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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
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賭博狂想曲

ドンウク達を見送った朝、オーナはむくれていた。

「自由にできる金があるなら、ワタシもウズマサに賭けたかった。」誰もいない天幕で愚痴をこぼす。

そして、日にちが経つにつれて、賭博は部隊で大問題となった。


ゴブリンは賭博は当初ピンときておらず知らなかったが、戦場で平地エルフに毒されたのか賭博だらけになった。

特に喧嘩は恰好の賭場だった。賭け金の額をいい、喧嘩する二人の分が揃えば賭けが簡単に成立したからだ。

宵越しの金を持たない傭兵は、どんな賭けにものった。火に油が注がれ、商人隊が商売にやってくる度に、金を持つもの持たないものが激しく変動していた。

ゴブリンも従来の裸に腰布から、ゴブリン用に袖丈を短くしたチェインメイルに兜に盾に剣といった重装備の勝ちゴブリンがあらわれた。彼らの多くが田舎の住処を追われ、オーナを頼ってやってきた若いゴブリン達であり、その装備の充実を揶揄してホブゴブリンと呼ばれた。


僧侶は過剰な賭博を止めつつ、サイコロやカードやその他の賭博を一手に引き受けることでコツコツと教会に金が流れ、胴元資金なる収入が出来た。

遊撃隊の行く村々で好き者を集め、カードやサイコロの賭場が開かれ、農作物や貨幣が激しく動いた。


そのうち、食料の相場が賭けによって変わった。隊のモラルは低下したが、武器や防具を売って素寒貧になるのは隊の規律として厳しく禁止した。


「そら、王冠が揃った。この勝負俺の勝ちだな。」グウェインは賭博に強かった。知恵が回り、カードゲームで相手を次々負かせていた。

「団長。じゃなくて副隊長、カード強すぎます。」ディナシーのディアインが思わず昔の呼び方をしてしまった。

「全くだ。イカサマもしてないし、強いカードになったときの駆け引きも、弱いカードでの損切りも、何もかも上手すぎる。皆の金無くなるゴブ。」やってられないとゴブリンのガブが首を振る。

「まぁ、隊長が人格者なら、副隊長は手加減ない冷たいお方でバランスとってるのかも知れませんがね。糞っ。」ステフが負け惜しみを言った。

「俺の一人勝ちか。勝ちすぎるのは問題だから、勝ち逃げさせてもらおうか?」グウェインは静かに微笑むと賭け金を自分の金貨袋につめた。

「あ、ズルい!」ガブが声をあげる。

「やめるとは言ってませんよ!」ディアインも憤慨する。

「貴方が逃げたら、今晩はふかし芋一つしか食えない。」食事代を賭けてしまったステフは泣き落としにかかろうとする。

「ステフ殿はコツコツ戦働きで家の借金を返すべきですな。では。」心中ルンルンとグウェインは簡易テントを出た。


「隊長殿。部隊内で『違法』賭博が横行し、隊の規律が乱れています。」僧侶戦士のイアンがウズマサに進言した。

「逆に、合法の賭博とは?」

「無論、我々教会の人間が開く賭場です。熱くなりすぎても暴力や刃傷沙汰になりません。部隊の中での殺傷事件のほとんどが賭博に関するイザコザが原因ですし、聖書には書かれていませんが、月の女神は本来賭博をお許しにならない存在なのです。分かりますか?」イアンは教師の顔をした。

僧侶戦士らは、有名人になったウズマサに文字を教えるだけでなく聖書をより深く教え、月の女神と平地エルフの重要性を説いた。

ウズマサは阿島の古い八百万やおよろずの神々を信仰していた。民族的宗教の思惑の強い月の女神も八百万の神に含めるが、洗礼をうけるつもりは無かった。

「成程。では、賭博禁止令でも出すか。賭博は僧侶の元で行う。カードやサイコロ賭博は…。」

「隊長。僧侶の言うことに耳をかしなさるな。」グウェインは聞き耳が強く、慌てて隊長のいる天幕に駆けつけた。

「教会は賭けの元締めとして充分儲けている。私的賭博を禁止しても隠れて賭場を開き、違法賭博とやらをするだけだぞ。」

「賭博に罰金を課せば、隊全体が潤いますぞ?」僧侶に舌戦を挑むのは無謀だった。

「自分で言うのもなんだが、俺達は荒くれ者のごろつきと呼ばれて仕方ない一面がある。」

「その握りしめた袋が説得力を持ちますねえ。」

「うるさい。私が危惧しているのは、ごろつきの中で最悪な無法者連中が違法賭博で儲けて助長することだ。遊撃隊も大所帯になり、『遊撃村』『遊撃の巣穴』などと茶化す声が多く出ている。」

「村は兎も角、巣穴?」ウズマサは疑問符を浮かべた。

「兵の比率ではゴブリンが多いからな。かくまうゴブリンやエルフの傭兵が増えると、規律が揃っていても犯罪を犯す。隊の中に死罪になるものも沢山いる。知っているだろう。」

「ああ。」ウズマサは苦労している顔で頷いた。

部隊は肥大化し、僧侶が秩序の為に部隊内法律を定めた。オーナはゴブリンにとって絶対であり、オーナが定めた規律を驚くほど守る者が大多数だったが、エルフの傭兵はそうとは言えなかった。

「貧乏に苦しむ者がギャンブルで潤うこともある。聖書とやらの教えなら、隊長に頼らず僧侶戦士が呼びかけ、教会で責任を持つべきだ。」

「貧乏人の多くが負けるのに、よくそんな詭弁を並べますな、副隊長!」イアンは腰に拳を置き、指で相手を指した。

「罪作りな事をおっしゃいますな!違法賭博で死罪が増え、それで死刑執行する首切り役の立場と負担を減らすべきだ。」

「普段首切り剣を見ることもない僧侶が、首切り役を引き合いに出すのは問題ではないか?それに最近は首切りだけでなく、梟首おうしゅが効いて犯罪をわざわざ犯すものも減ってきた。木に吊るされた首を見てな。」

「…。あの『吊るされた木』のエルフの首の群れはもしかして…。」

「そうだ。首を台に並べるより見た目が衝撃的だろう。隊の規律のためどうしてもせざるをえなかった。」

「としても、あれはゴブリンの数が少ないですな。彼らがズラッと並ばないほうがおかしい。」イアンは抜けた事を言った。

「神の代理の言葉より、首長の言葉の方が重いと言うことでしょう。」

「ディナシーのくせに何と不敬な!失礼する!」

怒りに身をまかせたイアンは天幕から去った。

「舌戦をやったら負けるからな。エルフの貴族流に怒ったら負けの根比べに持っていってやった。」

「グウェイン殿。貴族が嫌いでしょうに。」

「俺の一番嫌いなものがバレたか。だが、下手に締め付けて隠れてやり始めるのはまずい。」

「重い罰金は良いアイデアかもしれないと思ってましたが。」

「正直ゲームだけを楽しみたいが、皆金をかけないと燃えないのでな。堕落した生臭坊主めがチェスまで金を賭けやがる。」

「折角だから、ゲームとして囲碁を教えたいが、中央大陸からやってきた経緯で貴族だけの遊びでな。俺には心得はないのだ。」

将棋は犬士の遊びであり、ゴブリンの間では彼らを救った逸話と共に一時期流行ったが、ルールがチェスより煩雑で裏表ある駒を一々作らないといけないため、ゴブリンの間でもルールを知っててさせることはさせるのだが、オーナやグウェイン以外将棋を指すものが居なくなってしまった。

「時にウズマサ殿。賭け将棋をこっそり一局。」

「待ったなしで頼みますよ。」

当分賭け事はぬけないらしかった。

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