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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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冬前に

恐怖に団結で立ち向かう。

白衣男は矢を浴び槍で刺される前に、ワルツを踊るように弧を描いて逃げようとして、グレゴリー騎士団の槍の前に倒れた。


悪夢は緋色の泥濘の中に死骸となって地面に落ち、遊撃隊は勝利した。


先の平原程ではないが、少なからず死者、死傷者がでた。

ウズマサは自分が魔素の力でうまく動くことが出来なかったか、もっと何か出来なかったかを思い、そんな不甲斐なさをキヨアキラに吐露した。


「そうですか。特別な気を扱えるようになりましたか。」

キヨアキラは考えを巡らせた。

「その気の力が使えるようになって、何でも出来そうな心地なのでしょうけれども、それは決して万能ではありません。少なくとも、私はそうです。特別な力というのはそうでない人よりも『選択肢』を増やしてくれますが、無敵という訳にはいかないのです。」

キヨアキラはそういって、ウズマサの肩を優しく叩いた。

「そうか。それでも、某はまだ心身に魔素が身に付いていないと思う。修行が足りない。」

「そうでもありません。これから自分というものを把握すればいいのです。生まれた時から扱いに困る能力を持った私が保証します。」



「最近の御主人様は見るからに疲弊していらっしゃる。(オラ)がもっと側にいなければ。バルセ君では駄目だ。」

ウズマサの心の不調を鋭敏に感じているダンキチの独り言を聞いて、サリアは心配顔になった。

「マナーナの儀式を受けた後、魔素を自分に向けすぎて感覚や考えが敏感になりすぎているんだと思う。僕が良かれと思ってやった事が裏目に出てしまったのかも。だーりんの心にも影響が出てないやしないかと…。」

「サリアちゃんは気にしなくてもええだ。」

ダンキチは翻訳でなく、近代エルフ語の北部訛りで話した。

「兎に角、御主人様にはしっかりしてもらわないと困る。」



錬金術師には錬金術を行使する工房があり、独自の儀式をするために塩、水銀、硫黄などを用いるのが定説というサリアの意見を元に、隊全員で村をそれらしきものを捜索したが、どの廃屋にも工房は見つからなかった。

ここでおぞましい化け物が量産された訳ではなかったらしい。


被害が多数で、実りは少ない。


情報網を駆使して、魔王に近づくルートをなるだけ最短に絞りながら居場所を探しているのに、これ程大きな損害の出た空振りはそうそうない。ウズマサは唇を噛み締めた。


翌日、村外れに天幕を張った遊撃隊は折り上げた小さな机に地図を広げ、ウズマサ、グウェイン、オーナ、スノリ、ダニエル、グレゴリーなど主要メンバーで今後の会議をした。

その中に、ヨハンやキヨアキラがちゃっかり加わっていた。


「ハイヤシンスから、ここまで移動するのに4日、戦闘と仲間の弔いで2日かかった。道道でこれが続くと消耗も酷くなり、何よりまだ食料事情が良かっただろう秋が過ぎて、食料乏しい冬がくる。まとまって行軍し闇雲に探すには、西方世界は広すぎる。そこでだ。大所帯の部隊を種族でも何でも分けて、分隊ごとに移動して怪しい所を虱潰しに探し、見つけたら準備しながら集合し魔王を討つというのはどうだろう?」

グウェインの提案に、キヨアキラが頷き、ダニエルが軽く首を横にふった。

「全部を分隊にするというのは、俺は反対だね。強く団結してても数はいる。俺達遊撃隊がいつも先鋒せんぽうをつとめされられているが、それでも後ろには正規軍がついている。この仲間の後詰めまでバラけるとなると、最悪各個撃破されて潰れちまう。何でグレゴリー騎士団しか陸騎士がうちらについてこないか分かるだろう?正規軍の抱える騎士部隊がネームレス一人の石の山にやられて見る影もないんだぜ?他にどんなバケモンが出てくるか分からない。慎重にいくしかないぜ。」

ま、今回は本当の化け物が出やがったけどな、とダニエルが感想を述べた。

「それなら、少数の先発隊を複数派遣して調査探索し、私達が先発の後詰めになるというのはどうだ?」

オーナが案を出すと、グレゴリーは顎に手を当てた。

「馬を持っている私達が機動隊になれば、敵陣深くまで素早い移動は可能です。お歴々(ディナシー)程ではありませんが。」

プライド高い陸騎士が、騎士の元になったディナシーに注意を払いつつ探索に手を上げた。

「馬なら某もかぶらを出せる。拙いが宜しくお願いする。」

ウズマサも手を上げたが、オーナの苦い顔を見て手を引っ込めようとした。

「隊長、なんか首長に気圧されてないか?」

ダニエルが軽口を叩き、ウズマサは苦笑いの顔を浮かべた。

「心配されなくとも、隊長として真っ先に首を取られる真似はしない。勇猛なディナシーとグレゴリー騎士団の後ろを追うだけさ。」

「これは驚いた。もう雪でも降るんじゃないか?」

グウェインの軽口に、ぐうの音も出ないウズマサだった。

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