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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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戦線を保って

説得を拒絶したネームレスと別れたウズマサ一行は遊撃隊のテントに戻った。

作戦会議で主要な仲間を招集し、ネームレスの話をキヨアキラが要約して話すと、メンバーが驚いた。


「女神に逆らう物言う竜、外典の中にそういう伝説がありますが、実在を聞いたのは初めてです。」

スノリがため息をついた。

「竜がいたら辺り一面焼け野原、大災害になるんじゃないのか?」

ダニエルが腕を組む。

竜はオーキデンスではおとぎ話や伝説の中で厄災として語られていた。

「竜さえ魔王に操られているということだ。ウズマサも操られるところだったらしいしな。」

オーナはウズマサをみた。

疲れも怯えもない、いつものウズマサだ。

オーナはどこかホッとした。

「魔王の居場所が分かったんだ。ビオス島まで向かわない手はない。」

「それなら、海路を行くしかないでしょう。」

スノリが現在地から陸の端まで指でなぞり、海路を通って島の所で地図を指で叩いた。

ダニエルが頷く。

「漁村があれば、船があるかもしれない。レイチェフがこの辺りに詳しい。おい、連れて来てくれ。」

「はい。」

ダニエルの命に、何故かロッコが応えてテントから飛び出していった。


レイチェフという痩せた赤毛のエルフ男が来た。

「なんですかい。」

「この辺りに漁村はないか?」

ウズマサの問いに、レイチェフは鷲のような鼻をかいた。

「あります。東に半日歩けば、モスという小さな漁村がありますけど、なにせ魔王の襲撃で船があるかまでは…。」

「そうか。」


ダニエルは一瞬下を向くと、メンバーに語る。

「今の戦線を放棄してまで、そのモスって漁村に行く価値があるか、疑問に思う。ネームレスの言うことが真実だと限らない。奴はオーガを率いて戦った敵だからな。」

「かといって、また少人数で行って、魔王と竜に出くわせば倒すことなど無理です。それに、」

訛りを克服した勇士マグが中空を見る。

「このまま厳しい消耗戦を戦い抜くより活路を見出す方が先です。主力となっている分隊の疲労と消耗ははげしく、かといって子供や老人に槍を持たせても無駄に死者が増えます。ここは転身してモスを目指すべきです。」

「正規軍は、ここにきても動かないつもりなんだろうな。」

ウズマサが諦めの顔になった。

「魔王の居場所を伝えて、正規軍に戦って貰えばいいではないか。奴らは飛びつくぞ。」

オーナが身も蓋もないことを言う。

「言った所で、敵の情報です。真実とわかるまで動かないかも知れませんね。」

キヨアキラが苦い顔を扇子で隠した。


「難しい決断だが、まずはモスまで偵察隊を送って様子を探ってもらうことにする。船があれば転身して村へ向かい、そうでないならば船を手に入れて進む。それまで戦線を保たねば。正規軍が代わりに引き受けるように仕向けねばなるまい。」

ウズマサが結論を出した。






装備品こそ質が低下してきているが、ベニータと魔王軍は懲りずにやってきていた。

錆びた鉄の槍とゴブリンの槍がぶつかり合い、矢と矢が飛び交い、そこかしこで散兵線が起きた。

「弩隊!射!」

リンレイの弩部隊が、ホブゴブリン盾隊の隙間から矢を放つ。

「手柄はもらった!」

『力強き』マーティンが自称部下とグレイブを手に突貫し、ベニータに肉薄する。

「臭い親父は、マジ要らない!」

ベニータがベールの下で鬼の顔になると、人外の膂力を発揮してマーティンの腫れ上がった様な筋肉を蹴り飛ばし、マーティンは部下もろとも吹っ飛んでいった。

「なんとぉぉぉぉ。」

飛んでいくマーティンを尻目に、ウズマサは大太刀をベニータに構えた。

「雌雄は決した。降伏しろ、ベニータ!」

「何が雌雄よ。まだ終わってない!」

黒衣の未亡人をモチーフにしたゴスロリベールのベニータが、ウズマサに手のひらを向けた。

「これやると血が抜けて疲れるから嫌なんだけど、犬には狼よね!狼瘡!」

皮膚結核の一種を名前に持つベニータの眷属の狼が、ベニータの身体を食い破るように現れた。

「ペスティス!」

ベニータの頭部や残りの身体が黒死病ことペスト菌の名前のコウモリの眷属に変化し、群となって宙を舞った。

「ぶっ殺して血を啜ってやるわ!キャハハ!」

狼と蝙蝠が一勢にウズマサを襲う。

ビョオオオオオ

ウズマサの流派特有の猿叫ならぬ犬の遠吠えで息を吐き、集中して魔素を巡らせる。

剣先を練るように動かし、ある図形を描いた。


ホクシンナナホシ流奥義応用

魔法剣幻惑先まほうけんまどわしのさき・改!


剣先で図形を描くことで、対峙した相手の感覚を狂わせる催眠に近い技に、本物の魔術の術理を加える。

魔素で図形に力を与えるシジル魔術という魔法にかかり、ベニータだった眷属の身体を硬直させた。

筋肉では動いていない狼は飛びかかろうとした所で地を滑り、蝙蝠は羽ばたけず地に落ちる。

「何!?何なのこれ!?」

動けなくなった眷属の中の蝙蝠。その一匹からベニータの声がした。

「これが本体か?」

気を送るように魔素を送って魔法を持続させつつ、喋る蝙蝠にウズマサが隕鉄銀で羽を刺すとベニータが悲鳴を挙げた。

「ちょっと待って!ちょっと待って!今回は私の負けでいいから、ちょっと見逃して!でないと私の御主人様が黙ってないよ!」

「主人?」

「そうさ!オーキデンスの北をあっという間に滅ぼした不死王リッチのアルフ様と精鋭ハイオーガ部隊が控えてるんだ。だからお願い、私の『声』を潰すのやめてくれる?」

声と聞いて、ウズマサは魔王を思い出した。

「アルフというのは、どこにいる?」

「アルフ様は魔王領でも北におわすお方で、ハイウルグを造ってらっしゃる。だから、アルフ様を倒さない限りハイウルグちゃんは無限なのよ!」

「どうやって造っているかは知らないが、そういうからくりだったのか。」

「ね?素直に話したでしょ?だからお願い、私は殺すのは好きだけど殺されるのは大嫌いなの!」

ウズマサは、降参したらしいベニータのコウモリから剣を抜くと、残心の構えで距離をとった。

「去れ。二度と姿を見せるな。次はないぞ。」

「くそぉ、悔しい。」

ベニータは元のゴスロリ姿の少女に戻ると、じゃんけんに負けたような顔をして去っていった。

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