オーガは同族の肉を食わじ
「百人切りだ!かかってこい!」
「あの馬鹿!」
上空でどんな策かと待っていたグウェインが思わず叫ぶ。
「もう充分だ!群がるオーガを前に踊り食いになる隊長を見る羽目になるぞ!私は加勢に出る!」
「お待ちを。『騎士団長』殿。」
グウェインをケインが止めた。
「今行ってもネームレスに殺される。無駄死にです。それに、私は普段上空から皆を見ているので分かりますが、見てください。隊長の常軌を逸した戦いぶりを前にオーガが飛びつくのを躊躇し始めている。」
「…!?」グウェインはケインの言葉をうけて、静かにウズマサを注視した。
初めは群がって襲いかかっていたオーガだったが、車輪が如く辺り一面のオーガを切断し、薙ぎ倒していくウズマサの迫力を前に命を惜しみ始めた。動物的本能から、ウズマサを恐れ始めたのである。
間合いの輪が段々と広くなり、ネームレスの真似かオーガらは地に落ちた石を投げ始めた。
だが、亜音速の石を防いだウズマサの魔力にとって脅威にはならなかった。
「どうした!!オーガ共!いつもみたいに飛びかかってこい!」
ウズマサは地面に無数に落ちたオーガの腕の一本を刀で刺して拾い上げ、相手に差し出してみせた。
「それに肉ならここにもあるぞ!オーガ語は知らんが翻訳機で分かってるんだろ?食えよ。」
ゾッとするほど、ウズマサの腹から出る声が辺りに朗々と響いた。
オーガは同族の腕の前に唸るだけで、遠巻きに見ている。
「人肉が食いたくて食いたくてたまらないから、快楽から襲って殺しているのだろう。貴様らより高等らしいハイオーガから、人肉食の快楽で人を殺しているのは知っているんだ。」
ウズマサはオーガの本質に迫りつつあった。
「お前達オーガは仲間同士で食いつぶしあって、最後の一匹になるか滅びてしまえばいい。餓鬼道に落ちた貴様らを生かして見逃す理由が見当たらないんだ。」
ウズマサが喋っている間も、オーガは襲ってこなくなった。ネームレスはそんな様子を無表情で見ている。
「貴様らをこれから全員地獄に落としてやる。そこで本物の餓鬼と楽しく、地獄に落ちる亡者連中の肉を奪い合えばいい。どうした?肉が足りないか?増やしてやるか!?もう逃さんからな!?」
ウズマサの怒りは魔素のうねりとなって大気を歪め、オーガ達を動揺をさせた。
「首を落として桶で運んでお上に見せて、誉れと禄を食み、人殺しの技で生きていく。修羅の道を行くのが武者の定めなら、誰かの命を奪うためだけに自分の価値とやらがあるのか某は分からなかった。食っていく為に人を殺して、それが楽しくなればもうそれは人ではない。畜生だ。さしずめ、『俺』なら『犬』だな。某は犬人だが犬ではない!お前たちはどうだ!餓鬼道に落ちた滅すべき種族でいいのか!」
全く隙を見せないまま、説得という甘い考えを匂わせたウズマサを前にオーガは静まり返った。
すぐに一体のオーガが前にでる。
ウ、ウオ ガガ
オーガの一体が自分を指差し、ウズマサをさし、両拳を叩いた。伝えたいことがあるらしい。
「試しに喋ってみろ。ハイオーガでも言葉は通じた。オーガ語でも分かるだろう。」
ウズマサはいつも以上に懐の翻訳機に意識を集中した。魔素と翻訳機が呼応して機能が増幅していたが、ウズマサはそれを知らない。
カツ クウ マケル クワレル
オーガは単語を並べた。
「肉ならそこら中に同族のがあるぞ。何故食わない?」
オーガは耳を塞ぐジェスチャーの後、ニィ、と小馬鹿にし唇を裏返して嘲笑う笑顔を浮かべた。
「五月蝿いだけなんだってさ、ウズマサ君。」
傷の修復を終えたネームレスがヘラヘラ嗤いながら、オーガを代弁した。
「そうか。そうだよな。」
説得は失敗に終わった。
「修羅道を見せて差し上げる。」
わおおおおおおお!!
ウズマサは、本能を解き放った。




