第3話 歪んだ心と決断
先ほどぶりです!
オンライン会議も終わってコタツで一休み・・・至福だ。
「いやお前・・・俺にさっきのやつみたいな醜い怪物になれってか!?」
「そこは大丈夫よ。見た目に関してはあまり普通の人間と大差ない感じにするからさ。」
「なぁんだ、それなら安心・・・ってなるか!!」
ふつふつと怒りが込み上げてくる中、女神が俺の前まで近づいてきた。
「でもあなた、心の中で結構興味があるのでしょう? だって・・・
あなたは、その拳で思う存分に人をぶん殴ってみたいのでしょう?」
女神の言葉で、俺はハッと顔を上げてその目をみつめる。
奥の見えないその瞳に吸い込まれるように、俺の意識は女神の言葉に向けられる。
「あなたは人の悲鳴が好き、人が痛めつけられて泣き叫ぶ声が好き。俗に言えば異常性癖、もしくはリョナラーってところかしら。でもあなたは、自身と対等に戦える強者と巡り合って全力で戦ってみたいっていう武人らしい心も持っている。そんな人にはうってつけの提案だと思うのだけれど。」
たしかに、俺はそこの女神の言う通り、歪みすぎた心を持っている。
幼い頃、ひょんなことで取っ組み合いの喧嘩になった同年代の男の子を打ち負かして泣かせてから、人をぶん殴る快感、人の泣き叫ぶ声への快感というものに目覚めてしまった。しかし、それがいけないことも幼いながらに分かっていた。だから俺は格闘技の道を進んだのだ。
最初は空手だったか。自分よりも上の輩を力で制圧して、柔道では絞め落として、ボクシングでは殴り倒して、テコンドーや少林寺では殴りの他に蹴り倒したりもした。プロレスとかでは関節技も習得した。
とにかく、色んな格闘技にのめり込んで極めていたら、世間は俺のことを武術の天才だとか持て囃していたこともあった。それは心底どうでもよかったが。
ある時だった、またいつものように武術で相手を軽く捻り倒し、張り合いのない退屈な日々にストレスを感じながらも、痛みで呻く奴を見て内心で気持ちよくなっていたらふとこう思ったのだ。
『己の力を持って、こいつらを思う存分に蹂躙して殺したらどれだけ気持ちいいのだろうか。』
もちろん、当時は何を馬鹿なことを、と自分で一蹴した。人としての一線を超えてはいけない。それを超えれば自分は怪物になってしまう、と。しかし、日を追うごとにその欲望は大きくなり、理性で抑え込むのが精一杯であった。そして、その我慢が限界に近づいた時に、幸か不幸か、俺は病で倒れて、さっき死んだのだ。
「・・・・・。」
女神から言われて気づき、自分は深く思い出す。自分と対等もしくは強いやつがおらずに日々退屈であったこと。人の泣き叫ぶ声がたまらなく愛おしく自分は欲しているのだと。
「まぁ、他にこれを頼める人間さんはいくらでもいるから別にあなたがやらなくてもいいし、あなたが嫌ならこの話はなかったことで・・・」
「ちょっと待て。」
気付いた時には、俺は女神を呼び止めていた。
「はい、何でしょう♪」
ニヤニヤしながらこっちを見る女神。あぁその全て見透かした顔に腹が立つ。
その顔をぶん殴ってぐちゃぐちゃにしてやりたいほどに。
しかし、そんなはやる気持ちをなんとか抑えて俺は口を開いた。
「その異世界でならば、俺は人間をいくらぶん殴っても構わないんだろ? 思う存分泣き叫ばせても良いんだろ? 飽きるまで痛めつけても許されるんだろ? 強者とも巡り会えるんだろ?
なら、俺をその魔物ってやつに転生させろ。俺がその神からのお願いってやつを引き受けてやるよ。」
「はい♪分かりました〜♪」
女神はニヤニヤを止めずに即答した。
やっぱりこのクソ女神ぶん殴ってもいいか?
読んでくださり、ありがとうございます。
プロローグはあと1〜2話で終わるかと思います。
そこからの明日楽による物語もどうかよろしくお願いします。