かまいたち
完敗したウズマサが脳震盪から覚めると、アクルサスの山城の自室にいた。
「目覚められましたか?サー。」
ロッコの言葉にウズマサが、頭を押さえながら起き上がる。顔や身体の傷は癒やしの術で治ったらしい。
「他の皆は?」
「皆、治療を受けてます。貴方が一番怪我が酷かった。」
起きてみて、鎧直垂でなく貴族の白シャツとホーズという格好をしていることに気づいた。
「御主人様!」
ダンキチが心配そうな顔でかけつける。
「サリアちゃんが言ってました。小石や土が音が響くのと同じ速さでぶつかることで、身体が切り裂かれたんだと。オラにはサリアちゃんの理屈は分かりませんでしたが、矢傷の様に深く小石が身体の中に食い込んでて、取り出すのが大変でした。眼をやられて失明してなくて良かった。」
ダンキチは顔を布に押しあて、涙を堪えた。
「直垂は?」
「鎧直垂なら、オラが下に布を当てて上から縫い付けて修繕しました。見栄えは悪くなりましたが、着れるまでになりました。」
「そうか。」
ベッドからでて、身体の具合を確かめる。傷跡は塞いでおり、顔には触る限り大きな傷跡はなさそうだ。
「某にもよくわからんが、かまいたち、という妖怪がいたな。」
夜な夜な身体に切り裂かれた跡が残り、不可思議に思った犬士が隕鉄銀で突風を切るとイタチが三匹、棍棒と鎌と薬を手に死んでいた。薬はよく効く傷どめに使われ、極めてよく切れる鎌は家宝となったという。
「気づけば身体を風が切り裂く、あれだ。あれを作り出すのだとすれば、ネームレスとかいう男は厄介だぞ。鎧を着ていても眼や顔や鎧の隙間をやられる。何より、接近する前に吹き飛ばされてはかなわん。」
サリアが部屋にやってきた。
「ここまで強い魔法を使えるのは、多分森エルフだけ。そして、その男は、僕の弟しかいない。」
サリアが肘に手を当てた。
「実はもう、森エルフと呼べるのは僕の家族しか残ってないんだ。長く生きすぎて皆狂気に陥り、最後の集落でバラバラになって、それで、まとまっていたのは僕の家族くらいだった。前にも言ったけど、弟は魔素を扱う魔力が強くて、モンテンノーザとの戦いにも従軍したんだ。そのことで家族が揉めて、バラバラになってしまった。」
「サリアの家族と言うことは、」
ウズマサの悪い癖がでた。
「味方になるかな?」
「その調子。まるで将棋ですね。御主人様」
ダンキチがそういって笑う。
「交渉に乗るような弟かな。僕には変わりきった彼がどうでるか予測不能だよ。」
サリアの悲しい視線に、ダンキチが胸をドンと叩く。狸の腹鼓とはいうが、ダンキチの胸鼓だった。
「大丈夫だ。御主人様は敵対するゴブリンを種族ごと味方になさったし、何かと人望があるお人だ。きっと何とかしてくださる。」
「それを眼の前で言うか。」
ウズマサは苦笑いした。
「次はハイヤシンスで待つみたいなこと叫んで去って行きました。」
「ハイヤシンスか。」
ウズマサは拳に顎をのせ、思案したが、考えがまとまらない。
「僕に考えがある。もし、弟に勝ちたいなら、迷いの森まで行かなきゃ。」
「某はハイヤシンスまで行かなくては。」
「駄目駄目。挑発に乗っちゃ。罠か策があるに決まってるよ。」
ウズマサは遊撃隊に待機命令をだした。




