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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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かまいたち

完敗したウズマサが脳震盪から覚めると、アクルサスの山城の自室にいた。

「目覚められましたか?サー。」

ロッコの言葉にウズマサが、頭を押さえながら起き上がる。顔や身体の傷は癒やしの術で治ったらしい。

「他の皆は?」

「皆、治療を受けてます。貴方が一番怪我が酷かった。」

起きてみて、鎧直垂でなく貴族の白シャツとホーズという格好をしていることに気づいた。

「御主人様!」

ダンキチが心配そうな顔でかけつける。

「サリアちゃんが言ってました。小石や土が音が響くのと同じ速さでぶつかることで、身体が切り裂かれたんだと。オラにはサリアちゃんの理屈は分かりませんでしたが、矢傷の様に深く小石が身体の中に食い込んでて、取り出すのが大変でした。眼をやられて失明してなくて良かった。」

ダンキチは顔を布に押しあて、涙を堪えた。

「直垂は?」

「鎧直垂なら、オラが下に布を当てて上から縫い付けて修繕しました。見栄えは悪くなりましたが、着れるまでになりました。」

「そうか。」

ベッドからでて、身体の具合を確かめる。傷跡は塞いでおり、顔には触る限り大きな傷跡はなさそうだ。

「某にもよくわからんが、かまいたち、という妖怪がいたな。」


夜な夜な身体に切り裂かれた跡が残り、不可思議に思った犬士が隕鉄銀で突風を切るとイタチが三匹、棍棒と鎌と薬を手に死んでいた。薬はよく効く傷どめに使われ、極めてよく切れる鎌は家宝となったという。


「気づけば身体を風が切り裂く、あれだ。あれを作り出すのだとすれば、ネームレスとかいう男は厄介だぞ。鎧を着ていても眼や顔や鎧の隙間をやられる。何より、接近する前に吹き飛ばされてはかなわん。」


サリアが部屋にやってきた。

「ここまで強い魔法を使えるのは、多分森エルフだけ。そして、その男は、僕の弟しかいない。」

サリアが肘に手を当てた。

「実はもう、森エルフと呼べるのは僕の家族しか残ってないんだ。長く生きすぎて皆狂気に陥り、最後の集落でバラバラになって、それで、まとまっていたのは僕の家族くらいだった。前にも言ったけど、弟は魔素を扱う魔力が強くて、モンテンノーザとの戦いにも従軍したんだ。そのことで家族が揉めて、バラバラになってしまった。」


「サリアの家族と言うことは、」

ウズマサの悪い癖がでた。

「味方になるかな?」


「その調子。まるで将棋ですね。御主人様」


ダンキチがそういって笑う。

「交渉に乗るような弟かな。僕には変わりきった彼がどうでるか予測不能だよ。」

サリアの悲しい視線に、ダンキチが胸をドンと叩く。狸の腹鼓とはいうが、ダンキチの胸鼓だった。

「大丈夫だ。御主人様は敵対するゴブリンを種族ごと味方になさったし、何かと人望があるお人だ。きっと何とかしてくださる。」

「それを眼の前で言うか。」

ウズマサは苦笑いした。

「次はハイヤシンスで待つみたいなこと叫んで去って行きました。」

「ハイヤシンスか。」

ウズマサは拳に顎をのせ、思案したが、考えがまとまらない。

「僕に考えがある。もし、弟に勝ちたいなら、迷いの森まで行かなきゃ。」

「某はハイヤシンスまで行かなくては。」

「駄目駄目。挑発に乗っちゃ。罠か策があるに決まってるよ。」

ウズマサは遊撃隊に待機命令をだした。

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