事ができる。

 本来の力を開放すれば大陸を作り出し、大地に属する物を自在に創り出す事も可能。

 所有者に地属性魔法適正+9、水属性魔法適正+4、火属性魔法適正+4

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「(だそうですが)」


 「大陸…創り出す…」


 「ごめん、ハコネさん、コレやっぱりハコネさんが預かってて貰ってもいい?」

 あまりの規模の大きさに一瞬理解が追い付かなかった

 兎にも角にも私が持つには余りにも大それた力だ、核弾頭でも持たされた気分だ。

 土地を無限に拡張できる、資源だって、気象兵器にも応用できそうだ。

 国生みって日本神話?!大系メチャクチャじゃない?

 どこかしらの偉い人に知られればどんな目に合うか分かった物ではないだろう。

 何よりあの持った時の不思議な万能感、小市民に過ぎない私が持ち続けるのは危険な気がする。


 「(おや、そうですか?様になってましたのに…)」 


 「え、そう?似合ってた?えへへ…じゃなくて! 私が剥き出しで持ち歩くよりは、私よりも強くて頑丈なハコネさんが完全に隠してしまった方が安全だと思うんですよね」

 唐突に褒められるとすぐ照れるの直したいな。


 「(うーん、まあ所有権自体はマスターが有してますし、装備していなくても適正補正はそのままですし、問題は無いですね)」


「じゃあお願いします」と杖をハコネさんの口に再び納め直す為に覗きこむと、中は真っ暗で何も見えないくらいの深い穴のようになっていた。


 「うわ! ハコネさんの口?すごいね!底が見えないよ」


 「(マスターにはそう見えているんですか?これは私が[アイテムボックス]を使用している状態なのですが、底の無い穴ですか…成程)」


 「はー…凄いですね、じゃあ入れちゃいますね?」

「どうぞ」と言う返事と共に中に収めてみる、途中までゆっくりと降下していくと、静かに闇に掻き消えてしまった。


 「おお~、あ、じゃあスキル使ってないとどんな感じなんですか?」

 「(見てみますか?)」

 言うや否や箱の中が一瞬で「口の中」に切り替わった。

 生物特有の生暖かい吐息、内側全体を覆うピンク色の粘膜と歯茎

 歯茎から生えたギザ付きスプーンのような大きな歯、抱き枕のような大きさの舌が並んでいた。


 「お゛っ!わあぁー!!!」

 叫んで思わず飛び退こうと尻餅を突いてしまった

 尻をさすりながらすぐに大声で叫んだ事を謝った。

 汚らしい音で叫んでしまった…恥ずかしい。


 「(驚かせてしまいましたか、申し訳ありません)」

 心なしか落ち込んだ声色だ。


 「いえいえ! 私が勝手に驚いたんです、変な声出してごめんなさい! うん!ハコネさんが生き物だってちゃんと理解できた感じがします!」



 そうこうしてる内に、私たちの背後に大きな魔法円が出現している事に気付いた。

 先ほどの契約の時の魔法円と模様が違っていて、色も深い青色に光っていた。


 「ハコネさん、コレが?」


 「(ええ、転送用の魔法円です、これで何時でも地上に脱出できますよ!)」

 ここまで来るとハコネさんの興奮がありありと分かる。


 「そういえばハコネさん、移動できるんですか?さっきみたいに変身して私が持って出ましょうか?」


 「いえいえ、ご心配無く、この[触手]でこのように」

「よいしょ」と言うや否や箱の底から複数の触手が這い出し、器用にハコネさんの体を持ち上げ、カサカサと見た目からは似つかわしくない機敏さで歩いてみせている

 嫌いな人が見たら卒倒する絵面だなと思った、私もちょっと引いた。


 「(おや? この歩き方は気に入りませんか? ではこういった感じでは?)」

 私の反応を見て今度は触手を器用に束ねて、のしのしと()()()()を始めてみせた。


 「あー…成程」

 さっきの蜘蛛か蟹めいた動きよりもホラー感は無いが、シュールな不気味さが増したような気がする…。

 「うーん?、普段はそれで構わないけど…人の目がある所では首飾りになって貰おうかな? やっぱりハコネさん目立つし、目立つとトラブルの元だから」


 「(そうですか…この足?人里を散策してみたかったのですが、しょうがありませんね)」


 「ごめんね、じゃあ…あ、ごめん!最後に私が居た部屋に着いて行って貰ってもいいかな?」


 「(ええ勿論、どういった御用で?)」


 「ハコネさんの[アイテムボックス]で、私と一緒に移ってきた食料品を回収して貰おうと思って、外で食べ物がすぐ手に入るとも限らないし」


 「(! 成程!それは大事ですね、行きましょう行きましょう)」

 ハコネさんが興奮気味なのは何でだろうか…。



 ―…通路はハコネさんには少し狭かったようだ。

 体を縦にして触手で蟹のように歩いている。


 「着いた、ここだよ」

 暫くして目的の部屋までたどり着き、引き戸を開けて先に入る

 「どう? 入れそうかな?」


 「(ふむ、この大きさの戸なら問題ありません)」

 車の駐車のような動きで、器用に戸から部屋へ体を滑りこませた。


「お~凄い、器用なんだね」


 「(いえいえ、これくらい何でもないですよ)」

 私は似たようなシチュエーションで電信柱に引っ掛けた事があるけど…。


 「ああ、あったあった、コレだよ」


 私がこちらに転移してきた時に巻き込まれたコンビニの棚。

 チョコレート菓子とおつまみ系の棚で、裏は日用消耗品と菓子パンの棚だ。


 「(コレが…)」

 ハコネさんが素早くカサカサと近寄ると食い入るように眺めていた。


 「どう?ハコネさん、全部収まりそう?」

 流石に多いかと思って聞いてみると。


 「(全く問題ありません! この棚程度いくらでも収まりますよ!)」

 かなりテンションが高くなっているようだ。


 「そうなんだ、アイテムボックスって沢山入るんだね。早速お願いしようかな」


 「(喜んで!)」

 了承した声をあげると同時に口から10本程の触手を出し、品を触手に取って口の中へ納めていく。

 私も手伝っていると、ハコネさんが品を納める時に時間としてほんの一瞬ではあるが

 くるりと眺めてから収めている事に気付いた。


 「やっぱり珍しい?」


 「(! ええ、とても興味深いです、本来ならこの世界では絶対に見て触れる事は出来ない品々ですし、面白いです。マスターと出会えて本当に良かった…)」


 「!? そっか…じゃあ後でチョコレート、一緒に食べよう」

 ハコネさんはこちらが照れるような事を臆面もなく言えるから凄いな、人間じゃない強みだろうか…。


 「(『チョコレート』ですか…楽しみです!頑張りますよ!)」

 それから十数分程かけて全て収めてしまい、棚自体と手紙が入っていた箱まで収納してしまった。

 一息ついて取って置いた板チョコを半分こして食べた。


 ああ、甘さが染みる。ハコネさんとの初遭遇とスキルのアレそれで少し疲れていたようだ。

 「これは…油分の多い種子を砂糖と合わせて固めた物ですね、優しく強い甘さが口の中で溶ける感覚…美味しいです!」


 「気に入った?」


 「(はい、とても!)


 「よかった~外で安定して食料が手に入るようになったらまた一緒に食べようよ」


 「これからも戴けるのですか?! 外での食料確保も頑張りますよ!」

 興奮冷めやらぬといった口調だ、こう素直に喜ばれるとこちらも嬉しくなる。


 「頼りにしてますよ、ハコネさん」


 広間に戻る際、もののついでだという事で道すがら白い松明も片っ端から回収していった。

 ハコネさん曰く

 「(この松明は特殊な代物でして、破壊されない限り永久的に大気中のごく少量の魔力で倍以上の光と熱を生み出し続けるのです。国生みの大宝杖とでは比べ物になりませんが、れっきとした神代遺物(アーティファクト)です。『悠久の灯』と言うそうです)」


 「結構大層な代物だったんだね、殆ど永久機関じゃん…最初に部屋出てくる時に一本くすねちゃってた…。それで、アーティファクトって?」


 「(神代遺物(アーティファクト)とは世界創世の初期、神々がまだ地上に存在した頃に作られた物品の事です。人類の間ではかつて栄え滅びた文明の遺物の事もそう言うそうですが、それだとしても数が少なく貴重な品だそうですが)」


 「技術的にも歴史的にも大事な物って事かあ、粗末にしないようにしよう」



 ―…広間まで戻ると、ハコネさんと一緒に魔法円の傍まで近付く

 ここで出来る事は全てやり尽くしたと思う、あとはこの魔法円で外に出るだけだ。


 「準備は万端だね、あードキドキする」


 「(心配はご無用です、このハコネがお守りしますとも!)」


 「そうだねハコネさん。頼りにしてるよ、じゃあ…一緒に行こう!」


 「(ええ、お任せください!)」


 一緒に魔法円に踏み入ると、ハコネさんとの契約の時のように、青い光が眩く光った。

外での活動のはじまりはじまり。

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