恋
遊撃隊に、やたら重い足取りで分隊と捜索隊が帰ると一同はウズマサに報告に行った。
「隊長、只今帰りました。」ダニエルはげっそりした顔で天幕の中に入る。
「お疲れ様。顔色が悪いが、どうした?ドグ達は見つかったか?」
「はい。ピンピンしてます。これみて下さいよ。」
ダニエルが天幕の入り口をめくって指差すと、ダンキチとダンキチの腕にひしっと掴まったサリアと、妻の自慢話をしているドグの姿があった。
「こうして、巣穴の一つ藁の下で眠った、と。妻といると最高の幸せを感じるよ。」
ドグの何度目か分からないゴブリン語での馴れ初めに、サリアがコクコクと頷いた。
「僕達もそうなろうね、だーりん?(はぁと)」
「うん。サリアちゃん(はぁと)」
「よく分からんが、ダンキチに、ダンキチに、春がきた。」
ウズマサが呟きを漏らす。
「もう帰りの道中、ずーーーっとあの調子でさあ。ダンキチの隣の娘は森エルフのサリアさん。何か神聖種族がどうより、ど田舎の村の娘っ子、て感じだわな。」
ダニエルが、あーあと肩をすくめた。
「迷いの森だかを抜けるときは色々躊躇していたようですが、ダンキチの腕とってついてきましてね。ダンキチから予備の翻訳機を貰って、添い遂げるとか言ってからああです。驚き桃の木青天の霹靂ですよ(適切な日本語翻訳がない)。」
「御主人様ぁ!オラ今幸せー!」
ウズマサを見かけたダンキチが右腕を上げると、左腕を掴んでいるサリアまで手を上げた。
「隊の村出身のエルフはビビって印を切るし、坊主は皆祈るし。まったく。」
「まぁまぁ。皆が生きて無事なら良かった。」ウズマサは微笑んだ。
「森エルフを是非、リファールの大聖堂に預けましょう。」
スノリ以外の僧侶戦士で緊急会合が開かれ、天幕の下でイアンが提案した。
「我らが女神の実在と絶対性を証明する貴重な機会です。」
「イアン殿に賛成します。彼女が証人として修道女にでもなれば、教会の権威は絶対になる。それは教会だけでなく法王や我々全体の絶対性を高めることになるのです。」ニコラが印を切った。
「最早、賭博という外道で儲ける必要もない。王族も動くし大貴族からの寄付だけで円滑に運営できるようになる。赤貧派や慈善派を束ねた、我々と違う道をいくあの教皇も潰せるし、一石二鳥が狙えるな。」ヤンルは宗教家らしからぬ陰謀と皮算用を行った。
スノリは早速、サリアをテントに招いて話を聞いたが、全ての物事の根本を打ち崩す事実の数々をサリアから聞いて、腰が抜けた。
「そんな、まさか。…駄目です。このこと、これらのことは絶対に他に漏らしてはなりません!」
腰抜けたまま、這うようにサリアの両肩に手を添える。
「なぜ?」
「聞けば、皆正気を失います!貴女も殺されてしまう!絶対に!絶対に言ってはいけません!私も墓までといわず、たとえ審判の日がやってきても、この秘密を永久に伏せます!いついかなる時も永遠に秘密です!良いですね!」
肩を揺さぶりながら、必死の形相で語るスノリの姿をみて、まだ社会は成熟していないし、森エルフはそれ以外の種族とは永遠に分かり得ないことを悟ったサリアは、哀しげに首を縦に振った。
「分かった。アルテミスのことは僕が死ぬまで永遠に秘密だ。永劫でも早すぎる事は、よくあるもんね。」
「そうです!名前を知ってはいけない御方の名前と秘密を、私は知ってしまった!しかし、それなら何故、私の身に奇跡である治癒術が使えるのか?森の中で聖者の輪が顕現したといわれるのも不思議です。」
「その答えは喋ってもいいの?」
「絶対駄目です。貴女の過去のことも、貴女が経験したその事実も、貴女の特定の知識も、誰にも話してはなりません。沈黙は金です。」
「金ってあのキラキラしたやつ?でも、それって『無価値』って意味かな?」
「沈黙は木にとっての花ほど価値がある、です。」古エルフ語でことわざを言うと、ふーん分かった、とサリアが返した。
「まさか、形而上学的と思えた質問にも『絶対の答え』があるなんて。私でも狂気の底に落ちていきますよ、サリア様。自ら命を絶つことを禁ずる教えを説く私でさえ、生きることを拒否してもおかしくなかった。他の人に聴こえてなくて良かった。」
「さんから様にかしこまって聴こえるね。翻訳機でわかるけど、僕に畏まっても無意味だよ。だーりんの所に戻っていいかな?」
「生きる上で役立つ貨幣経済と社会生活の基礎を教えますので、それからお会い下さい。」
顔が一瞬でやつれても、スノリはキッパリと言い放つ。
スノリは善意の塊だった。押し付けるほどの。
「だーりん(はぁと)」「サリアちゃん(はぁと)」
「ダンキチ、五年後の嫁ができたな?よかったよかった。」
ウズマサまでニヤけると、サリアが頬を膨らませた。
「五年なんて短い時間どうでもいいけど、ダンキチは直ぐに僕のお婿さんになる人だよ。そして、今は恋人だ。僕達森エルフは殺されない限り、ある一定の年齢幅で子供と大人を永遠に繰り返す不死の種族なんだ。」
「え!?今、お幾つですか?」
ウズマサは背の低い女性は沢山見てきたが、子供の姿をした年上に初めて会った。
「過去の事は、言っちゃいけないんだってさ。」
サリアは舌をだすと、頭以外の毛が薄い犬人と違って皮毛が深く暖かい狸人の肩に擦り寄り、濃い茶の毛並みを頬で楽しんだ。




