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犬豪伝〜ミナモトノウズマサ異聞録〜  作者: 星一悟
第二幕 西方世界編
43/81

吟遊詩人の歌〜吼えよウズマサ〜

ステフとマグ、ダンキチは、朝追い出された事でハンフリーの悪口大会になっていた。


宿についたウズマサを迎えたが、ウズマサがハンフリーの息子と会ったこと、武運を祈る友よと言われた話をしたら、皆で驚いた。


「流石オラの御主人様だ。あの腹黒そうな奴相手にそこまで言われるなんて、オラでは考えも及びません。」

ダンキチは使用人から貰った固いパンを、他の二人同様に水につけてふやかして食べた。

「正に、隊長殿はカリスマですな。」

ステフは朝、ついボロを出して自分の借金の話をしてしまい、貧乏貴族はこの家を二度と跨ぐなと強く追い返されていた。

「貴族が皆あの調子では、オーナ様の身を案じるゴブ。」

マグもまた、使用人から追い出され、その様をハンフリーが冷たい眼でじっと見ていた姿を思い出し、ぞっとしていた。


「人質が魔王軍から連合軍に変わるだけかも知れないゴブ。それだけは許せない。」

ウズマサ以外はため息と共に頷いた。

「同感だ。リファールに首長の身柄をあずけるには、危険が多すぎる。隊でこのままあずかった方が良い。」

ステフが首を振る。

「議会という合議場で、投票とやらで決めるのを誇っていたな。民主主義とかいったか。女王自身の上からの命令で動くのではないのか?」ウズマサはステフに尋ねた。

「ああ、女王陛下は議会で決めたことを命令なさるだけです。といっても、身分が上の者だけで決めているから、下々の者は上からの命令と大して変わりはありません。先のモンテンノーザの大戦で活躍し土地を得た子孫が大貴族となり、それから600年経って、いざこざの末こういう政治スタイルになりました。」

「政治スタイルか。フジワラ家を代表に政治中枢である帝様の摂政関白を独占したように、貴族の合議は独占を生まないか?」

高度な政治の話が出てきて、阿島の文化水準と知能の高さにステフは驚いた。

「確かに。今はカール・R・ベルジックという男が実質議長としてリファールでは半ば独裁状態が続いている。」

「国王でも皇帝でも自ら動けば、その責任をとらざるを得なくなり、最悪死を選ばされる事になりかねない。死にたくない責任をとりたくない一つの方策として、政治のできる能力のある人々に責任を負って貰うことで、自分の労力や責任というものを分散させるシステムとやらは、自分で政治したい者を除けば、どこにでもあるようだな。その中で政治家とやらは、逆に権力だけ握って帝でも女王でも権威をかさに着ることで、間違った政治をしても命令していた権威者が悪いなどと吹聴したいのだろう。」

ウズマサが、阿島で護衛した貴族の事をふと思い出し、権力権威論を披露すると、ステフは成程、と鼻息を漏らした。ちなみに、マグとダンキチは頭に?がついた。

「首長が一番偉いゴブ。部族に一人だけ偉い人がいて、部族が違えば首長同士の話し合い(ゴングリノミコ)で決めるのは普通ゴブ。首長以外で首長に口出しなどしないゴブ。首長が一人になり、神聖な司令のネックレスがあるのに逆らうコブリンなど、この世にいないと思いますよ。」この話題にマグが訛りながら見解を示した。オーナに仕える戦士としての意見だ。

「オラみたいな下々の者には、お上のことなど分かりません。(まつりごと)の話までなさって、御主人様はお上の者になりたいようだ。」ダンキチは西方世界で立身出世でも目指すのかウズマサに聞こうとした。

「まさか。貴族に招待されて、興味が沸いただけだ。」ウズマサは片頬を緩めた。


どこで調べたのか、滞在する宿屋へ使者ごしにハンフリーが契約書なるものを送ってきた。

ウズマサは使いから契約書にサインをねだられ、これがサインだと花押をスラスラと書くと、使いは異文化に触れた顔で屋敷に帰った。


リファールからの成果をもって、ミモザに帰る。野盗も出る道中の安全の為にと、行きには居なかった護衛の傭兵エルフをハンフリーが二人雇ったのを連れての旅路となった。


傭兵が西方世界で徐々に幅をきかせていた。

宿屋も酒場も売春宿も、荒くれ者の傭兵の為に栄えた。彼らは自らを冒険者と呼び、偽名を名乗り貴族の名前で呼ばれることが流行った。力強きマーティンや泣きぼくろステファンなど吟遊詩人の定番ネタである。その中に、吼えよウズマサという曲が入りつつあった。


吼えよ ウズマサ 雄々しく強く 敵将ハイオーガの首を 皆討ち取りて進め 噛めよ ウズマサ 魔王の首を 喉笛食い千切り 平和もたらすまで


こんな調子であり、吟遊詩人の活躍する、主にミモザ近くの都市や村々に浸透しつつあった。

浸透した所で、ウズマサ達遊撃隊に向かってエルフからもゴブリンからも畑から手を振って応援する姿も散見された。


「歌われる様にもなって英雄の仲間入りですな、ウズマサ殿」うつ病から復帰しつつあったドンウクはウズマサと同じく馬上からウズマサに嫉妬した。だが、ドンウクと虎族達は西方世界に残ることなど考えて無かった。移動魔法陣に魔力が溜まって虎国に帰れるなら帰ろうとしたのである。

「隊長を譲りますので、ここに延々残りますか?ドンウク殿。」

「まさか。勘弁して下さい。死ぬならば、シウォン王子のお側が良いと思ったまで。残るといえば、この地に残る部下の一人が種を超えてエルフと愛し合い、今度結婚することになりましてな。」

「結婚…。」虎族の愛の不時着に思わず祝福の言葉を忘れた。

「お、おめでとうございます。目出度い話だ。結婚式などなさるので?」

「勿論ですよ。部下の相手は家族を魔王軍に奪われた身寄りの無い農民の娘だそうで、パク・ヒョンビンの性をうけて、パク・イソベルになるそうです。帰るとき、彼に手向けとして翻訳機を渡すつもりです。今後はティリウス将軍の命により、彼が派兵で来た猿兵の引受けと指導をやる事になりました。僧侶の薦めもあって、西方世界にあるエルフの書物経由で、中央大陸の言語を必死で勉強してますよ。こうなるようにあれこれ画策してくれた、我々の後ろ楯をしてくれるダービー伯の腕は確かなようですな。」ドンウクは部下の結婚を心から喜んでいた。

「猿族の兵を虎族のサホダが率いる。これだけで私は溜飲が下がりますよ。対等外交を目指されているシウォン様にこの事をお伝えしたい。」

「是非、お伝えになって下さい。」ウズマサとドンウクは別れが近いが微笑みあった。


ミモザから先は、混成部隊の破竹の勢いは一旦止まった。だが、オーナのカリスマもあってゴブリンの兵と兵糧が集まり、戦線は膠着しながらも、遊撃隊と正規軍とを合わせ、じりじりと魔王軍を押してはいた。ウズマサは自らの家の流派開祖ヤクマルイッシンと同じく果敢に前線に立ったが、それでも魔王軍主力部隊のハイウルグが障害になった。弓が下手とはいえ、一斉に矢雨を降らせ、長槍衾ながやりぶすまで向かってくる敵に勢いでは勝てず、戦場に置き盾を並べ、ゴブリンの突撃兵は盾と槍持ちが増えた。


トランザやダグザに近い地域以外、平地エルフに利用されまいとしてきたディナシーの騎士たちがついに重い腰をあげ、遊撃隊に次々に加わった。

平原の戦いでは、エルフを主軸とした弓合戦し、次にディナシーが霊馬に乗り空からランスで突撃、短弓とダイヤウルフで更に撹乱、最後に盾と槍を構えたゴブリンが数と勢いにまかせファランクスに類似した陣形で行進し、獣人が深く切り込んでとどめを刺すという構図は、エルフしか兵として信用しない正規軍とは一線を画した。


傭兵もとい冒険者達がそこに加わった。

派手な鎧に身をつつみ、喧嘩用(カッツバルゲル)と言われる剣やフランベルジュの大剣、グレイブや鍵槍などを持つ傭兵部隊が、まずダービー伯の雇われで来た。彼らは接近戦に強く、正規軍でも金貨と引き換えに活躍をみせていた。

グウェインは傭兵と聞くと眉をひそめたが、彼らの戦場での活躍に納得した。

次々に冒険者が手柄欲しさに現れた。武装した難民までこの流れに加わり、遊撃隊は増えていった。


忙しくしている内に魔力が溜まり、また魔法陣で移動可能になった。


「誇るべき部下のパク・ヒョンビンをリーダーとして、ここでの戦いを譲って戦線離脱するのは心苦しいが、故郷のこともある。獣人の英雄となったチング(友)、ウズマサ殿に後と全てを託し、別れの挨拶としたい。乾杯!」ドンウクは乾杯の音頭をとった。

皆、ワインやビールや沸かした水を木のジョッキで手に手にとった。別れの宴会を催したのである。

来たのと同じリファールの大魔法陣で帰るのだが、戦線が拡大していたため、帰るタイミングを失う所だった。ついでに、合議をとった結果、朝廷への報告と兵の拡充を願って全ての犬士は阿島に帰ることになった。阿島の兵は犬豪ウズマサと、ダンキチのみに決まった。


皆でジョッキの中のものを飲み干すと、夜の大きな篝火の下で盛大に別れの演芸が始まった。

円を描いた的めがけて、酒を巡って射的大会が始まったり、内々の結婚式で見せた虎族の剣の花舞が披露されたり、とっておきの豚の丸焼きやローストビーフ、胡椒の入った大きなソーセージなど数々の肉のご馳走を皆で分け合ったりした。

酔ったウズマサは、的と明後日の方向に飛んでいく矢を皆で笑われてしまったが、そんな自分さえ笑い飛ばし不思議と気分が良かった。ヒョンビンの結婚式は神聖な雰囲気をだしていたが、別れの会は刹那的でも楽しく面白く明るかった。

ダンキチの巧妙に股間を隠す裸踊りは僧侶戦士まで爆笑ものだったし、吟遊詩人の英雄歌が流れた時、ウズマサが名前のところをドンウクにかえて歌った時は激情家のドンウクは涙を流しし手を叩いて喜んだ。

吼えよウズマサは遊撃隊のテーマソングの様に広がっていた。最後は吟遊詩人まで肩を組んで吼えよウズマサを歌い、ベロンベロンに酔った傭兵同士のいつも通りの喧嘩に、仲裁のように入ったウズマサが柔技で二人共倒してしまう一幕には、強いやつは誰か選手権が始まり、傭兵隊長とウズマサの殴り合いになった。


「俺は隊長に銀貨2枚かけるぜ!」「おれは銀貨10枚をダニエルにだ!」

「はいはい。僧侶の誰か胴元頼むゴブ。」「オッズ幾つだ!計算できるやつ!坊主!坊主!」

「私が神の名において賭け金をあずかろう!オッズ計算はグウェイン殿お願いできますかな?」「応!任された!ついでに隊長に銀貨5枚だ!」

「御主人様が勝つに決まってるだろ!御主人様に金貨1枚と銅貨だ!」

「チングに金貨5枚だ!」「マジか!ドンウクは掛けすぎだろ!帰る前に素寒貧すかんぴんになりたいのか!?」

「俺は…ええい、傭兵がドンウクに負けるか!ダニエルにこれだけ全部だ!」「俺の全財産銅貨一枚を隊長にかける!」

「しぶいと思われるのは心外でござる!犬豪殿に銀貨10枚!」

臨時の賭場ができ、熱くなった兵士達が皆賭けた。僧侶の文字の練習用の羊皮紙が豪快に破かれ、UまたはDと金額が書かれた賭け紙が配られる。


銅貨や銀貨を多目に賭けるもの、金貨を豪快にかけるもの、数学に強いグウェインが金額を大まかでも地面に書きながら更新を喋り、賭け金の一部を羊皮紙代と教会への寄付せしめようと、胴元の僧侶が金をあずかる。


傭兵を率いる隊長格のマッスルダニーことダニエルはウズマサより遥かに背も高く身体も大きく筋骨隆々としていた。

「隊長〜、始めたのはあんただからな。どうなっても構わないよな?」暗い茶髪のダニーが指を鳴らし、軽く拳をふる。

「酔いが覚めたが、血が昂ぶるのでな、今宵の俺は血に飢えてるぜ!」骨法の様な手刀の構えをみせながら、ウズマサが人の輪でニヤリと笑う。

「よし、どっちも武器は持ってないな!両者素手で戦えよ!」レフリーのエルフがどこからともなく現れた。


「ファイッ」


オオオオオオ!

行けぇ!やれぇぇ!


両者とも構えからジリジリ接近し、拳の制空圏に入った。

「ッシ!」ダニーの喧嘩ジャブをウズマサがかわす。

「シッシッ!」ウズマサは次のストレートをはたくと、ボディブローも手でそらす。

「ふっ!」ウズマサは突き上げる掌底でダニーの顎を狙った。ダニーは掌底を左腕で受け、体格差を利用しウズマサを上から連打して殴りつけてきた。

ウズマサは体を右に左に足運びしていなしつつ、前蹴りしてきたダニーの脚を掴むと、右手で頭と胸に思い切り手刀を見舞った。

「うおっ」体勢を崩したダニーの服を掴んで、ウズマサは綺麗に背負い投げした。

素手で敵を制する柔技は、そのまま短刀での組討で敵を殺す技術に繋がる。(やわら)はトダチュウジョウ流の小太刀の技を学ぶ過程で重点的に習った。

レスリングの技は知っているが、柔の技を知らないダニーは受け身をとれず、思い切り地面に叩きつけられた。

「!」息ができなくなったダニーの襟を両手で掴んで絞め技に入った。

落・と・せ! 落・と・せ!

興奮したダンキチの声に合わせて、ウズマサに賭けた兵士が腕を挙げ同じ声援を送る。

「ぐうううぅ。…。」ダニーは首の血管をしめられて、負けたと言った後気絶した。

わあぁああああ!!

ダニエルに賭けて頭を抱えるものたちを尻目に、皆で隊長を胴上げした。


「おいチング。思い切りよく賭けたつもりが、部下の結婚式の費用まで賭けで戻ってきそうだ!いい戦いだったぞ!」ドンウクは今日一番の笑顔だった。

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