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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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魔王代理ベニータ 3

ウズマサが罠にかかっている間に、案じたスノリが後方の都市に伝達の馬として、自分が乗ってきた馬にミランを乗せて送った。


「敵は多いが、四角鶴翼の陣から攻撃を開始する!いつも通り太鼓の指示を間違えるな!散兵が多いから味方に穂先を向けない様に!」

マグがファランクスに怒鳴る。


「行くぞぉー!」

「「応!」」


オーナから勇者の称号を得たマグの言葉で、ファランクス隊が行軍を始めた。


鶴翼の陣。鶴が翼を広げるようにVの字に展開し相手を両翼から包囲していく陣形と言われている。


その変法として、中央に四角く並んだファランクスを中心として両翼に短弓隊、ホブゴブリン隊やダイヤウルフ隊、それに数は少ないがナイトの称号をもつ、正規軍から入隊したエルフのグレゴリー騎士団が「ハ」の字を何度も綴るが如く展開し、矢の尽きた弓隊を下げ、壊れやすい木の盾をやめ薄い鉄の盾にかえ長槍を手にしたゴブリンファランクスが平原を踏み荒らしずんずんと進んだ。


ウズマサが読み書きの漢字を学ぶとき、父親が中央大陸の書物を訓読みで利用し、その中に陣形についての書があった。

犬士を集めて陣を組むことはなかったが、フジとも陣形談義をしたことがある。

机上の空論も多いが、陣形を組んで試しに戦ってみたところ散兵のみの戦闘より死傷者が少なく、有効性があった。


敵は今までより数が多く、統率がとれている。


敵の合図の角笛が響き、両手に槍をもった部隊が三方向から小さな遊撃隊に向かって包囲しようと攻めてきた。


ドンッドドンッ ドンッドドンッ

ディナシーのケインが大太鼓で上空から陣形ごと移動する合図を送る。


グウェインが上空から戦況を見てゴブリンを操る役目をケインに与えた時は最初不名誉だと反発したが、名誉小隊長としてゴブリンを上からまとめるポジションに今は満足していた。


『歩ませるもの』『空の軍師』ケインの抱えた大太鼓を元に、囲んできた相手に合わせ、正方形の陣じわじわ槍の向きを変えながら、右回転して菱形をとらせた。



冒険者と聖戦士は散兵として両翼につき、槍同士がついに突きあった。

革や布鎧のゴブリン達は槍に貫かれないように盾で防ぐ。敵は鎧にまかせて両手で槍を操る。


ワァァァ!


「ダグザ騎士団!騎馬隊を蹴散らすぞ!」

副隊長兼騎士団長のグウェインが叫ぶ。

ケイン以外のディナシーが空からの馬上のハイウルグをランスの突撃で強襲した。


ハイウルグ騎馬隊の投槍や短弓の矢を見事に回避し、あるいは鎧ではじいて物ともせず、ハイウルグ騎馬隊の多くが上からのランスをうけ即死し、ディナシーらはそのまま剣や手斧やトゲだらけのモーニングスターを手にすくい上げるように残りの騎馬隊を攻撃した。


ディナシーが横や回り込んでの騎馬や騎馬弓攻撃に弱いファランクスの弱点を補っていた。



ゴブリン隊が死傷者をだしながらどんどん後ろを詰めて角の丸い五角形をとっていく。



「おらおらおらぁ!」


傭兵で冒険者で聖戦士なダニエルが、ハイウルグの血液である黒土や赤土の様な泥を浴びながら、包丁が穂先についたようなグレイブを振り回す。

「お前ら!給料以上に働け!」

部下を叱咤する。

「それなら、ボーナスも頼む!」

ハイウルグの頭に戦斧を叩きつけて、ヨハンが歯を食いしばったような笑顔を浮かべる。

「戦士の闘いを見せてやれ!」

金属鎧に有利な戦鎚を手にしたアヒムとクリルが剣を手にしたハイウルグ達に凶暴な笑顔で突っ込んだ。



ビョオオオオオ!

皆が鼓舞される遠吠えの型と共に、矢を抜き治癒した穴あきの鎧姿のウズマサが藤一文字を八相に構えて突撃していた。


長槍を一閃で切り取り、剣に対しては先に制するかパインドさせては相手を膾切なますぎりにし、殺到する敵を次々討ち取ると、刀を前につきだした。


「臆するな!」


「相変わらず無茶苦茶な強さだ!」

弓を肩にかけ片手剣と家紋入りのヒーターシールドをもったステフが感心する。


「矢で穴空いてる隊長に負けるなー!」

ダニエルが皆に叫んだ。



スノリについてきた聖戦士は様々だった。武装し片手剣を握るものから、兜だけ被って農具を改造したフレイルや鎌を持つものまで。

ピンキリだが、多少怪我しても僧侶戦士の治癒があるのと死ねば天国にいけると信じる狂気とが、彼らをどこまでも無謀にした。



全体的にウニの形で敵陣左翼を突破した陣形をみて、ケインが右翼を討つように合図の順番を組み立てて叩こうとする。




そこで、怒涛の蹄の音に気づいた。

後方を見ると、紋章付きのカイトシールドを持った鉄兜にサーコート姿の陸騎士(エルフナイト)隊が槍を手に大群でやってきていた。

正規軍の加勢である。


遊撃隊の何倍もの大きさの叫び声が聞こえ、弓と槍で武装した歩兵が早足で駆け、後ろから将軍の下の階級であり、実質総指揮をつとめる中将が遠く奥にみえた。


おっとり刀の正規軍が慌てて駆けつけてきた。


「…ふん。負けるのが怖くて、数を比べて遥かに少ない遊撃隊の背中に隠れてるくせに。」

ケインが上空で言葉と裏腹にニヤッとする。戦況がこれで決定的になったかもしれない。


「えー、いがーい。あれだけ重武装させたのにマジで負けそうなの!?」

ベニータは負けても楽しそうに笑った。否、嘲笑った。


「遊撃隊ぐらい、私一人でも全力だせばイケたかなぁ。ま、楽しみはとっとくに限るよね。またね、ウズちゃんにイケオジさん。今度は二人の首をもぎもぎしてあげるから。」

孤影を踏んで、ベニータは暗黒領へと去った。

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