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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
63/81

マナーナの儀式

それから数日。弱った気に乗じてネームレスからは攻めてくる事はなかった。不気味なほどに。


正規軍は悲嘆にくれ、話を聞いた遊撃隊の聖戦士達、中でものぼせていた農民達は脱走した。

脱走は捕まれば刑罰が待っている。

それでも、命がおしくて皆逃げていった。グウェインは捕まえた脱走兵について、戦力にならない員数合わせだけの者には金銭の没収だけで済ませた。

臆病風が伝染したのか冒険者でも除隊届けが殺到し、違約金の支払いを済ませた者たちは、どこか命拾いした顔をしていた。


遊撃隊によるネームレス対策会議が開かれた。

「使えるのはゴブリン、ディナシー、気合いの入った冒険者に古参達くらいか。隊長は不在だし、どうする?」

天幕の下でグウェインは苦い顔をした。これでもあれこれ手を尽くしたのだ。

「隊長はネームレスと戦うにあたって対抗手段があるとかで、サリアを連れて迷いの森に向かった。手段と得るまで長引かせないといけない。」

遊撃隊の中では傷ついた正規軍をなおそうとスノリを筆頭に僧侶戦士が全力で治療している。回復手段もないのにまともに戦えば負けるのはこっちだった。

「その対抗手段とやら、本当にきくのだろうか?」オーナが疑問を呈する。

「何であれ、今のままではやつには勝てないぜ。石を矢の如く操れるのであれば、ハイヤシンスは石垣が出来るほど岩場の多い場所だ。」

ダニエルはグウェインに負けず劣らず苦渋を舐めた様な顔をした。







ウズマサ、ダンキチ、サリアの三人は迷いの森についた。

「ウズマサにはここでマナーナの儀式を受けてもらうよ。」

サリアが森の中から、木の根と赤い実のある草、黄色い葉などを手早く用意すると、川の水を組んで、石の釜に全て入れた。


ティンダー


火口箱すら使わず釜の下に焚き火をする。

「マナーナ?」

「森エルフは子供の頃にこの儀式を経て魔法が使えるようになる。魔法や神秘を使うのは後天的なものなんだ。森エルフのシャーマン達がやっていたことさ。量は覚えているから、後はウズマサがマナーナを飲む度胸だけだね。」

釜の中の液体が沸騰し、茶色い色に変わる。


ささやき 祈り 念じて 伝わる


森エルフの秘密の言葉を経て、液体が茶色から鮮やかな黄色に変わった。

「これを飲むのか?」

木の盃を差し出された時、黄色の毒々しい液体を前に一瞬躊躇したが、ウズマサは勇気をだして、飲んだ。


とてつもなく渋く苦い。


「頑張って飲み込んで!良薬口に苦しだよ!」

サリアに励まされ、ゴクリと飲んだ。

程なくして、視界がぼやけ、ウズマサはダンキチに支えられるまま意識を失った。



マナーナ マナーナ マナーナ マナーナ…


ウズマサの頭の中で声がする。

次に瞼ごしに見えるのは両親だ。会ったこともない母親と、シュテンに殺された父親の顔が浮かぶ。

それから、今まで出会ってきた多くの仲間、敵、知っている人々、知らない人々、見知った景色や見たこともない景色が感覚を通り過ぎていく。

身体が虹色のオーラで包まれているのが、知覚として分かる。それは白くなっていき、頭頂から腹の下の方へと納まっていった。


目を開けたとき、ダンキチの迫力のある顔とサリアの微笑が見えた。

「ようこそ、僕たち魔法使いの世界へ。手に魔素マナの力を込めてみて?」

ウズマサは身体を起こす。

何となく試しに気を込めてみた。白いモヤが手から出て驚く。

「この白いモヤは?」

「それは正確には魔素(マナ)が変化したものだ。上手く使えば弟ほどではないけれど、地火風水を扱えるようにもなれるし、飛び道具だって避けれる様になる。」

「つまり、石つぶてが効かなくなる、と?」

「そう。ダンキチにも飲んでもらったよ。キミより順応早かった。流石僕のだーりんだ。好き。」

「御主人様。魔法は道すがらサリアちゃんが教えてくれるそうです。急ぎませんと。」

「ああ。」

ウズマサは頷いた。

「ネームレスとは決着をつけねばな。」

「できれば、殺さないでほしい。僕の弟なんだ。本名はフロノス・ギルミア。魔王に味方してる時点で、おそらく自分のことさえ忘れてしまってる。」

「分かってる。」

ウズマサは繰り返した。

「分かってるとも。」

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