第6話 黒角の降臨、そして邂逅
こんばんはです!
今回からはしっかりと物語に入っていきます。
結構長めです。
それでは、第6話 どうぞ!
足に地面のつく感触。自然の匂いが鼻をくすぐる。
目の前から真っ白な光が消えると、そこは一目で森と分かるような場所だった。
「…ここが、異世界なのか?」
声を出してみると、前世よりも明らかに若い男の声が自分の口から発せられる。
本当に肉体改造をされたのか?
しかし自分の手足を見る限りでは、ほとんど人間と変わらないただの手と足がそこにはある。自分の全体像を見れば一瞬で分かるのだろうが、鏡がない以上自分の全身どころか顔を確認することもできない。
今の俺にできることはというと…
「とりあえず、どっか適当な方向に歩いてみるか…」
こんな周りに木しかない場所から出ることだ。とりあえずどっか適当に歩いとけば何処かに出るだろう。
15分くらい歩いただろうか。俺は広い湖の畔へと出た。歩いている間、動物や魔物らしき角の生えた生物は見たが、人の姿は見なかったな。
とりあえず、喉も乾いたし水でも飲むかと湖に近づくき、顔を屈めると
「え、誰これ。」
思わず声を出してしまった。
湖の水面に写っていたのは、黒い髪に金色の瞳を持ち、額のおでこからは黒い2本の角が生えている者の顔だった。人間的な年齢で言えば、10代後半くらいの顔立ちだろう。
まさかとは思うが、これは…
「これ俺かっ!? え、人間とほとんど見た目変わらねぇじゃん! 頭から角は生えてるけど!」
一人で湖の水面に向かってワイワイと盛り上がり、試しにニッと口角を上げれば人間が持ってはいないだろう鋭い牙のようなものが見える。人間でならば結構イケメンに分類される顔立ちではなかろうか。角は生えているが。
「とりあえずゴブリンみたいなやつじゃなくてホッとしたが、俺は一体何て魔物に転生したんだ…?」
見た目は限りなく人間に近いが、おでこから生える2本の黒い角の存在が自身を人間ではないと証明している。
となれば、自分の魔物としての種族に興味が向くのは当然のことだろう。
「…そういえば、能力に『心眼鑑定』とかいうやつがあったよな。あれを自分に使えば分かるかもしれんな。」
そう考えついたら即実行。水面から顔を上げて意識を集中する。狙いは自分に対しての鑑定だ。
能力を言葉には出さず、心の中で発動させる。
(『心眼鑑定』を発動……うおっ、何だこれ!?)
突然自身の視界に様々な情報が現れる。
___________
名 アスラ
種族 闘鬼族
階級 黒角
所持能力
『格闘術』『次元歩行』『魔法破壊』
『超速再生』『心眼鑑定』
称号
『魔帝』『女神の寵愛』
___________
「これが俺の情報なのか?…種族は闘鬼族、闘う鬼ってことか。」
その場で立ち上がり、自分の身体を舐めるように見つめる。前世に比べたら細身であるし、拳で闘うと言ってもあまり想像がつかないのだ。というより、身につけているのが腰にボロ布を巻いただけっていうね。もっといい服装とかあっただろ、と俺を転生させた女神に心の中で突っ込んだ。
そんなことよりも、もっと気になる項目が他にいくつかあった。
「階級は黒角、称号に『魔帝』と『女神の寵愛』…何だこれ」
階級というものもそうだが、黒角というのもよく分からない。水面に写った自分の角を見る。
確かに綺麗なほどに真っ黒い色の角であり、これが階級の証なのだろう。もっとも、その階級の中で黒い角がどれくらいの地位のものか分かっていないから反応もしづらい。
称号の『魔帝』と『女神の寵愛』というのも気になる。しかも称号に関してはその説明も見れるらしい。そこに書かれてあったのは
魔帝:魔物の中でも最上の戦闘力を誇る存在に与えられる称号
女神の寵愛:女神から直々にその存在を認められた者に与えられる称号
「もう意味わかんない」
思わずキャラ崩壊が起こりかけたが、とりあえず情報を整理しよう。
『女神の寵愛』というのはなんとなく分かる。俺は女神から直々にお願いされてこの異世界に降り立ったんだからな。この称号の説明も頷ける。
一番問題なのは、『魔帝』だ。俺って魔物の中で最上の戦闘力持ってんの?
女神からチートレベルな能力を貰ったからか?確かにそれなら頷けるが・・・
それはともかく、説明を読む限り称号には能力のように何か特別な力を発揮するわけでも、持っている訳でもなさそうだ。字面で少しビビってしまったが、基本は無視しても問題ないだろう。
「とりあえず、まずは自分の身体と能力の確認だな。何かいい的でもあればいいが・・・」
と今後の動きについて考えている時だった。
クオォォンッ!
「・・・今のは?」
森の奥の方から何か生き物の叫び声が聞こえてきた。だが自分の知っている獣の声とはどこか少し違う。そうだとしたら、もしかしたら魔物がいるのか?まぁ私が知らない普通の生き物の可能性も否定できないが。
それに、さっきの叫び声はどちらかといえば雄たけびというよりも悲鳴的なものに近かった気がする。もしかすると、何かしらと争っているのか?縄張り争いみたいに。だがどちらにしろ魔物の可能性があるなら一度確かめてみたい。
「よし、行くか。・・・うおっ!?」
そう思って駆けだしたら今度は自分の口から驚きの声が出た。
なにせ、前世の頃とは比較にならない程のスピードが出たのだ。1歩足を踏み込めば5mの歩幅ができるくらいに。
「うははっ、こいつぁすげぇな!」
しかし少しすれば慣れたもので、今ではこのスピードに楽しんですらいる。
おっと、目的を見失うところだった。話を戻そう。
そろそろさっきの鳴き声が聞こえてきた場所辺りに着くはずなんだが・・・
と思っていた矢先
「ん?・・・なんだこの音」
魔物らしき声が大きくなっていくのが聞こえるが、その他にも鋭い金属の何かが物を切り裂くような音、何者かの怒声や笑い声なども聞こえてくる。
本当に一体何をしているんだと思い、一度走りを止めてその音源へとゆっくりと近づく。
すると、ようやくその場に着いた。そこで真っ先に目に入ったのは・・・
「狐か・・・いやでかくね?」
そこにいたのは、頭から赤い角を二本生やした白い狐のような生き物、いや魔物であった。自分の知っている狐よりも大きく、大型犬よりもひと回りかふた回りほどの大きさである。
しかし、本当に目を引くのはそこではない。なぜか全身が傷だらけであり、歩みも覇気がなく、酷く疲労しているようにも見える。
しかし次の瞬間だった。
ザシュッ!
「キャウンッ!?」
突如として、狐の魔物の後ろ足を矢が貫いた。
もともと足取りが不安定だった狐の魔物は激痛で悲鳴を上げながらバランスを崩して倒れこむ。
「今の矢は向こうから・・・む、誰だ?」
自身が木の上でその様子を観察していると、向こうから複数の人影が見えてくる。
アスラはそのまま居場所を悟られないよう、観察のために静観を続けようとした。
__(???視点)__________
一体どうしてこうなってしまったんだろう。
私は今、人間たちに襲われている。
「いたぞ!あそこだ!」
「絶対に逃がすな!」
確かに私は魔物。人類にとって悪と恐怖の象徴。
でも私は自分から人間を襲ったことはない。今のだってそうだ、人間が私を見るなり攻撃してきただけなんだ。
「クオォォンッ!」
体も前足もボロボロ、こんな状態じゃ近接戦闘なんてできない。なら魔法でなんとかするしかないって、そう思って私は悲鳴混じりに風魔法を人間相手に発動させた。
「うおっ!風魔法使ってきやがった!」
「防げ防げっ!こんなの守れば大したことねぇ!」
「もぉ〜めんどくさいったらありゃしない〜!」
追ってきた人間の声を聞く限りじゃ被害こそ出てないし未だ余裕そうだけど、牽制にはなってる。
そこを見計らって私は今持っている全力で人間から逃げるように走り抜いた。
逃げ切ったのかな。私が全力で走ったせいかな、疲労で足取りがおぼつかないや。とりあえず、できるだけもっと遠くに逃げなきゃ!
ザシュッ!
その時だった。私の足に矢が突き刺さったのは。
あぁぁぁあっ!痛い、痛いよぉ!
声にならない悲鳴を上げながら私は地面へと倒れ臥す。後ろを見れば、逃げ切れたと思っていた人間たちが普通に追いかけてきていた。遠くまで走ったつもりだったのに、そうじゃなかったんだ。
「はぁ〜ようやく追いついたわ。ナイスだぜ、ニール。」
「この程度朝飯前さ。さて、さくっとヤっちゃいなよアレン。」
「そうそう、とっとと毛皮と魔石を剥いでギルドに納品しよ。 あそうだ! そしたらそのお金でパーティーしようよ! 珍しい妖狐族なんだからギルドも高く買い取ってくれるよね!」
「落ち着けってミナ。こんだけ毛皮傷ついてんだからいくら珍しい種族だからといってもギルドが高く買い取ってくれるはずねぇだろ? 売ったら大人しく貯金しとけって。悪いことは言わねぇからさ。」
「ははっ!違いねぇ!」
ぎゃははは、と人間たちの笑い声を聞きながら私は朧げな意識の中で思い返す。
なんでこんなことになったんだろう。
最初は森の中で楽しく遊んでいるだけだった。そしたらいきなり矢が飛んできてお尻に刺さったんだ。人間が襲ってきたんだと思って逃げようとしたら何故か動きが鈍くなっちゃってた。今思うと最初の矢には痺れ毒でも仕込んでたのかもしれない。そのせいか分からないけど、魔法も使って必死に逃げようとしても振り切れなかった。
「そんじゃっ、俺たちの仕事を終わらせようぜ。」
他の人間たちからアレンって呼ばれてた人間が剣を持って近づいてくる。私を殺そうとしてるのが分かる。逃げたいけど、力が入らない。
私はもう、逃げれない。
「魔物の分際で俺たちに手間かかせやがって・・・とっとと死ね。」
人間が剣を振り上げる。あとはあれを振り下ろせば私は死んじゃうんだろう・・・
いやだ、死にたくない
だれか、たすけて・・・・
「いい加減にしろよ、ゴミ共が。」
恐怖で目をつぶっていくら待っても痛みが襲ってこない。その代わりに人間の若い男のような声と、ゴキッと何か硬いものが折れるような音、そして続けざまにドサっと何かが地面に倒れるような音が聴こえてきた。
恐る恐る目を開くと、そこにいたのは魔物特有の角みたいなものを生やした人間のような何かと、首があらぬ方向にねじ曲がり地面へと倒れ伏したアレンという名の人間だった。
「大丈夫か?」
角を持った何かがこっちを振り向き、私の顔を覗き込む。
朧げな私の視界に映ったのは、綺麗な金色の目を持ち、黒い二本の角を生やした人型の存在だった。
「痛かっただろうに、よく頑張ったな。こっからは俺に任せとけ。」
妙にストンと心に落ちたその言葉を最後に、何故か私は安心したかのような気持ちになりながら疲労で意識を失った。
「人間たちがムカつく!」
「妖狐ちゃんがんばれ!」
「やっちゃえ!バー○ーカー!」
と思った方は評価と感想の方をどうかよろしくお願いします!