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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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悪夢を振り払って

林の中に埋もれた道を進み、次の村への行軍中の数日間、ウズマサは日増しに憔悴していた。

野次馬の中ロッコの稽古に付き合ったり、ハイヤシンスをかつて保有していた貴族から土地奪還の感謝状と土地譲渡の旨の書面をみて皆で苦笑いしようと、何をしても、夜には悪夢と共にストレスが降り掛かっていた。


沢山人を斬ってきたはずなのに、何故かハイヤシンス戦以降、初々しい犬士の様に戦いの恐怖、混乱、敵意と殺意、そして殺人への罪悪感が倍々になるのに悩まされていた。


夜中天幕の下で何度も悪夢を見て、冷や汗を布でぬぐって水を飲んでばかりいた。




魔王軍により廃村となったらしい村の平たい地形を利用して連合軍で天幕を設営した後、疲れているのに悪夢のせいで不眠症になりかけた犬豪は、愛馬の(かぶら)を撫でた。


蹄鉄や身体についた汚れを落とし、餌を与えて世話されているかぶらがウズマサに身体を擦り付けるように甘えると、どこかホッとした気分になり、ロッコに内緒でカブの葉を与えた。

咀嚼する鏑を見て和みつつ、意を決して天幕下の寝床に向かい、眼を閉じる。






…。


その日は多忙だった…。


職務から帰るとウズマサの育ての親になっていた老婆サクが、食材の里芋を手に台所で倒れていた。

顔を青くしたウズマサは医僧の元にサクを運んだが、僧は首を降り、「お浄土に行かれた。」と言った。

その時の無力感と喪失感を悪夢の中で繰り返し思い出す羽目になり、ウズマサは心休まらなかった。


(なんだって、今こんな夢を?)

ウズマサはふと、夢の中で我に返った。


「ウズマサ様。」サクの声がする。

「ウズマサ様は立派になられた。ウズマサ様は良い子良い子良い子良い子…」

言われたこともない声が響きながら遠くなった。



…ブーン…ブーン…ブーン…ブーン…ブーン…



プツプツと途切れた低い音がする。

(これは?この音は何だ?)

思い立って、ふと目を開けてみるが、骨組みを布で覆った簡易テントの中だ。

(どうなっている?)

身体を起こそうとしたが、動けない。

(…なんだ?…これは、金縛り…なのか?)

指先に心を集中させる。

気を集中させると、勢いから魔素マナが身体から放出された。

(…っ!)

魔素が悪夢と金縛りを一気に振り払い、ウズマサは意図せず飛び起きた。

「はっ。」

テントの外に顔を出すと、まだ日も登ってはいない。

ウズマサは二度寝してみた。



今度は、棒を持った厳しい父ギントキにしごかれる小さい頃の…


(待てよ。)


今度は魔素を意図的に放出してみる。


悪夢が 消えた


(なんだ?)

「強い妨害波を探知。遠隔失敗。」

(この声は誰だ?)


ウズマサの内心の疑問はそこで強い睡魔にすり替わり、久々の深い眠りに落ちた。





偵察隊の見た化け物が住む村近くになると、連合軍はにわかに緊張した。

「隊長、私が空から偵察に出ようか?」

ケインが申し出た。

グウェインがとても柔軟であるだけで、プライドの塊であるディナシーは滅多にこうした提案をしない。

「宜しくお頼みします。」

ウズマサが礼をすると、ケインは霊馬を駆った。


(さて、)

ケインが空中から眼を凝らすと、偵察隊の言う通り廃村は化け物に支配されていた。

巨大な蛇らしき化け物が、子供程の大きさもある別の化け物を捕食していた。蝿の頭に蝙蝠の翼を持つ化け物が複数散見される。


と、


廃村から誰かが出てきた。口以外顔がない。見慣れない白い服を着ていた。それは白衣はくいだが、ケインは知らない。

ケインがいぶかしんでいると、『それ』がケインを見た。


それは、ゾッとするような笑みを浮かべた。


(何かマズい…!)

ケインは前に進もうとする霊馬を御して、遊撃隊の所まで逃げようとした。


バッバッバッバッバッバッ


羽ばたく音と共に、蝿頭の化け物らが一斉に襲いかかってきた。

化け物は顔は蝿だったが、太く鋭いふんがある。血を吸うのだ。


「ケイン殿が!」

「射程圏外だ。」

弓の名手アルドが、イチイの大弓を手に絶望する。


ィッーーー!


風を切り裂く音と共に、太い棒が飛んでいく。槍だ。

「あれは!?」

槍は危うくケインに当たりそうになったが、化け物に命中した。

化け物の一匹が落ちていく。

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