【短編】生きた状態でも放り込めるアイテムボックスを貰ったけど、気がついたらとんでもないことになっていました……
ここは、どこにでもあるような村。
都市から離れた場所にある極々普通の小さな村。
そんな村は今、壊滅の危機を迎えていましたとさ。
「「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
2つの首を持つ狼型魔獣――オルトロス。
3つ首のケルベロスより下の脅威度とはいえ、力の無い村人にとっては“死”が間近に迫ってることには変わりない。
「な、何でこんなところにこんな魔獣が!?」
「そんなことどうでもいい! 早く逃げるんだ!」
「くっ! 何十年も住んでたオラたちの村が!」
村人たちは必死に逃げ回ってた。
家畜が食われている僅かな隙に遠くへと。
だけど、そうやってすぐに逃げることができるのは足腰に不安のない世代だけだ。年配の方はどうなってしまうかといえば――
「ばあちゃん! 早く立って!」
「ゴメンね。足さ挫いちまった。……ワシのことはいいからオマエは逃げぇ」
「やだあああああああああああああっ!!」
こうなるわな。
普段はお年寄りに優しい村人だって今は生きるか死ぬかの緊急事態だ。気付かない人だっているし、仮に気付いても助けてる間に魔獣に食われましたじゃ話にならない。
結果として見捨てられる。それがこの世界でありふれた悲劇だ。
「「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!」」
家畜を食べたオルトロスが次のターゲットに選んだのは、件の祖母と孫。逃げずにその場から動かない“肉”は肉食の魔獣にとって格好の獲物だ。
オルトロスの爪と牙が迫る。
次の瞬間には無残な2人の姿があるだろう。
普通なら、だけど。
「はい収納」
「「ガアアアアアアァァァァァッッッ――――…………」」
オルトロスが消え、その声もまるで遠くに飛ばされたかのように小さくなって――いつしか聞こえなくなった。
「「え?」」
後ろを振り向けばポカンとした表情の祖母と孫の姿。
ついでに何が起きたか理解できてない村人多数。
あー、うん、いつも通りの光景だな。
「え、あれ? 魔獣は?」
「見た通りっす。消しました」
「ア、アナタは一体……?」
「通りすがりの冒険者ですよ」
格好をつけている訳じゃなくて、本当にたまたま村の近くを通っただけの冒険者なんだよな。変なアイテムボックスを持ってるだけで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――チリンチリン
「ただいまー」
「あ、ネロさんお帰りなさい。採取依頼の方は?」
「ほいこれ。鑑定の方よろしく」
「お預かりします」
冒険者ギルドに帰って、薬草の納品をする。
受付嬢は毎度おなじみのシャーリーさん。いつもお世話になっている人で、この人には頭が上がらない。あと普通に付き合いたい。
あ、そうだ。
「薬草探しにロンド村近くまで行ったんですけど、村がオルトロスに襲われていましたよ。たぶん魔王軍のはぐれじゃないかな?」
「オルトロスが!?」
驚いて目が点になるシャーリーさん。
そりゃそうだ。オルトロスって魔王軍が飼い慣らしている魔物がほとんどだって話だからな。
この前勇者パーティー+αと魔王軍が大規模の戦闘をしたって報告があったし、乱戦で制御を離れた魔物の一部が出没した話もある。
オルトロスもその中の1匹だったんだろう。
とはいえ、
「もう対処させて貰いましたが」
「やっぱりですか」
ホッとした表情に戻るシャーリーさん。
この人は偶然ピンチの時に助けたことがあって、それからオレの特異性――正確にはオレの持つスキル、アイテムボックスの異常性を知っているから話が早くて済む。他の受付だとちょい面倒だからな。
「村はケガ人はいるけど死者は無し。ただし、柵が壊されて家畜にも被害が出ていたみたいなんで確認の方をお願いします」
「分かりまし――」
「おいおい、テメェがオルトロスを倒したとでも言うのかよ?」
シャーリーさんの美しい声を遮る聞きたくもない男の声が。
あー、いつもの面倒ごとか。
振り返れば後ろに並んでいるオレとそう変わらない年齢(20代前半)の兄ちゃんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「オマエのことはときどきギルドで見ているけどよぉ、いつも採取依頼や雑用依頼ばかりじゃんか。そんな奴がオルトロスを倒したぁ? ウソじゃねえんなら素材の一部でも出してみろよ」
「……素材はありませんよ。オレの倒し方は特殊なんで」
だからシャーリーさんにも倒したではなく、対処したって報告しているのに。
証拠が無いってこういう時に不便なんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うーん……今日の夕飯は何にしようかなー?」
今日の仕事は終わったので、暗くなった街を1人歩く。
たまにすれ違う奴が腕を組んだカップルだったりすると、小物臭いと言われそうだが舌打ちの1つでもしたくなる。
(冒険者になって2年。分かってたけど、中々評価されないな……)
あのあとシャーリーさんが男を落ち着かせてくれたから無事にギルドを出れたけど、運が悪いとずっと絡まれ続けたりすることもある。
魔物を倒した証拠を出せないってのはかなりのハンデだ。
シャーリーさんのような事情を知っている人は味方をしてくれるけど、事情を知らない人間の方が圧倒的に多い。
未だにDランク冒険者を続けているのもその辺りが原因だ。
全ては、神様から貰った特殊なアイテムボックスのせい。
(突然夢の中に神様を名乗る爺さんが出た時は驚いたな)
夢のはずなのに、ただの夢じゃないとすぐ分かる存在感を放つ神。
訳が分からないうちに一方的に説明されたところによると曰く、死んだ地球人の魂をチート付きで転生しようとしたら、奇跡的に当人が生き返っちゃったよ。せっかく準備してたのに困るな~。与える予定だった何も加工していない“力”も作っちゃったしな~。お?調べたら生まれてすぐ病死した父親がその世界に転生してるじゃん。せっかく作った“力”を捨てるの勿体ないし、キミにあげるよ。キミと相性が良いスキルに変化するはずだから今世をエンジョイしてね。バイビ~! とのこと。
ハッキリ言おう。
意 味 が 分 か ら ん 。
“転生”とか“父親”とか変なワードが出てくるし、深く考えようとすると体調を崩すんだ……“ガン”、“妻子を残して”……うっ、頭がっっっ!?
翌日、起きてみると確かに自分に無かったはずのスキルが芽生えていた。
その名はアイテムボックス。
使用者の適性で性能に違いが出るものの、様々な無生物を異次元に収納できる使い勝手の良いスキルだ。
これだけなら「便利だな~」で終わっていただろう。
オレは農家の三男として生まれた。
ぶっちゃけいてもいなくてもいい存在だ。女じゃないから嫁に出すとかもないし、仲の良い女の子も村にはいなかった。才能も無かったから1人立ちすることもできず、兄の顔色を見ながら生活する日々。アイテムボックスを貰っても、重いものを持って腰を痛める心配が無くなったぐらいにしか思っていなかった。
オレのアイテムボックスが生き物も収納できると気付くまで。
数メートル以内なら手で触れなくても一瞬で収納可能だと気付くまで。
ビックリしたね。
たまたま森から襲ってきたゴブリンに咄嗟に使ったらシュン!って消えちゃうんだもの。で、アイテムボックスの中を確認したら、さっきのゴブリンが何も無い空間でウロウロしてたんだ。
これだ!!って思ったね。
才能の無いオレでも、上手く使いこなせば冒険者としてやっていける!って。
オラこんな村イヤだ!って感じに飛び出したよ。
で、今にいたると。
(甘かったのは証拠の提出が遅れることなんだよな)
そう。オレのアイテムボックスは生きたまま収納するだけだ。中に閉じ込めたからってすぐに倒せるわけじゃない。
ゴブリンやホーンラビットぐらいなら直接倒すか、アイテムボックスを崖の上で開いてから真っ逆さまに落ちて死んだところを回収するだけでいいけど、オルトロスのような強いレベルの魔獣はそういかない。だからそんな強い魔獣を証拠として持って行くにはオレ1人でできる事だと1つだけ。
アイテムボックスの中で餓死させる。これに限る。
幸いにもアイテムボックスの中はそれぞれ部屋区切りされているようで、強い魔獣が弱い魔獣を食って生き延びることができない。強い魔獣は体内の魔力?生命力?を変換して飢えを凌ぐことができるから時間は掛かるが、それも永久じゃない。現に半年ほど持ったものの、ついに死んでくれたジェネラルオーガ。アレをギルドに持って行った時は騒ぎになったな。
……ガリガリに痩せて餓死していたことも含めて。
(そして、オレのアイテムボックスの中にはドラゴンを含めた大物が眠っている! ソイツらが餓死するのも見た感じもうそろそろ)
冒険者として最低限の身のこなしを1年掛けて覚えたあとは、さらに1年掛けて各地に存在する強力な魔獣をアイテムボックスに入れてやった。
中を見るとすごいぞ? 魔境だ魔境。絶対にやらないけど、これ全部を解き放ったら間違いなくこの街は滅ぶ。
(と、そうだ。最近アイテムボックスの中確認しなかったな。そろそろドラゴン系辺りが餓死しそうな様子だったし、見ておこう。ついでに今日仲間入りしたオルトロスちゃんも)
そろそろ一気に死屍累々が増えてくる頃だと予測している。
もしかすると数日中にドラゴン(餓死体)をギルドに出せるかも。
道の端っこによってからアイテムボックスの中を確認する。
「オルトロスちゃん元気にしてるか~い」と覗いてみれば――
2つの首を食いちぎられ、白目舌ベロンな死んだオルトロスの姿が。
「………………んんん?」
一旦アイテムボックスから目を離す。
自分の頬を抓って痛みを確認。
「よっし!」
再びアイテムボックスの中を覗いてみる。
オークキングとゴブリンキングが殴り合っていた。
「………………」
ヘルコンドルがキマイラに組み伏せられ喰われそうになっているところに、後ろから近づいたヴェノムサーペントが奇襲を掛けてキマイラの首にキバを突き立てる。
「………………」
フレイムドラゴンとアイスドラゴンがブレスをぶつけ合って――
「ちょっと待てよし落ち着こうオレ冷静になろうかオレ」
深呼吸し、現在オレのアイテムボックス内で起こっている異常について纏めてみる。そうだな、一言で纏めると――
ずばり、上位種の魔獣同士が共食いフィーバーで地獄絵図。
「いや何でぇっっっ!!!??」
思わずその場で叫んでしまった。
周りからの視線が突き刺さるけどそれどころじゃない。
(アイテムボックスの中は区切りがされてるはずじゃ!?)
だからこそ魔獣同士が殺し合うことも無かったのに。
(まてよ? まさか……)
混乱している中で思い至った仮説、その確認をする。
三度覗き見る我がアイテムボックス。
今度はピンポイントで見るのではなく、全体を見るようなイメージでその中を、正確には区切りとなっている“壁”を確認する。
「うっわグロ」
視点をどんどん広げれば、見えてくるのはこの1年の間に乱獲した魔物たちがそこかしこで殺し合い、貪り尽くす光景。
そして肝心の“壁”はと言えば――
「すっごい歪になっちょる」
ハッキリと見えるわけじゃないが、オレにはそこにあると認識出来ていたアイテムボックスの中をゴチャゴチャにしないための城塞のように強固な“壁”が、グニャングニャンにねじれ曲がって隙間が空いていた。
そこから飢えた魔獣が出て、目に付いた魔獣を手当たり次第に喰って、今のこの惨状ってことか。
仮定の話だけどこれはやっぱり、
「スキルの許容量オーバーと、俺自身の練度不足……!」
冒険者になりたての頃に先輩から1度だけ教えてもらった話があった。
それがスキルの許容量と練度の関係性。
簡単な話が、スキルも自分と同じように成長する。時間と共に自然に成長したりもするが、基本は自分自身の実力に見合ったものになるのが多い。
スキルの種類によって違いはあるが、コップに注いだ水が多すぎると零れるように、限界を超えると制御することが難しくなる。
と、こんな内容だった。
オレが神様からアイテムボックスを貰ったのはたった2年前。この2年で俺自身は平凡な成長しかしていない。神様からの貰い物ということで失念していたが、いくら特別な力でもこの世の条理にはかなわない。
その結果が、アイテムボックス内の地獄絵図。
「マジか。そういえばオルトロスを入れた辺りで変に体というか心が重くなった気がしたけど、スキルの許容量を超えちゃってたのか」
思い返すとここ1ヶ月辺り、上位の魔物を入れる度に何かが軋むような感覚がしていたけど、そうか……前触れはあったのか。
「で、どうしようこれ?」
普通のゴブリンみたいな下位魔物はとっくにいなくなっているけど、残っている上位魔物はタフな連中ばかりだからアイテムボックスの中が落ち着くまで数日はかかりそうだなぁ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギィンッ!と左に装備した盾とゴブリンの持っていたボロ剣(ホントどこで手に入れたのか不思議)がぶつかり合う。
「フンッ!」
「グギャ!?」
隙が出来た瞬間を見て、ショートソードでその首を落とす。
ここ何日か繰り返す作業もスムーズになってきた。
「ふぅ、やっぱアイテムボックスに頼りすぎて、オレ自身ほとんど成長できていなかったんだな。2年目で実感する羽目になるなんて」
現在、オレはゴブリンなどの下位魔獣をソロで狩るというのを何日もしている最中だ。アイテムボックスに頼らないで。
あの『アイテムボックスの中が地獄絵図でしたよやだぁ事件』以降、初心に返って自分を鍛えることにしたオレ。
アイテムボックス内の区切りが修復していない中で新たに魔獣を入れるのは良くないと、中古の袋を買って魔獣の討伐部位だけを入れている。
ちなみにゴブリンの場合は右耳だ。剥ぎ取るのグロい。
尚、あの事件以降アイテムボックスの中は覗いていない。
いや、正確には確認したけど、頭を潰されて目だけが飛び出したゴブリンキング目玉がドアップで映りまして……
正直心臓に悪いですはい。
幸いにも共食いで死んだ上位魔獣の素材は取り出すことができたので、それを換金してできた金で装備を一新した。(尚、グロい素材ばかりだったためにあらぬ疑いが掛けられた)
「下位魔獣退治も様になってきたし、明日には“壁”が修復されているか見ておくか」
シャーリーさんに事情を話して調べてもらったんだけど、スキルの許容量オーバーは1週間もすれば元に戻っているものらしいのでたぶん大丈夫だろう。
「さて、街にもど――ん?」
そこで、急に威圧感を感じる。
魔獣からの殺意とは違う、ハッキリとした意志の威圧を。
唾を飲み込み、後ろを振り返れば――
「ふむ。キサマが冒険者のネロで違いないか?」
漆黒の翼、額の角、青白い肌。それらを除けば人間と変わりない、しかし、決して共存が叶わない人類の敵――魔族。
魔獣と共に魔王軍として勇者と戦っている存在が、目の前に降り立った。
「何で、魔族が、オレの名前を……!」
魔族の特徴以外だと、紳士服を着た落ち着きのあるインテリ系兄ちゃんに見えなくもないけど、バリバリ武闘派だったらどうしよ?
「ご紹介が遅れた。私は魔王軍幹部の1人、【空裂】のシャンターンというものだ。よろしく頼むよ人間」
「魔王軍幹部!!?」
超武闘派だった!! しかも2つ名持ち!!
勇者が相手しなきゃいけない正真正銘の化け物じゃんか!!
「えっと、シャンターンさんだっけ? 何かご用で?」
落ち着け。落ち着くんだオレ。
ここで選択をミスったら本当に死んじまうぞ!?
「うむ。単刀直入に言えばキサマの命を貰いたくてね」
「最初からバッドエンド確定だった!?」
選択肢なんて無いじゃんか!
「ちょっと待て! 何でオレ!? 勇者パーティー相手にしろよ!」
「もっともな意見だが、この1年で各地の強力な魔獣が争った形跡無く消える事件が多発してね。調査したところキサマの存在が出た」
「身から出た錆だった!?」
上位魔獣を乱獲していましたからね!
数日前に共食いを始めたけど!
「そこで熟した果実になる前、未熟な内に殺すことにした。それが私だ」
「話し合いの余地は!?」
「無い。私の矜持に則り、抵抗しないならば痛み無くあの世へ送ろう」
「全力で抵抗するに決まってるだろバカ!!」
不幸中の幸いにも、奴はアイテムボックス発動の範囲内。
久しぶりに使うけど、問題なく発動してくれた。
「“無力化”でオレに敵う奴はいねぇ!」
発動したアイテムボックスは魔王軍幹部を取り込み――
「ふむ。やはり空間系のスキルか」
――取り込めなかった。
見えない何かによってアイテムボックスの中に引きずり込めない。
「この感じ、アイテムボックスに似ているが……随分変質しているようだ。亜種か? 魔王城にある資料でも見たことがない。興味深いな」
「何、で……?」
初めて防がれた。オレのアイテムボックスが。
「言っただろう。調査をしたと。確証こそ無かったが、キサマが一撃必殺の空間に作用するスキルを持っている可能性は十分に考えられた。だからこそ、私が相手をすることになったのだよ……魔王軍で最も空間系スキルを極めた私がね!! 『ディメンション・スラッシュ』!」
「――っ!?」
ほとんど本能だった。
大きくその場から飛び退き、体を限界まで小さく丸める。
すると、さっきまで自分がいた地面が抉れていた。異常なほどキレイに。武器やスキルによる攻撃とは違い、周囲に余波も出さず。
「……その行動は正解だ。後ろに下がっても、防御しても、キサマは死んでいた。やはり人間の生存本能がなせる偶然・必然はバカにできないな」
「今の、空間そのものを斬った?」
「地頭は悪くないようだ。その通り。今のは隙こそ大きいが、相手の防御を無視して攻撃が可能でね。後々は勇者パーティーの盾持ちを殺す役割を担うだろう私の持つ空間系スキルの1つだ。あぁ、先に行っておく。私には限界距離こそあれど転移のスキルを持っていてね。例えここからキサマが逃げ出せたとしても、数秒後には目の前に移動することができる。分かるか? ……キサマの人生はここで尽きる」
「う、うわああああああああああああ!!」
恐怖でどうにかなりそうな気持ちを絶叫することで逆に押えようとし、アイテムボックスの中にしまっていた対魔物用の刺激臭のする粉袋や目つぶし薬など、思いつく限りのモノを投げつける。
が、
「憐れだな。大人しくしていれば長生きできたものを」
幹部の周囲に展開された見えない壁によって阻まれる。
あれも空間系スキルの一種なのだろう。
(死ぬのか? オレ?)
まだ有名な冒険者になれてないのに?
ちょっと特別なスキルを貰ったからって調子に乗ったから?
村を飛び出した結果がコレか?
こんなの、あんまりだろうが……
(………………こうなったら)
このまま死ぬぐらいなら、博打をやってやる。
アイテムボックスの中で地獄絵図から生き残っているだろう上位魔獣を、ここで解き放ってやる!
生き残っているのはドラゴン辺りか、はたまた別の魔獣か。
1、2匹でも目の前で解き放てば逃げる隙が作れるかもしれない。その前にオレが襲われる可能性も高いけど、逃げ切れる可能性はゼロじゃない。アイツの言っていた転移の限界距離から離れるまでひたすらに逃げる。その後のことは逃げ切ってから考えれば良い!!
「何か強そうな魔獣が生き残ってますように!!」
オレは数日ぶりにアイテムボックスの中を覗き込み、
――オオオオオオオオオオオォォォ……!!
全然見覚えの無い禍々しい魔獣が居座っているのを見てしまった。
「…………………………はい?」
あっれー? おっかしいなー?
何あの、地の底から響いてくような声を出す化け物? 胴体にも顔があったし、腕が4本あって武器っぽいの持ってたし、翼もあるし……
オレあんな魔獣アイテムボックスに収納したっけか?
「もう気は済んだか? ならば死ね」
ああああああああっ! 幹部が攻撃してくるううううううぅっ!!?
もう見覚えないけど出ちゃって魔物さーん!!
「オオオオオオオオオオオォォォ!!」
アイテムボックスから出てきたのは全長5メートル程の、既存のどの魔獣にも分類されないような外見の何かだった。
まず頭。竜種と悪魔種を合わせた外見で一目でヤバそうだと分かる。胴体にも似たような顔があるけど、そちらは口を開いていない。
次に体。ゴツゴツした皮膚の上から鎧みたいな外骨格が見える。甲虫種の特徴があるけど、絶対に虫じゃ無いよな?
で、腕。4本あるね。ついでにそれぞれに武器を持っているね。良く見たら骨で作った剣だ。一体何の魔獣の骨なんだろー?
他にも翼とか尻尾とかあって全体的に黒っぽい色合いで……
まぁ、うん。この世に存在しねえよこんな魔獣。
「な、何だコイツは!? このような魔獣この世に存在しないぞ!!」
魔王軍の幹部も同意見のよう!
やっぱいないよねこんな魔獣! いや魔獣かも怪しいな!?
「オオオオオォ」
目を見開く幹部に魔獣(?)は持っている剣を振り上げる。
あ、とりあえず目の前の生き物を殺す系でしたか。ならオレは当初の予定通り戦闘が始まった時点で逃げさせてもらいます。
「――っ!? 魔獣ごときが魔族に手を上げようとするか。ならば格の違いを見せ、オマエを魔王軍の配下に加えてやろう!」
やめて! 勇者の敵が増えたら、オレどの道生きていけない!
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!」
謎の魔獣はその骨の剣を叩き込む。
幹部は空間系スキルの防御をするだろうし、激突した瞬間に走り込むぞ。良く見て、タイミングを見計らって――
――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッ!!
大地が揺れるような衝撃。
その勢いに尻餅をついてしまう。
立ちこめる煙が段々と晴れていき、見えてきたのは――
「…………ぁ」
縦に真っ二つになった幹部の姿だった。
幹部だったものはそのまま左右に倒れ込む。
………………
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!!?? 幹部を瞬殺ぅうううううう!?」
ちょっと待て! 魔王軍の幹部って勇者パーティーが激闘の末に倒せる相手なんだよね!? それを開始数秒で真っ二つって!?
幹部の空間系防御も紙切れみたいに粉砕してるし!!
もしかしてオレとんでもないことしちゃったんじゃ……!?
(ヤバい。コレ魔王より強いんじゃ……)
これ下手をしなくても放置したら責任問題だよね?
責任の取り方っていうと……
(最低限近づいて、アイテムボックスの中に永久封印する)
正直逃げたくて仕方ないが、コレが人類に牙を剥いた時のことを考えたら命をかける以外の選択肢が無い。
そろり、そろりと足音を鳴らさないよう近づいて……
グリン!と首をこちらに向けた。
(あ、死んだ)
ゆっくり近づく何か。
恐怖で完全に動けなくなってしまったオレ。
そして、
『我ガ主ヨ、オ初ニオ目ニ掛カリマス。何ナリトゴ命令ヲ』
「まさかの展開!!!??」
膝を突いて忠誠を誓う騎士みたいなポーズを取り出した!?
てか、雇用主オレ!? オマエ、オレに絶対服従なん!?
「えっと、そもそも、キミ、誰?」
『名ハアリマセン。タダ、蠱毒ノ法ニヨリ主ノ世界で生マレシ者デゴザイマス。イワバ、主ハ我ヲ生ミシ父デアリマス』
「こんなデケぇ子供いねえよ!?」
『………………認知シテクダサイ』
「急に人間味が増したな!?」
もうヤケクソだバカヤロウ!!
「それで、えっと……“こどくのほう”って何?」
『ハッ。蠱毒とは――』
そっから聞いた話を要点だけ纏めると。
・飢えた生き物一カ所に集めるよ!
↓
・喰え喰えみんな殺し合え!
↓
・何やかんやで混ざって生き残った奴が超強くなっちゃった♪
これがアイテムボックスの中で起こったことで、コイツの誕生秘話だった。
つまり、
「オレのせいじゃん!」
『ハイ』
え~どうしようこれ?
とりあえずシャーリーさんに相談しなきゃ……
尚、この後アイテムボックスの中に入れた化け物の事情を話されたシャーリーさんはキャパオーバーで気絶します(笑)
さらに勇者パーティーに魔王軍のスパイだと思われたり、第2の蠱毒が起こったり、身の危険を感じた魔王(グラマー美女)がハニートラップをしかけたり、彼の災難は面白おかしく続くでしょう。
今作品のコンセプトは「生き物も入れられる時間経過型アイテムボックスを手に入れたらどうなる?」です。
ついでに空間の仕切りみたいなのが壊れたら、そこで魔物同士の殺し合いが起こったら……と想像を膨らませてこの作品が出来ました。
蠱毒ってどんな作品に登場しても怖いですよね……
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作者の連載作品『アルビノ少女』と『エロゲ世界』も応援よろしくです。