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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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ヨハンの考察 サリアの恋愛

ヨハンは部隊に入るなり、使える配下の茶髭アヒムと黄色髭クリルを駆使し情報収集を始めた。

情報こそ糧であり、情報こそ武器であるとヨハンは信じていた。


最初はドワーフを険悪にみるかと思いきや、酒豪であるドワーフと酒につきあわないだけで、後は誰もがフレンドリーな態度を皆見せていた。

ゴブリンから片手を上げて挨拶されたときは、思わず手斧の柄に手を触れたが、本当に親しんでいるようで驚いた。

程なくして、隊長のウズマサだけでなく、ゴブリンにはオーナ首長が、エルフには聖者スノリがついているからだと判断した。


資金もパトロンのいるウズマサだけでなく、スノリが引き続き莫大な寄付を受けていた。


ヨハンがスノリを調べたところ、スノリは寄付金を部隊の食料代、武具とメンテナンス代、転戦に必要な様々な運搬代、馬代、薬品代などに全て費やし、そして重傷者に惜しみなく治癒術を使い体力をすり減らし、

三食を部隊の隊員炊き出しの豆のスープを皆と食べ、夜は寝る前の楽しみに木のジョッキのぴったり三分の一だけこっそりワインを飲んで寝る生活を続けていた。


(人生一度しかないのに、何故あんな禁欲と無私の心で、誰にでも奉仕の精神でいられるんだ?寄付金で多少贅沢しても女神の怒りなぞ買わんだろうに。)


ドワーフは僧侶まで即物的だ。王が所有し、王権の象徴とされる美しくカットされた宝石『太陽の心臓』を信仰する者もいれば、願い事にリターンを期待するリターン教もある。


良く言えばリアリスト、悪くいえば唯物論がドワーフの世論にあった。

死ねば民は土に還り、王族や貴族だけ一応、生前の姿の像が蓋に刻まれた石棺の中に入る。

祟りや呪いは信じず、魔法の類いも現実的に確からしいから存在を認めているが、そんなあやふやなものを使う人間の気がしれない。



ウズマサという人物もヨハンの常識からみたら不思議だった。


有力貴族ハンフリー・ダービーへの手紙を早馬が受け取るのを見たが、貴族とのパイプを誇って増長せず、隊の末端の問題にまで自ら動いて気を配る。

ヨハンが剣の腕でお世辞を言うと、自分の実力を常に謙遜していて頼りないのかと思えば、副隊長の勧めで木剣勝負を挑んだ所、その実力は数々の決闘と戦争に勝利してきたヨハンをして舌を巻く。

さらに、自分の技を鼻にかける武人は掃いて捨てるほどいるが、ウズマサはヨハンの一撃必殺のドワーフ流の技術を褒めて盗もうとした。技に貪欲な勉強家だ。

聖戦士を気取る新参者に「部隊法を厳しく守れ!できなければ誰でも死罪があり得る!」と情け容赦のない険しい顔で吠える一面もあるが、ゴブリンを味方に取り込んだのは情けを感じたからだという。


(それにしても、もっと野心を持つべきだ。私なら末端など気にせず貴族に取り入り、実績を重ね爵位を狙うぞ。)


ヨハンはどこかカルチャーギャップを感じていた。







サリアはお洒落がしたくて六世紀も着ていた毛皮を脱ぎ、風呂に入った。

そして、赤のシャツとタイツと半ズボン姿のサリアはダンキチにもふもふしながら、甘えた声で尋ねてみた。

「ねぇ、だーりん。」

「なんだい?サリアちゃん。」

「だーりんは胸の大きな女の人が好き?」

「オラはサリアちゃんが好き。」

「もう、だーりんったら。はぐらかさないでよ。」

サリアはふとシリアスな顔をした。

「僕は何度も大人になったから知ってるけど、スレンダーな身体で胸の大きさに自信がないんだ。」

まだ子供の胸に手を当てて複雑な顔をするサリアに、ダンキチは笑顔で応えた。

「サリアちゃんのことは何でも好きだ。」

「死ぬまで好き?」

「死んでも好きだ。一生サリアちゃんのことを愛してみせる。添い遂げてみせる。誓うだ!」


自分の胸をドンと叩いたダンキチに、サリアは何もかも打ち明けようという気持ちになったが、スノリの言葉が重くのしかかっていた。

(もう、過去は過去と割り切るしかない。けど、)

「僕は秘密が多い女だよ。」

「構わね。」

「初めての恋なんかじゃないんだよ?」

「全然問題ない。」

「夫も養子の子供もいたけど、僕を置いて皆死んで、黒い未亡人(ブラックウィドウ)と石を投げられたこともある。」

「だからどうした。サリアちゃんに石投げてくる奴がいたらオラが成敗してやる。」

「どんどん大人になった後、どんどん子供の姿に戻っていって、一緒に皺くちゃになれないんだよ!?」

「オラの奥さんがいつまでも若くて別嬪さんで何故悪い。夫の約得だ。」

「僕を、僕を、置いていかないで。」

「応とも。添い遂げるだ。」

「ダンキチ!」サリアは強く抱きしめた。

「サリアちゃーん!」ダンキチはサリアと頬を寄せ合った。




大人の姿になる度に、沢山の恋をした。愛し合った。

そして、相手は寿命や様々な原因で死んだ。

恋人の死体の山で自分だけが生きている。

神のように長く生きても、恋人の、夫の、家族の死に目に必ずあって、泣いて懲りて二度はないと何度も何度も決意しても、また誰かを好きになってしまう。愛してしまう。


ならば、莫大な経験という傷を捨て、一目惚れした方が良いではないか。


何度も終わらせようとした自分の人生に終わりはないが、相手は寿命があるのだ。

だから、人生計画なんて無意味だ。

だから、打算でなく、直感のみで恋をする。

森エルフは生育期と若返り期を繰り返し、年によって恋の仕方、愛の仕方を変える。

生育期特有の恋の始まりは、青かった。

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