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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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チートとの遭遇

その男は森エルフだ。

不死を利用して身体を鍛えすぎて、歳月を忘れた。

少年と男とを繰り返す肉体を全て筋肉に回し、無駄な贅肉を落としたまま、美しい肉体を作り上げてきた。

戦場にでて、力を試し、傷を受けるが、無限の歳月はそれすらも消し去った。森エルフは身体を欠損しても、特別な癒やしの術で肉同士が身体に食いつけば、無限の時間によって再生した。

病気も殆どかからず、首でも切られるか心臓を止められるかでもしない限り生きている森エルフの凄まじい生命力を、暗い力として謳歌していた。


「私は、美しい。」


完成された肉体美を、曇ることなく磨いている青銅の鏡に写す。

月日が経つにつれて白くなった髪に青い目と妖しげな唇からは吐息がもれる。



死なない程度の刺激、冒険。

それは狩りという名の命をもて遊ぶ遊戯。

600年前、男は闘争を求めて森を出た。モンテンノーザの正体を知り亡き者にしたが、それについて最早語る者もいない。

定命の呪いを受けた者達が平地エルフとして子々孫々まで続いているが、森エルフに生き残りがいるとは思えない。

多くの戦争をみては戦いに惰性的になり、どこかに隠遁して無限の生に甘えようかと思った時、シュウ・モンテンノーザにもう一度会った。

魔王は全てを理解し、全てを知った上で自分を勧誘した。男はそれに乗った。


男はネームレス・チート。

本名は無限の過去に忘れた。

ハイウルグから恭しく渡された報告書簡に目を通す。


「ベニータちゃんの部隊がやられるなんて、興味あるね。遊びにいくか。」


暗黒領から、男は占領した城から単身馬に乗り出撃した。



グウェインがハーフソードの技術と、ウズマサが介者剣術及び素肌剣術の技法を伝授すると、ロッコが日に日に逞しくなるのを感じ、ウズマサは顔がほころぶことが増えた。

ウズマサは教師として、実例をみせて型稽古し、最後は寸止めの木剣試合をやって戦い方に問題がないか確認する丁寧な指導をしていた。

先端に布を当てた長柄の武器を槍に見立てて、槍を制する技術も訓練した。

ダンキチに頼んで、ウズマサ自身とロッコと三人で杖術の訓練をした。その場にある棒一つで敵対する相手を倒す術に外れはなかった。


一方で、書類仕事を一通り終えたウズマサにとって大太刀を中心としたフジノカタを研鑽することを忘れてはいなかった。

ハーフソードの動きに刺激を受け、ホクシンナナホシ流の練るような剣閃に峰に手を添えたり指で挟んだりするなど動きと発想をかえた。


東洋も西洋も、極めようとすれば奥が深い。


と、感慨に浸っていた。




だが、夕方、見張りの兵の叫ぶ声を聞いた。


「なんだ!あれは!」


ウズマサが声を荒げる兵士達の所へ急ぐと、遠くからでも分かる馬と夕日に染まる姿に目を奪われた。

馬の頭に金の飾りがえられており、馬上の男は、毛皮のマント、皮のズボンに革のブーツを履いている。指ぬきの革の手袋はチートの趣味だ。指を切断される度に治ってきた。


上半身は筋肉が鎧とばかりに裸だ。夕映えに裸マントだった。


「犬頭のウズちゃんというのはどなたかな?」


風にのって、囁くような甘い声が響き渡る。

「この声、魔法か。」

ウズマサはベニータを思い出し、戦慄した。

「某は、ミナモトノウズマサだ!ウズちゃんなどと呼ぶな!」

声を荒げて叫んでみた。

男は手を上げて振った。まるで旧知の中の様に。

「何者だ!名と目的を述べられよ!」

「怒鳴らなくても聞こえてるよ?わたくしはネームレス・チート。そちらでいえば魔王代理の一人さ。以後お見知りおきを。目的は、そうだね、君と闘いたい。」

「闘うだと?」

「そうさ。腕比べしようじゃないか。早くおいで。」

目的は分かったが、ゾッとするほど底が知れない。だが、逃げる事を選択するようなウズマサでは無かった。

「いいだろう。支度するから待ってろ!」

ウズマサは直垂姿だったが、自室に戻ると、大急ぎでギャンベソンを着てチェインメイルを着て、脛当てをつけた辺りでロッコが駆けつけ、小手と脇楯だけをつけた小具足姿になる。(ゆがけ)でなく革の手袋をはめた手でロッコの肩を軽く叩き、言ってくると伝えると、ロッコからご武運をと返ってきた。


カブラに乗り、駆ける。


着いた。


支度する間に遊撃隊の冒険者達が先に駆けつけていたが、昏倒して地面に倒れていた。

「貴様がやったのか!」

ウズマサはキレた。

「遅いから遊んでしまったよ。」

チートが指でくいくいと手招きした。

ウズマサは大太刀を回し抜きするなり素早く胴を突いた。

「おっと。」

突きをかわされた。


ワウッ!


避けにくい低い軌道での胴への横薙ぎを、ネームレスは何と両手で刃を挟み込むように受け止めた。

「なんだと!?」

「素晴らしい太刀筋だ。さて、」


「私の番だね。」


フッ

ネームレスが手を横にないだ。

空気が切り裂く力に変わり、ウズマサは身体を切り裂かれつつ、後ろに吹き飛び、派手に転げまわった。


ウズマサが立ち上がろうとする。


あっという間にチートに間合いを詰められると、ウズマサの顔面が蹴り飛ばされた。

「ブッ」

鼻血が飛び、意識まで飛びかけた。

一瞬自分がどうなったか分からなくなったが、無念無想の境地で大太刀を振った。


ブンッ


大太刀は空を裂き、チートの感心したような、へぇ、という声だけが頭の中に響く。


倒れるウズマサに、見張りが呼んだのか、グウェイン達ディナシーと残りの遊撃隊、それに正規軍が駆けつけてきた。

「頭が揺らいでいるのに、その曲がった剣を離さないなんて、根性があっていいじゃないか。遊びがいがありそうだ。」


気絶した相手を殺すのは勿体ない。

やはり楽しみは一番美味しいときにとっておくものだ。

軍を皆殺しにして、デザートに大将のウズマサを殺すことに決めた。


これは楽しい狩りになる。

「この先のハイヤシンスで待ってるよ!皆来てね!」

やってくる騎馬隊に風の(シルフ)で声をかけ、馬で去っていった。

陸騎士とディナシーは追いかけたが、チートの乗っている馬が普通の馬では速すぎて追いつけず、チートは近くの林の中に入ると、日が暮れて行方が分からなくなった。

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